神剣フィーサブロスのエンチャントダークにより、魔導兵の存在全てを滅した。粉砕の場合は塵と化すが、それすらも越して跡形も無く消滅。ここに残ったのは魔物の屍骸と、魔力を取られて抜け殻となった機械人形だけだ。
機械人形の個体識別はエルメルと刻まれている。
エルメルは母の名と同じだ――とはいえ、浸る感傷は無い。魔導兵が残した機械の胴体が残っているが、放っておいても問題はないだろう。
「――お、終わった……なの?」
「そういうことだな」
「さ、さすが、わたしのマスター~!!」
「こら、急に人化して抱きつくな!」
「だってわたしの目に間違いが無かったんだよ~! これはイスティさまへの感謝と、わたし自身の喜びによるものなの~!」
向こうからルティやシーニャたちが猛進して来るのが見える。どうやら回復したようだが、また体当たりして来ないだろうか。二人の後ろにはミルシェとサンフィアの姿があって、急ぐことなく歩いている。
彼女たちを守っているのは霊獣シリュールと海獣ラーナだ。装備に潜在している彼女たちの使い方はしばらく悩んでいた。しかし、今回の戦いでそれがようやく見えてきた気がする。
役目を終えたラーナたちの戦闘状態を解除し退避を命じると、ルティたちよりも先におれの元に戻って来た。
「ラーナ、シリュール! よくやった。戻っていいぞ」
『まだ駄目だ。ここには”忘れ去られた”モノがいる。それを起こせ』
「えっ? 忘れ去られたモノ? ラーナ、それはどこに?」
『アック・イスティ。余と同じく、同じ場所でそこを長く守って来たモノだゾ! 余はキサマの抜けた所に呆れる。全てをラーナに任すゾ』
「えっ、おい!?」
ナマズ娘シリュールは、ラーナだけを残して姿を消してしまった。消したといっても装備に潜在しているだけではあるが。
『アックの近くにアレはいる。すぐ探せ! 触れるだけで、アレが思い出す』
「すぐ近くにって言われてもな……」
魔導兵を滅し、見渡す辺りに残っているのは屍骸と廃墟。あとは抜け殻の機械人形だ。
まさかと思うが、あれのことだろうか?
「イスティさま、どうしたの? 何か探しているの?」
ひとまずここは、
「……フィーサに頼みがある。ここに向かって来るルティたちをここで止めておいてくれ」
「えぇぇぇぇっ!? あの二人に突進されたら飛ばされちゃうよ~!」
フィーサは神剣でありながら心配性すぎる。そこがいいところでもあるが。
「魔導兵を吹き飛ばしたフィーサなら大丈夫だろ。とにかく頼むぞ!」
「ううぅ~……よく分かんないけど、用が済んだらわたしを磨くこと! イスティさま、約束だよ~!」
「分かった。それくらいならいいぞ!」
「きっとだよ~!!」
ルティたちはひとまずフィーサに任せ、おれはついて来るラーナとともに抜け殻の魔導兵の所に近づくことにした。
◇◇
「魔力が消えただけの機械人形……か」
「アック・イスティ。ソレに触れる!」
「やはりこいつなわけか。長いこと滅亡した所に忘れ去られていたとはいえ、守っていたってのは……いや、間違っても無いか」
「胴体に触れればいい」
おれは言われた通りにその箇所に触れる。
「……こ、こうか?」
しかし魔力が消えた機械人形の胴部分からは一体脅威を感じない。
すると、
『――イスティ、イスティの……帰還を確認……』
触れたと同時に、抜け殻状態になっていた魔導兵が動きを見せる。
「な、何っ!? お、おい、動き出したぞ?」
「それでいい。忘れ去られた時間、神獣が思い出した」
「神獣?」
魔力で支えられていた手足は既に消失、残っている胴体が小刻みに震えだした。辺り一帯を包むような光の放射が瞬く間に広がり始める。直後、ラーナの姿はおれの前から消え、フィーサたちの姿も見ることが出来なくなった。
いや、消えたのはおれのほうか?
「闇の空間じゃなくて光の空間か。見事に何も見えないな……」
独り言も光にかき消されているのか、声が全く響かない。そんな中、姿が全く見えない光の揺らぎのような存在がおれの目の前に立っていた。
『稀《まれ》なるイスティ……よく帰還されましたね。これからの成長を傍で見守っていますよ……アック』
「――えっ!?」
母の声かどうかも思い出せないが、その”声”は光の球体となっておれの体に衝突。直後、光の空間は失われ、おれの意識も強制的に閉ざされた。
暗闇の意識の中で見えた光の文字は、
【Lレア エルメルアーマー 水の守り 災を逃れる、長寿の加護を得る】
――エルメル……あの声は母の声だったのか?
そう思いながら、おれはそのまま眠りについた。
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