SILENT HILL f × SnowMan 合同作品
【この町を汚したのはだぁれ。】
STORY
山々に囲まれた田舎町・戎ヶ丘。 寂れゆく町で、学生の阿部亮平は行き場のない思いを抱えていた。その日の朝、亮平は父親と口論になり、母の制止も聞かずに外に飛び出した。いつもは薄い霧と朝の喧噪に包まれた町からは何故か一切の音が消えていた。奇妙に思いつつも行きつけの駄菓子屋で同級生たちと合流し、他愛ない話に興じる。閉塞感はあるものの、それはいつもの日常のはずだった。
その化け物が現れるまでは───。
⚠️3000文字以上
死ぬほど長いです
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Prolog
?)そっちにいったぞ!
?)逃がすなよ!
?)捕まえろ!
棒切れを持って男の子たちが大はしゃぎで追いかけているのは、野良犬でも野良猫でもなく、まだ小さな狐だ。かわいそうに親とはぐれ、山から町へと迷い込んできたところを見つかっていい遊び道具になってしまったのだ。
小さな獣にとって人間の子供は怪物だ。大人より小さいのに、大人より乱暴で残酷だ。無邪気というが純粋な悪意を持ち、捕らえたものは遊び道具にし、飽きたら干乾びるまで籠に閉じ込めておく癖がある。
きまぐれに翅をちぎり、脚を引き抜いて、命を分解してみせる。強い好奇心により平気で禁忌を犯し、破壊に遠慮を知らず、遊戯に秩序がない。とりわけ、ガキ大将と称される悪童は集団を作るので危険だ。彼らは地面の砂が跳ね上がるほどの足音を轟かせ、自分より小さく弱いものを嬉々として集団で追い回す習性がある。
必死に路地を駆ける子狐は、走り慣れぬ地面に幾度も脚をすべらせ、転がりながら砂だらけになって逃げた。山の柔らかい土と違って靴やタイヤに踏み固められた町の地面は、子狐の脚を容赦なく傷つけた。
路地を抜けた子狐は一瞬迷って左へ進路を取り、そのまま公園に飛び込んだ。
砂場に女の子たちがいるが、おままごとをしていて気づかない。その横を駆け抜けた子狐は、すべり台の陰に身を潜めた。
女の子たちは大人ぶった口調で家族を演じている。ちゃぶ台を模した木箱の上には金魚の描かれたブリキの皿と泥団子、砂を詰めたパイン缶。フラフープの輪の中には赤ちゃんの人形が寝かされている。
?)どこにいった!
?)隠れたんだ!
?)絶対見つけろよ!
公園に駆け込んできた男の子たちは大騒ぎで棒を振り回しだす。
小さくなって震えている子狐は男の子の一人と目が合った。おままごとをしている子たちではなく、公園に積まれた土管の上でぽつんと一人で腰掛けている男の子だ。
?)いたぞ!
すぐそばで声がし、子狐は顔を伏せてさらに小さくなる。
?)そっちからまわりこめ!
袋のねずみだ!
?)観念するんだな!
時代劇で覚えたセリフを放ちながら棒切れを構える男の子たち。
おままごと組がようやく、すべり台の陰に隠れる子狐に気づく。
?)なにしてんの、やめなよ
?)そうよ、かわいそうでしょ
非難の声があがると、男の子の一人が棒切れで地面を叩いた。
?)うるせぇ!女は黙ってろ!
びくっと肩を震わせ、女の子たちの表情が強張る。他の男の子たちも棒切れで地面やブランコの支柱を叩くと、おままごとの道具を抱えて公園から出ていった。
男の子たちはすべり台を取り囲む。
?)よし、おまえいけ
?)えっ、ぼく?
