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賞味期限切れ

2 - 第2話 それはある日突然に⑵

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2024年12月11日

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◻︎初顔合わせ


午後1時という遅めの予定だったにもかかわらず、集合場所のホテルに着いたのは10分前だった。


「よかった、間に合った」


レストランの入り口まで歩く。


「まだ余裕だったじゃん?」

「ギリギリでしょ?誰のせいでこんなギリギリになったのよ」

「俺のせいか?」


夫が出がけに、やれタバコを一服とか、やれ靴下が気に入らないとか、財布を忘れたとかで時間をとった。


「あ、ちょっと待て、トイレ行ってくる」

「はぁ?なんで済ませて来なかったのよ!」

「ちょっとハンカチ貸して」

「嘘でしょ!テーブルに出しておいたのに」

「忘れたんだよ」

「ギリギリまでスマホゲームしてたからでしょ!」


だいたいいつものことだ。

遥那はるなひじりも顔を見合わせて、苦笑いをしてる。

けれど、今日はなんだかとてもイライラした。

なんとか、遅刻したわけでもないのに。

きっと、娘の大事な日にいつもと変わらずのマイペース夫に腹が立っているのだ。

結局、レストランに入ったのは2分前だった。

【遠野家・田中家】とプレートが掲げられた個室に通される。


「「こんにちは」」

「すみません、遅くなりました」


相手の遠野とおのさんのご家族は、もうとっくに着席していた。

雰囲気を見ると、余裕を持ってやってきてゆっくりと待っていたように見える。


_____やっぱり、もっと余裕を持ってくればよかった


ギリギリに来てしまったことが、とても恥ずかしく感じた。

おもむろに立ち上がる遠野家の人たち。

腰掛けそうになっていた私たち家族も慌てて立ち上がる。


「はじめまして、遠野晶馬しょうまの父のあきらです。こちらが母の紗英さえ、弟の圭太です」


「えっと、はい。あの晶馬君はもう何度かお会いして…」


夫が何か言いかける。


「そうじゃないでしょ、こちらも紹介してパパ」


_____あっ、パパって呼んじゃったよ


「俺…あ、僕が遥那の父の隆一、こっちが母の美和子、弟のひじりです」

「本日は、お越しいただきありがとうございます。では、さっそくですが、お料理を運んでもらいましょうか?」

「はい、そうですね」

「では…」


軽く手を上げ、係の人を呼んで料理を用意してくれる遠野さんのご主人。


_____いいなぁ、落ち着いてて、こんな場所も慣れていそうで


少し年上だけど、それだけではない落ち着きが感じられる。


_____こんなご主人なら、毎日の家事もゆったりできそうな気がする


いくつになっても、よそのご主人と比べてしまうのは私の悪いところかもしれない。

うちの夫が特別、よくない夫というわけではないのだけど、多分…ないものねだり?


「毎日、暑い日が続きますね」

「そうですね、冬は冬で寒いのも嫌ですけどね」


当たり障りのない会話で、食事会という顔合わせは進んでいった。

ただ、私だけ、少し…


_____あれ?エアコン、切れた?ものすごく暑いんだけど…




____ダメだ、なんで?暑い、暑すぎる!



周りの誰もそんなに暑がっていないのに、私だけ汗が吹き出してくる。

もともとそんなに汗かきじゃないはずなのに。


「晶馬さんは、市役所勤めなんですよね?なかなか大変じゃないですか?」

「えぇ、まぁ。特にまだ若いので苦情処理が主な仕事になってます」


会話をしながらでも、流れる汗は容赦ない。

持っていたハンカチでは足りなくて、おしぼりも使う。


「ちょっと!お母さん、どうしたの?大丈夫?」


やっぱり、婚約者の前ではママじゃなくて、お母さんなんだね、とか思いながらも汗が止まらない。


「あ、もしかして…すいません、ちょっと!」


店員さんを呼んで何かをお願いする紗英さん。

店員さんはすぐに、ふかふかのタオルを持って来てくれた。


「お客様、これをどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


清潔なタオルは、流れる汗を吸い取ってくれて顔まわりがさっぱりした。


「すみません、なんか急に…」

「いえいえ、私も奥様くらいの時に経験がありますから。イヤですよね?女って」


_____あ、これ、ホットフラッシュってやつ?


そうか、更年期だ。

そういえばもう生理もなくなってた、と今頃思い出した。


「おいおい、食事中になんだよ、失礼じゃないか」


夫が偉そうに言ってくる、それはわかってるけど。


「そんなこと言われても…」

「田中さん、それは無理な話ですよ、本人にもどうにもできないことなんですから。それより奥様、他に気分が悪いとかないですか?」


_____紗英さん、優しい!


「もう大丈夫です、落ち着きました」

「この後はグッと体が冷えて来ますから、風邪をひかないようにしてくださいね」

「ありがとうございます」


遠野家の人たちは、何もなかったようにスマートに食事を続けていた。


「すみません、ほんと」

「いえ、お気になさらず。女性は色々と大変だと妻に何度も言われましたので」


穏やかに笑う遠野さんのご主人。

それに引き換え…


よほどお腹が空いていたのか、ガツガツと食べ進める夫。

私の心配もしてくれてない。


_____もうっ!おぼえてろっ!


「お母さん、これ…」


遥那がテーブルの下から小さな鏡を渡して来た。


_____おわっ!ひどい顔!!


「すみません、ちょっと失礼します」


お手洗いに立ち上がり、通り過ぎざま夫の椅子を蹴飛ばした。


「熱っ!!」


手に持っていたおすましのお椀を揺らしてしまったようだ。


「あら、ごめんね、慌てちゃって」


素知らぬ顔で手洗いへ向かった。









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