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マイナスなことは何もないわ。
そうよ、何もない……はず。
「ええ、もちろんよ。だからね……今度一緒に街に遊びに行かない? 王都には貴方の知らない楽しい場所がたくさんあるわ」
「街にですか!?ぜひご一緒したいです!」
目を輝かせるマリン。こうなったら腹を括ろう。
私がヒロインに様々な経験を積ませて、真の「姫君」にするんだ。
悪役令嬢がヒロインを育てる逆転シナリオ……なかなか面白いじゃない?
「決まりね。詳しいことはまた明日話しましょう」
「はい! 楽しみにしていますね!」
名残惜しそうに手を振るマリンと別れ、彼女の姿が見えなくなるのを見届けてから歩き出す。
すると、背後から凍てつくような、鋭い声がかかった。
「ご友人との楽しいおしゃべりは済みましたか?」
振り返れば、案の定、レオン様が完璧な騎士の礼で佇んでいた。
口角は上がっているが、その青い瞳の奥は一ミリも笑っていない。
「ええ、充実した時間だったわ」
「そうですか。ところで、先程の『街へ行く』というのは……?」
「もう、聞いてたのね?私がマリンさんをデートに誘っただけよ。女の子同士の遊びよ」
正直に言うと、レオン様の眉間の皺がさらに深く刻まれた。
「危険すぎます。公爵家のご令嬢ともあろう方が、護衛もつけずに市井へ赴くなど……。万が一を考え、護衛の人数を大幅に増やさなくてはなりませんね」
「大袈裟よ。心配性ね、レオンは」
「貴女の安全がかかっていますから。当然の判断です」
「ふふ、そういう真面目なところが貴方の美点ね」
からかうように微笑みかけると、彼の端正な顔が、夕焼けのせいか、わずかに赤く染まった気がした。
(こういう初々しい反応も可愛いけど、今はそれどころじゃないわ)
マリンとの約束。
そしてヒロインと攻略対象の距離を縮めるという難題。
明日から、私のスケジュール帳は真っ黒になりそうだ。
「レオン、明日は貴方がちゃんと警備の段取りをしておいてちょうだいね」
「デート……ですか」
レオン様は私の言葉を反芻するように呟いた。
「あら、不満?」
「いいえ、むしろ光栄です」
レオン様は恭しく頭を下げた。
その、伏せられた睫毛の陰に隠れた表情には
これまで以上に複雑で、独占的で、底知れない感情が見え隠れしていた気がしたけれど…
明日レオン様とマリンをくっつけることだってできるかもしれないし、大丈夫かな。
(さてと、明日はマリンと楽しく遊ぶために、そして2人を良い雰囲気に持っていくためにも色々と準備しなくっちゃ!)
お気楽な私の思考は、すでに明日のショッピングへと飛んでいた。
悪役令嬢の処刑回避ライフは、まだまだ前途多難。