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学寮生活に慣れ始め、ヒノトは、リゲルと共に行動、昼休みなどは、グラムが混ざり、それが当たり前のような日常を過ごしていた。
そんな慣れ始めた頃に起こる問題が『イジメ』だった。
「おい魔族! 魔族が人間様の領土に入ってきてんじゃねぇよ!!」
「アイツら……また……!」
ヒノトはスッと立ち上がると、同じクラスの魔王の娘の元に駆け寄り、イジメ連中を睨む。
イジメ連中は、何故かヒノトを見ると何も言わずに黙って去って行っていた。
「また……Aクラスの奴らか……?」
不安気な顔で、リゲルも出てくる。
魔王の娘がイジメに遭う場所は、決まって渡り廊下から階下に庭が広がる場所だった。
Aクラスは、唯一人が選抜されるクラスで、王子レオを含めた、貴族以上の生徒が在籍していた。
「お前さ……そろそろココ来るのやめろよ……」
ヒノトも、既に何度も声を掛けているが、
「やはりな……」
リゲルは溜息を溢す。
イジメを何度か助けていると言うのに、未だ、ヒノトは彼女の声すら聞いたことがなかった。
「もうヒノトがあの子を助けないことに関しては口出しをしないが……こんなのずっと続けられないぞ……。顔も覚えてるし、Aクラスに直接行くか?」
リゲルも、こんな性格柄、イジメ問題に関してはかなり腹を立てているようだった。
Aクラスと他クラスで分けられているのは、差別的なことではなく、純粋に、貴族以上の血を引いている子供と、魔力量での差が生まれる為の計らいだった。
魔王が討伐されて以降、世の中の差別問題は消えた。
貴族だからと、威張る者はいない。
その為、逆を言えば、国々から害がないと認められた魔王の娘だって、このように生活ができる。
しかし、ヒノトは魔王の娘が去った後を見つめながら溢した。
「いや……直談判はやめよう。実際に、魔族に苦しめられたのは、貴族以上の奴らだ。魔族軍との戦争に駆り出されて、親を亡くした奴だって少なくないと思う……」
「ヒノト……だからって……!」
「ああ……だからって、あの子がそれを責められるなんて謂れはない……。だから、一緒に考えていかなきゃいけない問題だと思う……」
ヒノトの言葉に、リゲルは絶句し、同時に、とてつもない劣等感に苛まれていた。
――
帰りのホームルームが終わると、ヒノトは「レポート! 先生に呼ばれてんだった!」と言い、駆け足で職員室へと向かった。
魔王の娘は、誰よりも早く、自室へと向かう。
わざわざ、必要のない階段を登り、この時間帯に全く人のいない渡り廊下から、寮へと向かう。
そして、ベランダの階段から、寮へと入る。
しかし、そんなルーティーンと化した隙のない帰路で、初めて声を掛けられた。
「よう。確か先生から、“リリム” って呼ばれてたよな。先生からは、あまり指名しないようお願いしてあるのか?」
リリムの前に現れたのは、リゲルだった。
驚いたリリムは、グッと口を閉じ、身体を強張らせてリゲルを睨んだ。
「もう “ソレ” 意味ないから。ヒノトは諦めないよ」
その言葉に、緊張混じりに笑みを浮かべると、リリムは初めて言葉を返した。
「そうね……。あんなにしつこい人……初めて……」
口を聞いてくれると思っていなかったリゲルは、拍子抜けしたような顔でリリムに近付いた。
「ヒノトは、何も考えないで、脊髄で動いているんだと思ってた。『勇者になりたいから』ってな……。でも、アイツはちゃんと考えてた。だからこそ、そう言い張っているんだと思い知らされたよ……」
「二人とも……もう私に話し掛けるのはやめて……」
「 “魔王の娘” だからか……?」
少しの静寂が、二人の間を巡る。
その間、リゲルはジッとリリムを見つめた。
「そうよ……。私みたいな魔族……いや、魔王の実の娘なんて……誰のことも幸せにできないから……」
