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ラマシュトゥが俯(うつむ)きながら言う。
「そうなのです…… コユキ様、彼らは悪魔と呼ぶ事も憚(はばか)れるほどに弱い、脆弱(ぜいじゃく)な生命だったのでございます…… 何故なのでしょうか? サタナキアの居城を守る役目を与えられる程の悪魔がなぜこれ程に脆弱に過ぎるのでしょうか?」
コユキはビックリ顔のままで露出狂気味のラマシュトゥに向けて言う。
「んー、それはあれなんじゃないの? 他にいないとか? 若(も)しくは自分でも気が付かない内に強くなり過ぎてしまったか…… 虚しい物だな、戦いとは…… みたいにアンタ等が強くなり過ぎちゃったとかじゃないのぉ? にしても弱いわね、この子達ってぇ…… サタナキア、サタンちゃんったら一体何を企んでいるのやら……」
「まあ、殺っちまったモンは仕方ないのでござるよ、放っておけば直ぐ復活するでござろ、なんにせよアスタとバアルに追い付けた事は良かったのでござる、ラマシュトゥ起こしてやって、でござるよ」
「はーい」
ラマシュトゥがスキル効果を打ち消すピンクの雨を、眠りこけている二人に降らせるとやがてもぞもぞと起き上がったバアルが体を伸ばしながら言う。
「んんーっ、ああ、良く寝たぁ、ってコユキ姉様と善悪兄様いるじゃん! これって追いつかれちゃったって事だよね? なんだ失敗しちゃったか、残念無念…… はぁ、アスタ起きなよ、起きろってばっ! おいっ! アスタロトっ!」
スキル効果も消えた筈なのに、いつまで経っても呼び掛けても、目を覚まさないアスタロトの顔面に往復ビンタを繰り返すと、暫(しばら)くしてからアスタロトが身を起こしながら呟きを漏らす。
「あれ? ネヴィラスが焙(あぶ)っていたサタンの丸焼きは? むむむ、バアル一人で食っちゃったのか? あの丸々と太った子豚そっくりなサタンを! ずるいぞっ!」
「夢だよそれって、馬鹿だよね本当…… 今回の周回でも妾やオルクス、モラクスとか会ってるんだよ、サタンに…… 子豚って…… そんな見た目の魔神王で誰か従うと思うの? 馬鹿なんだから」
「むむむ、そうか、あれは夢か…… あっ! 子豚は夢だったが大豚がっ! 今度こそ丸焼きチャーシューじゃいっ!」
まだ寝惚けてでもいるのか、大きな声で叫んだアスタロトは両手に炎を顕現させて飛び掛かったのである、コユキに……
しかし、いち早く『回避の舞(アヴォイダンス)』で離脱に成功していたコユキは残像を残しながらアスタロトの周囲を円を描いて高速移動しつつ、大きな声で言うのであった。
「なーはははっ! なーっはははははっ! アンタみたいなウスノロに捕まえられるもんですかっ! ほれっ、目で追う事すら出来まい! なーははは、なーっはははははあぁーっ!」
「くっ……」
アスタロトは自分の周りを取り囲んだ大豚の残像をキョロキョロと見回す事しか出来なかった。
時折ゆっくりと、転じて残像すら残さず姿を掻き消す大豚の化け物は、高速移動の最中に速度の緩急までつけているようである。
アスタロトの脳裏に一年半前のトラウマが蘇って来ていた。
――――この如何にも鈍重(どんじゅう)な大豚がこれ程の能力を有しているとは、驚きだ…… にしても、時折残像に見えるブヨブヨとした贅肉の醜さと来たらなんだっ! 気色の悪いっ! これではあの時のコユキの姿と変わらんじゃ無いか…… ん? コユキ? コユキじゃんこれ! と、言うことは!
「おい大豚の化け物めっ! 貴様っ! コユキを喰ったなっ! 許さんぞっ!」
残像は揃って額を手で覆って溜息を吐く素振りを見せながら、アスタロトの横に立っている自身の相方に言うのであった。
「はぁー、しゃーない、善悪、やっちゃってぇ」
「応でござるよ、こなくそっ!」
ゴチンっ!
「痛ぅー」
善悪の拳骨を脳天に貰ったアスタロトは、頭を抑えて蹲(うずくま)り小刻みにプルプル震える善悪を見て漸(ようや)く目の前の巨漢が本物のコユキだと理解したらしく、残像を視線で追いながら言う。
「このやり取りから察するに、本物のコユキと善悪みたいだな…… 悪いが『反射(リフレクション)』掛けておいたんだ、念の為にな、すまん善悪」
「ぐぬぬぅー」