コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝。
約束の10時。第二会議室。
中に入るとすでに早瀬くんの姿。
「おはよ」
「おはよー」
この前と同じ会議室。同じ状況なのに。
昨日あんなことがあっただけに、さすがに意識してしまう。
職場ではもうこういうのやめようと思ってたのに。
まさかこの距離感でまた始めることになるとは。
「じゃあ始めますか」
だけど、昨日同じ状況だった早瀬くんは、特にいつも変わらない様子。
あっ、そんな感じね。
そっか。なるほど。
でもですね、年甲斐もなく久々にあんな不意打ちキスされたこっちとしては、正直ちょっと意識してしまうワケですよ。
ちょっとこんな時でも非常識にドキドキしちゃうワケですよ。
こうなるから職場恋愛は嫌だったんだよな。
ちょっと意識し始めるとすぐにフィルターかかってカッコよく見え始めちゃうから厄介。
とりあえず仕事モードに切り替えて、平常心でいつもの自分に戻ろうと意識をそっちに持っていく。
「あっ、これこの前言ってた資料です。こちらでチェックさせて頂きました」
早瀬くんの前に座り資料を渡す。
「いいよ。いつもどおりで」
「え?」
「二人の時は堅苦しいから、敬語使わなくても。いつもどおりの話し方で」
すると、仕事モードに切り替えた私の話し方を早速早瀬くんに指摘される。
「あぁ。うん。わかった」
くそー。これでちょっと仕事モードに完全スイッチ切り替えようかと思ったのに。
「で、これね。サンキュー。じゃあ、これでオレが考えてる企画ちょっと進めてくわ」
「うん。よろしく」
「この取引先、オレが直接連絡取っても大丈夫?」
「あぁ。うん。大体私が責任者として関わってるから、私の名前出したら話早く通じると思う」
「それぞれ担当者は・・・」
「あっ、それもリストにちゃんと書いてるから、とりあえずその人たちなら私の名前で認識してると思う」
「おー。ホントだ。助かる。じゃあ、それで連絡してみる。特に難しい人とかいない?」
「あ~。うん。特には大丈夫かな?」
「へ~優秀なんだ。オレ関わったとこ案外めんどくさいとこも多かったよ」
「そうなの?でもなんとかなったんだ?」
「まぁ。そりゃオレも優秀でやり手ですから 」
「それ自分で言っちゃうんだ?」
「まぁそれだけ営業と今の部で頑張ってきたんで」
そう笑って素直に言うところが、案外男らしくてカッコよく見える。
多分ホントにそれだけ実績積んでその自信と経験に繋げているんだなと、仕事してる感じでなんとなく伝わるから。
「だろうね。見ててわかる」
そしてそんな姿を素直に褒めてあげたくなる。
「・・・そっ? まっ、ここにいる為に頑張ってきたようなモンだし」
「えっ?何が?」
「いや、こっちの話」
そっか。この年齢でプロジェクトのリーダーなんてすごいもんね。
「プロジェクトのリーダーとして今の年齢で、そこまで仕切れるのなかなか出来ないよ。これからも出世コース目指してるんだ?」
「あぁ~。まぁ、そんなとこ」
「きっと早瀬くんならあっという間に私もすぐ追い越して、遠い人になっちゃうかもね」
やっぱそういうとこ男性と女性と違うところかもなー。
まだうちの会社は女性に特化した商品を扱っている部門があるだけに、きっと他の会社以上に優遇されて恵まれてる方なのだとは思うけど。
「そんなことないよ」
「えっ?」
「オレは到底適わないよ。透子のその頑張りには」
「え?」
「透子はずっとオレの先にいる」
「何、それ。変なの」
驚いた。
まさかそんな風に言ってくれる人がいるなんて思わなかった。
ずっとがむしゃらに頑張ってきてなんとかここまでやってきた。
いつの間にか仕事一筋にまでなってしまうくらいに。
だけど、部署も年齢も違うこの人に、今まで出会わなくて何も知らないはずなのに、なぜかやっぱりそういう言葉をかけてもらえると嬉しくなる。
「それにオレは遠くになんて行かない」
そこ。わざわざピックアップしなくても・・・。
でもその言葉もちょっと嬉しく感じる。
「オレはずっと近くにいる」
なんで、そんなとこ協調して真剣に・・・。
「大袈裟だな~」
「だって透子がそうやって言ってくるから」
この人は私の言った言葉を、ちゃんと返してくれる人だ。
普通流すような何気ない言葉も、なぜか一つ一つ真剣に返してくれる。
そっか。だから、この人のことなんか信じてみたくなるんだ。