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魚竜のゾンビか。
元となった魚竜そのものも含め、教本に載っていなかった魔物だ。
「ドラゴンゾンビの一種ですか?」
ジョンの質問に、クリスタさんは首を横に振る。
「フィッシュドラゴンはドラゴンとは別種です。種として近いのはワイバーンでしょうか」
ワイバーンは飛龍なんて呼ばれるが、いわゆるドラゴンとは別種の魔物だ。
しかし強力なことは間違いない。
そのワイバーンと近い種というと……
「かなり強力な魔物と見ていいですか」
「ええ。水中で戦うのは自殺行為でしょう。ですが水中から外に出ることは、まずないと思われます。元となった魚竜も、陸上へ出ることはほとんどない魔物ですから」
「なら魔法で戦うか、水を抜くかしないと駄目かニャ」
ミーニャさんの言うとおりだ。
矢や投げ槍では、水中の敵は倒せないだろう。
それなら水を抜くか、水中に効果がある魔法を使うしかない。
「ええ。ですが水を抜くのは難しそうです。この水は、この付近を流れている地下水脈と繋がっています。ですから周囲の地下水脈をすべて塞いだ上で、ここにある水を無くさなければなりません」
「ちょっとばかり大工事になるかニャ」
ちょっとではない大工事だ。
この空間の周囲を防水層で囲むのだから。
「魔法で流れている水を閉じ込めることは出来ないですか?」
「ここの水中部分は、魚竜ゾンビの魔力で防御されています。ですので、こちらからの魔法が通りません」
クリスタさんはジョンの質問に首を横に振る。
そう、無理なのだ。
「エイダンの雷撃魔法は効き目ないかニャ」
これは俺が答えるべきだろう。
「多分ほとんど効きません。敵が水中にいる場合、敵に雷撃が届く前に、威力が水中へと分散してしまいますから。雷撃を本体に直接当てることが出来たら、別ですけれど」
――ん?
何かが閃きかけた。
俺は自分の言葉を、頭の中でもう一度なぞる。
『多分ほとんど効きません。敵が水中にいる場合、敵に雷撃が届く前に、威力が水中へと分散してしまいますから。雷撃を本体に直接当てることが出来たら、別ですけれど』
そうだ。
直接当てることが出来るなら、倒せる可能性がある。
そして相手は魚竜ゾンビ。つまり魚のようなものだ。
ならば、倒す――少なくとも電撃魔法を直撃させる手段はある。
「クリスタさん。少し準備が必要ですが、あの魔物を倒せるかもしれない方法があります。協力していただけますでしょうか」
「わかりました。私の手持ちの魔法では、おそらく無理ですので、協力しましょう」
「クリスタの魔力で凍らせるのは出来ないのかニャ」
おっと、その手もあるのか。
しかしクリスタさんは首を横に振る。
「何もない状況で、この量の水でしたら、全面的に凍らせることは可能でしょう。ですが、あの魚竜ゾンビの魔力が、周囲の水に溶け込んでいます。ですからこの場合、魚竜ゾンビの動きを妨げられるほどに凍らせるのは、無理と判断します」
ならやはり、俺が考えた方法くらいしか無さそうだ。
「それではまず、こちらの安全地帯を作ります。水のあるところから50cm以上手前側の土を乾燥させて、更に焼き締めることは可能でしょうか」
「乾燥させるのは私の魔法で可能です。ただ、焼き締めるのは少し難しいかと思います」
なら……。
だが、取りあえずお願いするか。
「わかりました。それでは乾燥だけお願いしてもいいでしょうか」
「わかりました」
その返答と同時に、手前側の地面の色が、さっと白っぽく変化した。
手に取って少量を魔法収納に入れ、確認してみる。
うん。
絶縁性はそこそこ高い。
水がしみ込まなければ、大丈夫だろう。
「それでは左側の奥、ぎりぎりに移動してください。ただし壁には触らないように。少し危険な魔法を使うので、俺から離れた方が安全ですから」
「わかりました」
皆が離れていくのを確認しつつ、俺は高熱魔法を使う。
皆が離れた方向とは反対側に、素焼き状態になった部分が出来た。
これも絶縁のためだ。
短時間なら、乾かした土と素焼き状態の土で何とかなるだろう。
それでは勝負だ。
俺は今回使う武器を、魔法収納の中で確認する。
武器とは、全長290cmほどのリール竿に、シマノ二五〇〇番台相当のスピニングリール、そして小魚を模したルアーが付いた仕掛け。
糸は、木炭魔法加工物質細密管だ。
この糸なら、どれだけ引いても切れる可能性は少ない上、導電率が高い。
つまり、今回の目的に最適の糸だ。
ただしルアーは大型のものに交換しておこう。
ルアーに付けている針も、大きいものにする。
これでいい。
俺は仕掛けを魔法収納から取り出し、手に持つ。
竿を横に構え、洞窟奥の壁に向かってルアーを投げた。
ルアーが、奥の壁ぎりぎり手前で着水。
俺はリールのアームを戻し、ハンドルを回す。
魚竜ゾンビの視界に入るよう、それでいてある程度浅い場所を通るよう、竿を動かしながら。
魚竜ゾンビが動き出した。
ルアーを追いかけてくる。
ならば、ということで、巻く速度をあえて上げ、ルアーをさらに浅い場所へと移動させる。
魚竜ゾンビは、さらに加速。
そしてルアーに下から食いつき、その勢いのまま水上に跳ねた。
今だ!
『電撃魔法!』
電撃が、糸、竿、俺、そしてルアーを咥えた魚竜ゾンビへと襲いかかる。
俺の足元は絶縁されている。
だから電撃は、俺の身体を流れない。
それでも若干のダメージはあるが、防護魔法を同時発動すれば、何とか誤魔化せる。
糸を通じて流れた電撃は、電流として地へと伝わるルートを探す。
出来る限り、導電率の高い部位を求めて。
俺の側には流れない。
しかし魚竜ゾンビは、水に濡れていて比較的電流が通りやすい。
水中も、完全に乾燥させた土や空気より、電気抵抗が小さい。
――激しい爆発音。
大電流が流れた結果、瞬間的に高温となり、爆発するように蒸発した水の音だ。
魚竜ゾンビの魔力が、みるみるうちに落ちていく。
それでも活動停止しないところは流石だが、ここまで弱体化したなら問題ない。
俺は身体強化魔法を使い、竿を上げつつリールを巻いて、魚竜ゾンビを岸まで引き上げた。
ざっと見たところ、危険な電荷を帯びている箇所はない。
今の爆発あたりで、電流として流れきってしまったようだ。
触れても問題はない。
ならば、ここから先は俺より、この人の方が適切だろう。
「ミーニャさん、あとはお願いします」
「了解なのニャ!」
ミーニャさんがダッシュし、岸の上で弱々しく動く魚竜ゾンビの頭骨を、斧で叩き割った。
残った魚竜ゾンビの魔力が、四散していく。
「終わりですね。珍しい魔物ですので、エイダンさんが丸ごと収納していただけますか」
「わかりました」
触れると、あっさりと魔法収納に収納された。
討伐、完了だ。
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