「そうかも知れないな。でも、お前の存在は国々が許可をした。認められた。人権を与えられた存在だ。これだけは言っておくが、自分からそれを捨てようとするな。ヒノトは……諦めない」
そして、リゲルは壁を眺めた。
「それでも私は……こんな私を肯定できない……!」
そう言うと、リリムは涙ぐんでその場を去って行った。
その場で、リゲルは暫く、壁にもたれ掛かっていた。
――
翌朝、ヒノトが登校すると、一人の男により、クラスは騒然とさせられていた。
「どうしたんだ?」
「あれ見て……」
一人の女子が、窓辺から外を眺める金髪の男を指差す。
背丈は長身で、少しだけ大人びた雰囲気の男だった。
「なんだ? 転入生とかか?」
「違うわよ! あの人……三年生で、王子様のリオン・キルロンド様よ……。なんでここに居るのか分からないんだけど……」
「レオの兄貴か!? でもなんか、みんな避けてない?」
リオン・キルロンドは、レオとは違い、偉そうな雰囲気はなく、むしろ爽やかで女子ウケしそうな容姿だが、男子はおろか女子までもが近付こうとしていなかった。
ヒノトの耳元で、囁くように答える。
「実はあの人……自分の王族の権限を使って、やたらめったらに女の子を口説いてるらしいの……」
「へぇ、レオとは正反対なタイプだな」
そんな中、反対側の扉から、リリムが登校する。
その瞬間、ピクリとリオンは動き出し、リリムに向かって両手を広げて満面のドヤ顔を見せつけた。
「やあ、麗しき僕のお姫様! この王子、リオン・キルロンドが、貴女を正式に迎えに来たよ!」
辺りは呆然と静寂に包まれ、リリムもいつもの如く無視を決め込んで何事も無いように着席した。
しかし、リオンは王である。
「さあ、連れて行け」
そう言うと、国の兵士だと思われる数人の男に囲まれ、リリムは成す術もなく教室から連れ出された。
「ちょ、ちょっと待てよ!!」
「君は……?」
やはり、飛び出したのはヒノトだった。
「アイツ、嫌がってただろ! それにこれから授業だってあるし……王子だからって何考えてんだ!」
「ふーむ。僕は上級生で、しかも王子だ。口の聞き方はもう少し気をつけた方がいいんじゃないかい?」
何も悪びれた様子もなく、レオンは言葉を返す。
「ふふ、“魔王の娘” として、今まで彼女は無碍に扱われてきたのだろう。大丈夫、彼女はこれから、僕の妻となり、王城の中で何不自由なく暮らすのさ!」
そう言うと、リオンは笑いながら出て行った。
「おい、ヒノト……」
途中から見ていたリゲルも、不安気にヒノトに近付く。
「今回は……流石に……」
「助けに行く……」
「まさか……」
「ああ、”王城” だ!!」
行き急ぐヒノトを、リゲルは肩を掴んで静止させる。
「止めんなよ、リゲル。俺はやっぱ、王子ってのは気に入らねえ……。ラグナおじちゃんに話せば、リオンの暴走も止められるかも知れねぇし……」
リゲルは俯いたまま、無言で肩を強く掴んでいた。
そして、事切れたかのように、手を外す。
「俺も連れて行ってくれ」
「は……? 国王と知り合いだからっつっても、王城に殴り込みに行くんだぞ……? 俺は知り合いだからまだ許されるかも知んねぇけど、リゲルは……」
しかし、リゲルはヒノトの話を遮る。
「俺と……グラムも連れて行ってくれ。今、国王は隣国の国王会議に参加しているから、お前の後ろ盾はいない。必ず兵士たちが止める。お前一人じゃ……流石に戦えないだろ……!」
「でも……二人を巻き込むなんて……」
「俺だって彼女を助けたい……。グラムだって、これからヒノトのパーティメンバーだ。ヒノトの無責任な行動で、これから集まるメンバーにだって迷惑が掛かることもある。今のこの状況すら一緒に乗り越えられないんじゃ、これからのブレイバーゲームに参加なんて……無理だろ……」
リゲルの鋭い眼差しに、ヒノトは言葉を失った。
――
リリム・サトゥヌシア
*魔王の娘。真っ黒な髪を持つ魔族の少女。
*王子リオン・キルロンドが自身の妻にすると、突如王城に連れ去ってしまう。