唐突に命じられた男の子は、この一味の中で一人だけ浮いていた。細くて色白で、棒切れを構える手がずっと震えている。まだ新入りだというのもあるが、こんな遊びには慣れていないのだ。あんなに走ったのも運動会以来かもしれない。着ている服も小綺麗で、ここにいる誰よりもひざ小僧が真っ白できれいなのは、彼が地面に転んだことがない証だ。
?)ヘマしたら、ただじゃおかないぞ
肘で軽く小突かれただけで蹌踉つく男の子は、ぎこちなく頷くと汗ばんだ手で棒切れを構えなおす。すべり台の陰から子狐が自分を見上げている。眼光を尖らせ、牙を剝き出し、小さい顔の中に明確な敵意が詰め込まれていた。
わあ、と声を上げ、棒切れを振り下ろそうとした次の瞬間、子狐が飛びかかった。背中から地面に倒れた男の子は、棒切れを放りだすと顔から子狐を剝ぎとろうともがいた。尾でも耳でもめちゃくちゃに摑んでなんとか引き剝がすと、両手で顔を押さえて地面を転がる。指の間からじくじくと赤色が滲み出てくる。
?)わああっ、ち、ちっ、血が出てるぞっ!
さっきまで暴君を振舞っていた男の子は顔を強張らせて叫んだ。
?)おれ、大人呼んでくる!
?)おれも!
皆、逃げるように公園から出ていった。
一人残された男の子は痛みに下唇を嚙みしめて呻いている。自分の顔がどうなっているのか考えたくない。嚙まれたのか、爪で抉られたのか。顔から子狐を引き剝がした時、目の下の皮膚の柔らかい部分に突っ張る感覚があり、古いゴムが千切れるような音がした。心臓が早鐘を打つ音がこわい。手にぬるぬるとした生暖かさが広がっていくのがおそろしい。
?)落ちついて。こわがってるだけだから
近くで男の子の声がした。
指の間から見ると、すぐそばに男の子がいる。土管の上に一人座っていた子だ。
?)こわくない。こわくないよ
子狐に話しかけているのだ。女の子の膝には、血の乾ききっていなち擦り傷がある。
男の子は男の子のほうに顔を向けた。
?)だいじょうぶ?すごい血
?)う、うん
頷き返しながらハンカチを出そうとポケットに手を入れると、目の前に少しクシャッとなったハンカチを差し出される。
?)ありがとう……あっ、でも───
手は血でべっとりだった。男の子はかまわず彼にハンカチを握らせる。
?)大丈夫か!
男の子たちが近くの商店の主人と大人数人を連れて戻ってきた。
?)子供を嚙むなんて許せねぇ。たたっ殺してやる!
?)おい、ひどくやられたな。ほれ、病院に連れてってやる
手を差し出されたが、だいじょうぶです、と男の子は返す。
?)まあ、血も止まっているみたいだが、ちゃんと後で親と病院に行けよ。
?)狐野郎はどこいった?
ハンカチを両手で握りながら、男の子は首を横に振った。
?)ちっ、逃げたか。今度見たら近くの大人に教えるんだぞ。追い回したりするな
みんなが立ち去った後の公園に、怪我をした男の子だけが残される。
?)あの……もう、だいじょうぶです
様子をうかがいながら土管の中から男の子が出てくる。胸に子狐を抱えていた。
?)今のうちにこの子を山に放してこないと
?)あ、あの
すぐ行こうとする女の子を慌てて呼び止める。
?)ぼ、ぼくは、涼太っていいます!君は───
男の子は振り返らずに答えた。
?)ぼくの名前は────
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SILENTHILL fのネタバレを含みます。
まだ見ていていない方はご遠慮下さい。
ネタバレを含むけど見たいと言う方はどうぞご覧下さい。
NEXT 1話へ🍀*゜
コメント
12件
続き気になりすぎる。
ゆー‼️😆🙌 ☝🏻番おめでとう~‼️😻🫶
めちゃくちゃ気になる終わり方!!!めちゃくちゃいい作品!!!ほんとに上手すぎる!! 続き楽しみにしてるねん!