テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第22話 〚同じ気持ち、知らないまま〛
朝の教室は、
いつもより少しだけ静かだった。
澪は席に座り、
鞄から本を取り出す。
……けれど、文字が頭に入ってこない。
(昨日から、変)
席替えしただけなのに、
胸の奥が、ずっとざわついている。
無意識に、
海翔の方を見てしまう。
遠い席で、
友達と話している海翔。
その横顔を見ただけで、
心臓が小さく跳ねた。
(……好き、なんだ)
気づいてしまった気持ちは、
簡単には消えてくれない。
一方、海翔も。
澪の方を、
何度も見ていた。
話しかけたい。
でも、理由がない。
(席、遠いな……)
それだけで、
こんなに落ち着かないなんて。
放送委員の時間。
マイクの準備をしながら、
二人は同じ空間にいる。
けれど、
目を合わせることはなかった。
沈黙が、
やけに重い。
(なんで、話せないんだ)
海翔は、
自分に苛立つ。
(昨日、あんなに好きだって気づいたのに)
昼休み。
澪は図書室へ向かおうとして、
廊下で足を止めた。
恒一が、前にいた。
「白雪」
低い声。
近すぎる距離。
澪は、
一歩、下がる。
「……何?」
「席替え、遠くなったね」
恒一は、薄く笑った。
その笑顔に、
嫌な予感が走る。
澪の頭に、
小さな痛み。
――妄想(予知)。
海翔が、
この場面を見ている。
恒一が、
わざと距離を詰める。
澪が、
困った顔をする。
(……やだ)
澪は、
一歩、強く下がった。
「用事ないなら、行く」
恒一は、
少し驚いたように目を瞬かせる。
その瞬間。
「澪」
呼ぶ声。
振り向くと、
海翔が立っていた。
澪の心臓が、
大きく跳ねる。
「放送委員、準備一緒にやろ」
それだけなのに、
胸が、熱くなる。
恒一は、
無言で二人を見る。
空気が、張りつめた。
「……先、行く」
澪はそう言って、
海翔の横に並ぶ。
廊下を歩きながら、
二人は、少し距離を空けたまま。
でも。
(隣にいる)
それだけで、
安心してしまう。
放送室に着いた時、
二人は同時に息を吐いた。
「……昨日さ」
海翔が、
小さく口を開く。
澪は、
心臓の音を抑えながら、聞く。
「席、遠くなって……」
言葉が、止まる。
澪は、
ぎゅっと手を握った。
(今、言われたら)
(私……)
でも、
どちらも、その先を言えなかった。
同じ気持ちを抱えたまま。
同じ場所に立ちながら。
まだ、
言葉にできないまま。