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翌朝、ヒノトは言われるがままに無気力なまま、教会裏の荒野へと向かう。 臨戦態勢十分なレオは、装備を固め、今か今かと剣を振るって既に準備を進めていた。
キルロンド生も、魔族軍の新兵たちも、皆が心配そうに周囲を囲う中、いよいよと行われる。
「妙な縁だ。この王家の私が、一番剣を合わせることになるのが、愚民である貴様になるとはな」
「あぁ……」
ヒノトは、変わらず無気力なまま剣を握る。
「ふん。本気は出してもらうぞ。私も、最初から本気で行かせてもらう……」
ゴゥッ……!!
すると、先程まで振っていた短剣を手放すと、腰に据えてあった柄から長剣を抜き出す。
その長剣は、雷ではなく、業炎を纏っていた。
「長剣……!? もしかして……!!」
その短剣よりも少し長い、ロングソードマンの武器よりかは少し短めの剣に、キルロンド生は騒つく。
何故なら、その武器が扱えるのは、
「私は、魔族の集落で鍛える中で、上位職 “ソードマスター” へ格を上げた……!」
ソードマンの上位職、ソードマスターでなければ扱えない武器だった。
「レオ様なら……この短期間でソードマスターになることも頷けるけど……」
そう、キルロンド生は、別のことにも驚愕している。
それは、レオが “炎属性で創造した剣” を抜いていることにあった。
それが意味することは、
「私の剣は炎を纏う。そして、私の技は雷を放つ。流石の貴様でも、この意味が分かるな……?」
「 “過負荷” ……」
嫌と言うほど味わってきた “過負荷” という反応。
炎と雷が同時に発生した際に起こる現象で、大きな爆発を伴い、大ダメージを与える。
それは、自身に対しても有効な為、ソードマンの時点で過負荷を行う際には、必ず仲間との遠距離攻撃で行うと言うことは、誰しもが知る事実だった。
しかし、レオはそれを一人で行おうとしていた。
「貴様も一応は我が国の民だ。殺しはしない……だが、覚悟しろ……!」
”雷鳴剣・迅雷”
電光石火の速さで瞬足の一太刀をヒノトへ向ける。
「すごい……同じ技なのに、以前とは比べ物にならない……」
レオと一度対峙したリゲルも、思わず声を溢す。
バチバチバチッ!!
ゴォン!!
鋭い轟音で雷の一閃が走り、直後、ヒノトの身体は過負荷による爆発が生じた。
「……」
レオは無言で、ヒノトがいるであろう砂煙を眺める。
そして、密かに目を細める。
「ヒ……ヒノト……?」
不安な声が上がる中、レオは瞬きをせずに視線を向け続ける。
ズォ……!!
直後、砂煙を全て掻き消す風圧が吹き荒れる。
「ふっ……」
その姿に、レオはニタリと笑みを浮かべた。
ヒノトの髪は、灰色へと変色し、服はボロボロになっているが、一つの傷も負ってはいなかった。
「これが灰人の力か……」
魔族軍の新兵たちも、二人の戦いに目を離せなくなっていた。
「やはり、貴様は楽しませてくれるようだ……!!」
そして、再び業炎の炎を纏い、ヒノトに襲い掛かる。
リオンは、ヒノトの剣を見て目を丸くする。
「そうか……! ヒノトくんが過負荷を防いだ方法が分かった……!」
ゴッ!!
ボォン!!
