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#ファンタジー
#ざまあ
設楽理沙
その日、家に帰って洗面所の鏡と向かい合った。
薄茶色の髪は胸元まで伸びていて、長い睫毛に覆われた大きな瞳。
『女みたいで気持ち悪い』俺が映っている。
クラスメイト達の言葉が脳裏に過り、ギュッと目を閉じる。みんなと違って気持ち悪い俺なんて、消してしまいたい。
ハサミを持って髪の毛を挟み、震える手で鏡に映る自分を見る。
躊躇いながらも、意を決して髪の毛を切っていく。
はらはらと落ちていく長かった髪の毛。
母さんがいつも嬉しそうに『綺麗』と言って、とかしてくれた髪の毛。
短く切り終えると腕がだらりと下がり、ハサミが床に転がった。
「……」
力が抜けてその場に座り込む。女みたいで気持ち悪いと笑われた俺の髪の毛は短くなった。
「っなにしてるの!」
母さんが洗面所の前で驚愕して俺を見ていた。
「なんてことをっ!」
母さんの手が小刻みに震えている。
「そんなに短く切って……男の子みたいじゃない! どうしてこんなことをしたの!」
「え……」
母さんの発言に耳を疑った。
俺は男なのに。男の子みたいってどういうこと?
「香、何してるんだ?」
父さんの声が聞こえても、母さんは呆然と立ち尽くしたまま動こうとしない。
不思議に思ったのか父さんが洗面所を覗き込み、俺の姿を見ると驚いたように目を見開いたが、すぐに真剣な表情で俺を呼んだ。
「歩、こっちにおいで」
立ち上がり、人形のように動かない母さんの横を通過していく。
父さんの後についていくと、行きついたのは俺の部屋だった。そして、父さんが床に膝をつき、俺の肩を掴む。
「歩、まだ少し難しいかもしれないけど、歩にはお姉ちゃんがいたんだ。だけど、お母さんのお腹の中で死んでしまった。それが原因でお母さんは少し心が弱くなってるんだ」
「お姉ちゃん……?」
「歩をお姉ちゃんの生まれ変わりだって思っているから、女の子みたいに扱っちゃうんだ」
お姉ちゃんの生まれ変わり?だから、お母さんは俺に女の子の服を着せて、髪の毛を伸ばさせていたの?
「髪の毛は短くてもいいから、お母さんのお願い我慢して聞いてあげてな。お母さんのために」
「うん」
頷くと父さんに抱きしめられた。
「……いい子だ」
髪が長いのも、女の子みたいな服を着るのも嫌だけれど、母さんのためにお願いを聞いてあげないといけないんだ。いい子でいなくちゃいけない。
母さんのためにも、父さんのためにも、体が弱くて泣き虫なみちよのためにも。
俺はお兄ちゃんなんだから。
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