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「嫌な予感に限って高確率で当たるのだからうんざりするな」
「はい。でも、ようやく事件の背後にいる人物が明らかになりそうじゃないですか。これは私たちにとって歓迎すべきことですよ」
「……ク、いやラリー。お前本当に強くなったな。出会った頃とは別人じゃないか」
「そんなことはありません。強がっているだけですよ。内心は恐ろしくてたまらないのです。ルーイ先生たちが側にいてくれるから、かろうじて立っていられるのです」
「それをちゃんと口に出して言えるようになっただけでも大きな進歩だよ」
ルーイ様の言葉に私は笑顔で頷いた。私には頼もしい仲間たちがついている。だから、ひとりで立ち向かう必要はないのだ。襲いかかる恐怖にも皆がいるから耐えられる。
「さて、それじゃあ……その予言者様とやらがどんなツラなのか教えて貰うとするか。ネル、そしてティナ。予言者について君たちが知っている事を全て話せ」
ネルとティナは予言者と実際に接触している。最低でも性別、おおよその年齢……容姿の特徴などは判明するはずだ。全く情報が無く、存在すらあやふやだった状態から大きく前進だ。見た目さえ分かれば警戒もしやすくなる。
「……はい。えっと、予言者様は……」
ルーイ様の質問にネルが答えようとする。私とルーイ様は固唾を呑んで見守った。しかし、ネルの様子が徐々におかしくなっていく。
「予言者様は……あれ? うん? えっ……」
ネルも自分の身に起きたことに酷く困惑している。彼女の口はパクパクと忙しなく動いているのに声が出ていないのだ。
「ネル、大丈夫? 私が代わりに話そうか?」
「うん。ごめんね、ティナ。私……緊張したのかな。言葉が上手く出なくて。頭もなんだかぼんやりするの」
「私たちも一度にたくさん聞きすぎましたね。ゆっくりでいいですから……」
私はネルを少しでも落ち着かせるため、彼女の背中を摩ってあげた。ネルは緊張のせいだと言っているけど、本当にそうなのだろうか。何とも言い難い違和感を覚えつつも、ティナがネルの代わりを務めてくれるそうなので、私たちは彼女の言葉を待った。
「私から見た予言者様は…………」
「ティナさん?」
ティナも予言者について話を始めたが、途中でそれを止めてしまった。まさか彼女も……?
ティナは自身の口元を抑えた。瞳は見開かれ、驚愕の表情を浮かべている。ネルの時と同じ……喋ろうとしているのに声が出ないのだ。
ネルとティナの異変に対してルーイ様が行動を起こした。彼はティナと向かい合うように正面側に移動すると、真剣な面持ちで彼女に語りかける。
「……ティナ」
「はい……」
「今はちゃんと声が出るな。俺と助手の名前覚えてる?」
「ルーイさんと、ラリーさん……」
「よし、今から俺が質問するから『はい』か『いいえ』で答えろ。分からないなら『知らない』でいい」
「はい」
ルーイ様がティナと話をしている間、私はもう一度周囲を見渡した。特におかしな所はないと思う。怪しい人物もいない。もしそんなものがいたらクラヴェル兄弟が見逃しているはずがない。
ネルとティナの身に起こった不可思議な現象。もしかして魔法? いや、リアン大聖堂では魔法が制限されていたはずだ。特に人に危害を加えるようなものは御法度だ。それじゃあ、これは一体――
「ティナとネルはふた月ほど前に、予言者に命を助けられたと言っていたね。その時に相手の顔は見た?」
「はい」
「それは男?」
「…………」
「それじゃあ、女かな」
「…………」
「なるほど……年齢はどうだったのかな。若者か老人か……もしかして君たちと同じくらいの子供?」
「…………」
「予言者とした会話の内容は覚えている?」
「はい」
「予言者……というのは、そいつが自分からそう名乗ったのかな?」
「いいえ」
ルーイ様はティナに短い質問をいくつか投げかける。彼女はそれに答えようとしてくれているが、質問の内容によって声が出なくなるという奇妙な現象に苛まれている。
「どうやら、予言者の見た目……正体に触れる問い掛けには答えられなくされてるみたいだね」
その後もいくつか質問を繰り返してルーイ様が出した結論。ネルとティナの意思とは無関係に、言葉と思考が制限されているというのだ。
「不思議なんです。予言者様とは間違いなく直接会って話をしているはずなのに……改めてあの方の身なりを思い浮かべようとすると、頭の中が濃い霧に包まれたみたいに真っ白になってしまうんです」
「私もティナと同じです。会話の内容は記憶してます。でも、予言者様の声が思い出せない」
「ルーイ先生……予言者は彼女たちの体に何か細工を? ふたりはこのままで大丈夫なんでしょうか」
「うーん……詳しく調べてみないことには何とも言えんが、おそらく催眠術の一種じゃないかと思う」
催眠術……聞いたことがある。暗示をかけて相手の精神を操作することができるのだと……
ネルとティナはその催眠術がかけられている状態で、予言者の正体については答えられなくされているらしい。でも、催眠術は魔法とは違う。そこまで強い強制力は無いはずだけど……
「ラリーさんよ。想像以上にヤバい相手かもしれんぞ。その予言者様とやらは……」
『予定変更だ』ルーイ様はそう呟くと、左手をあげた。
#ファンタジー