再び、過負荷による爆発が生じるが、二人は爆発で吹き飛ばされることもなく、剣を交えていた。
「岩の剣か! 考えたな、愚民!!」
水であれば、蒸発して炎を掻き消せるが、雷が走り、感電ダメージを負ってしまう。
風で掻き消そうとしても、拡散が起こるだけで、過負荷の爆発に飲み込まれてしまう。
しかし岩であれば、炎と雷、両方を防ぐどころか、自らを岩のシールドで固めることで、吹き飛ぶこともない。
「でも何故だ……? ヒノトくんが灰人の能力で、岩魔法を扱えるところまでは分かるが…… “防御魔法” の習得は流石に出来ないはず……」
そんなリオンの問いに答えたのはグラムだった。
「アレは “岩防御魔法” ではない。剣に付与した岩魔法を全身に巡らせ、 “防御” ではなく、 “中断耐性” を付与させているんだ。レオの方も同様。だから互いに、過負荷の爆発で吹き飛ぶことはない」
「でもそれって……」
「あぁ。シールドと違って、中断耐性とは、『怯まなくなっただけ』であって、多少のダメージは負っている……」
「それじゃあ二人とも、直撃は避けてても、少しずつ過負荷のダメージを受けてるってこと……?」
「そうだ。この戦いは……中断耐性が先に途切れた方が敗ける……!」
その後も、激しくぶつかり合う二人、グラムの予想通りに、二人は少しずつ負傷して行った。
「それだけか、愚民……。岩の剣に中断耐性、ここまではよく出来たものだが、それでは反撃は成し得ないぞ! そんなことでは、この私には勝てない!!」
「あぁ……そうだな……」
フッ…………
ヒノトの挙動に、世界が止まったかのように静まる。
レオも、周囲も、皆がその光景に目を見張る。
ヒノトは岩の付与された短剣を放り投げると、そのまま倭国の武器である、槍を創造した。
(自分が今すべきことは、正直よくわからない。でも、この魔族領に来てから、灰人の感覚が研ぎ澄まされてんのだけは分かる……)
その槍は、どの属性にも見られない、煌々とした淡い光を放ち、空の暗雲さえも照らしていた。
(父さんは死んだのかな……。俺は灰人……セノの言う通り、魔族を倒す為だけに生み出された人造人間。でも、魔族は悪い奴らじゃなくて……それでも、キルロンドの為に戦わなくちゃいけなくて……だって俺は勇者になりたいから……。勇者ラインハルトは……俺が憧れた勇者は、魔族を生かそうとして……じゃあ、俺って一体……?)
「そ、その属性は……なんなんだ……?」
そして、ヒノトの灰色の髪は
「どういうこと……!?」
白く光り輝いていた。
――――――――――――――――
薄く目を開けると、そこに映るのは一面の白。
「あれ……俺、レオと戦ってて……。敗けたのか……」
「ふふ、あなた、やぁっとここまで来られたのね」
懐かしい女性の声がして、ヒノトは咄嗟に振り返る。
「母さん……!?」
そこには、真っ白の髪を輝かせた、ヒノトの母、フリナ・グレイマンが立っていた。
「ど……どうして母さんが……!? 夢か……?」
「ふふ、夢みたいだけど、夢じゃないのよ。とは言っても、私もヒノトが力の覚醒をするまでは、この記憶も全て忘れちゃってたんだけどね」
そう言いながら、フリナは静かにヒノトに近寄る。
「ヒノト……」
「母さん……」
ゴン!!
その瞬間、ヒノトはフリナからゲンコツを貰う。
「いっつ……何すんだよ……!」
「あんた、『勇者なら笑ってみせる』って、家を出る時に約束したこと、すっかり忘れてたでしょう!」
「そ、そんな……あんな状況で笑えなんか……」
「どうかしらね。その前のエルフ帝国の時も、倭国にいた時だって、あんたはいつも焦ってばかり!」
「だって……俺は魔法使えねぇし……みんなと渡り合う為には、必死にならなきゃいけなくて……」
すると、怒っていたかと思えば、ふと笑みを浮かべる。
「でもいいわ。無事にこうして、力の覚醒ができた。それは貴方が、前を向いていた証拠」
その言葉に、ヒノトは強く胸を打ち付けられる。
「いや……俺……。一人だけ逃げようとしたんだ……。何もかも分からなくなって……俺はこの先、何をすればいいのか分からなくて……」
「ふふ、知ってるわよ。こうしてこの世界に来たことで、私は今までの記憶と、貴方の見てきた景色が全て、脳内に映し出された。貴方がどんな経験をして、どう感じてきたかは理解しているわ」
「それなら……」
それなら、ヒノトは前なんて向けてはいない。
「それでも、貴方は剣を取った。親友のレオくんの為に、その剣と真っ直ぐぶつかった。それが真実よ」
その言葉に、ヒノトは静かに、ただ静かに、ゆっくりと涙を溢し始めた。