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前にネタ集にあげたtrgt(夏祭り)をSSにしたものです。
「ぐちさんも浴衣ね!」
「えぇ、まじかよ。俺が浴衣なんて…似合うわけ、」
「似合うに決まってんじゃん、ぐちさんそういうとこだけ無駄に心配性なんだからさぁ、」
「はァ?」
「wwww」
あと数日で夏祭りが始まる。そんな時にたらこと飯を食べに行ったら、お祭りに行きたいと言い出した。それだけならまだいいのだが、浴衣を着なければいけないらしい。たらこが折れなそうなので俺が諦めるしかない。
これだからたらこを甘やかしすぎてるだのなんのと言われるのかもしれない。渋々だが、これでも恋人だし、恋人から頼まれたんだから…と当日の準備を始めた。
♢
「ぐちさーん!」
数日ぶりにあったたらこは、長い金髪をお団子にして、綺麗な赤い髪飾りをしていて、白を基調とした生地に真っ赤な梅の模様が入った浴衣を着ていた。
どう?と袖を広げて俺の様子を伺うように聞いてきた。正直、似合ってると思うし、たらこらしいとも思う。「……似合ってるよ」と言うと、クスッと笑って「ぐちさんもかっこいいね」なんて。まるで当たり前のように言うから、恥ずかしくて顔を背けてしまった。
「ぐちさん!はやく!!花火始まっちゃう」
ぐちさんの手を引いて神社までの階段を駆け上がる。人混みをかき分け、なるべく遠くへ。せっかくなら誰にも邪魔されないところで、2人だけで花火を見たいから。
「ちょ、たらこ、……はやいってw」
長身なのに、浴衣なのもあり動きが遅いぐちさんがブツブツ文句を言っているけれど聞こえないフリをする。いつもと違って、黒を基調とした浴衣で、前髪を分けて横に流していて、大人な印象だった。本人には言わないけどこのお祭りに居る誰よりもカッコイイと思う。
あと、ぐちさんは隠してるつもりかもしれないけど、表情豊かなせいで全然隠せてなくて、俺のこと好きなんだなって丸わかり。
道行く若い女の子たちがぐちさんを見てるし、遠くでイケメンだとか言ってるけど本人はこういうのに疎い上に、既に俺のものだから残念だけど諦めてね、なんて思いながらぐちさんの手をぎゅっと握る。そしたら同じくらいの強さで握り返してくれる。言葉では全く言ってくれないけど、行動で示してくれるところが大好き。
最後の階段を駆け上がって、上からお祭り会場を眺める。 上に行くに連れだんだん人も減ってきて、上がりきったこの辺りは静かだった。
ヒューー…、ドンッ
と大きな花火が上がった。その花火を合図にたくさんの小さな花火が続けて上がっていく。赤、緑、黄、青、真っ暗な夜空にパッと咲いた花が儚く散っていく。
さっきまで手を引いていただけだったから、その指を絡めて恋人繋ぎをする。そしたらチラッとこっちを見てたけど、また花火に目を向けていた。花火を見つめるぐちさんの横顔は綺麗で、思わず息を飲んでしまった。赤色の瞳に映る花火の火花が綺麗で、消えてしまいそうな儚さを含んでいた。それを見ると、もう少しだけこのままで居たい、この人と離れたくない、なんて柄にもなく思ってしまう。
ぐちさん、と花火の音を邪魔しない程度の声で呼ぶ。
「ん?」とこっちを向くぐちさんの胸に優しく飛び込んで背中に腕を回すと、いきなりの俺の行動に少し慌てていたけど、ぎこちない仕草でゆっくり俺の背中に手を回してくれた。
ドンッ、ドンッと音が響き、花火が咲く。そして散る。
あたりは静かで、ここには俺とぐちさんしかいなくて、お互いの息の音も、鼓動も、体温も、花火にはかき消せなくて全部が筒抜けでどうすることも出来ない。
だから、慣れない下駄で背伸びをして、ぐちさんの唇にキスをする。数秒か、数分か、時間が溶けるまでずっとキスをして、ぐちさんの甘い吐息と漏れ出る声を感じる。 口を離して、お互いに離れると、唾液が混ざった銀の糸がつう、と垂れる。
ヒューー………ドンッッ
それはいままでの花火より大きく、綺麗な花火だった。 お互いに向き合った状態で、それを横目に見る。綺麗だと思った。ぐちさんも、花火も。
「また来年も来たいな、」
1人こぼした言葉はぐちさんに聞こえていたらしい。
「あたりめえだろ」なんて、いっつも恥ずかしがってそういうの言わないくせに、こういう時だけまっすぐ俺を見て言ってくるから、ほんとに俺はこの人に敵わない。
明日も明後日も、来年もずっと一緒にいることが当たり前だって思ってるのが俺だけじゃないみたい。
あぁ、なんて幸せなんだろう。
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タイトル『赤色の瞳の君』は、🌶から見た🌵でもあり、🌵から見た🌶でもある、という意味を込めてつけました。
この2人はいつも純愛ばっか書いてるかもしれない🤔
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