テラーノベル
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ついにやってきた、街への繰り出し当日。
青く澄み渡った空は絶好の行楽日和で、王都の目抜き通りは活気に溢れている。
本来ならここで、ヒロインのマリンと攻略対象のレオン様が二人きりで市井を歩き
ハプニングに見舞われながら「吊り橋効果」で恋に落ちる……
そんな、全プレイヤーが悶絶した伝説のデートイベントが発生するはずだったのだけれど。
(……おかしいわね。予定では私は二人の後ろを『あら、お似合いですわね』なんて言いながら歩くモブのはずだったんだけど)
現実の立ち位置は、どういうわけか私が真ん中だ。
「メリッサさん、見てください! あの露店のリボン、メリッサさんの髪色に絶対似合います! 私、お小遣い貯めて買っちゃおうかな……!」
右側から、小動物のように目を輝かせたマリンが私の腕をギュッと抱きしめてくる。
「メリッサ様、あのような安物は貴女の肌を傷つけ、美しさを損なうだけです。あちらの老舗の絹織物店へ向かいましょう。貴女に相応しい最高級の品を用意させます」
左側からは、周囲の庶民をビビらせるほどの圧倒的な威圧感を放ちつつ
私の肩に手を回さんばかりの距離でレオン様が歩いている。
二人の視線が私の頭上でバチバチと火花を散らし、激しい火花が飛んでいる。
推しとヒロインの間に入って潤滑油になるはずが
なぜか私がサンドイッチの具になっているのはどういうことなんだか。
「ま、まあ二人とも落ち着いて。今日はマリンさんが主役なんだから。ね? マリンさんに似合うものを探しましょう?」
なだめるように言って、私は以前から目をつけていた王都随一の高級ブティック『エトワール』へと二人を誘い込んだ。
ここでマリンに最高に可愛いドレスを試着させて、レオン様を「……綺麗だ」と絶句させてノックアウトさせる。
それが私の「破滅フラグ粉砕・完璧プロデュース作戦」の要なんだから。
「さあマリンさん、これなんてどうかしら? 貴女の瞳の色にぴったり……」
「いいえ、メリッサさん!」
私の言葉を遮って、マリンが奥の棚から持ってきたのは、深紅のバラのように鮮やかで豪奢なドレスだった。
「これはメリッサさんのためのドレスです! ぜひ着てください! 絶対に、世界中の誰よりもお綺麗です!」
「えっ、いや、私は今日、貴女に選んであげたくて───」
「いいえ、マリン様。メリッサ様にはこちらの、夜空を切り取ったような深い紺色のドレスこそが相応しい」
「装飾を抑えたこの気品こそが、彼女に相応しい品格です。……さあ、メリッサ様。こちらをお召しください」
いつの間にか背後に立っていたレオン様まで参戦してきた。
しかも、二人がそれぞれ差し出したドレスを私が受け取るまで一歩も引かない構えだ。
「あの……私、着替えに来たわけじゃ……」
「メリッサさんは、こっちの華やかなデザインの方が絶対に似合います! 私、これをお召しになったメリッサさんを拝みたいんです!」
「いいえ、メリッサ様は凛とした気高さをお持ちだ。こちらのシンプルなラインの方が、その天賦の美貌を際立たせる。私の目に狂いはありません」
「もう、メリッサさんはこちらの方が絶対似合います!」
「いいえ、私の方が彼女を、彼女の美しさを理解しています」
二人の主張が激しくぶつかり合い、店内の空気が物理的に震えている。
店員さんたちは遠巻きに震えているし、私はと言えば───
(ひえええ……! 私のために争わないで!状態なんだけど?!)
っていうか、二人とも本来の『攻略対象』と『ヒロイン』を見て!?
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