テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
緑星ふうま
第二章 聖域への足跡
魔界の淀んだ空気と、仲間の悪魔たちの下卑た笑い声を背に、fuは境界を越えた。
森に一歩足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような冷気がfuを包む。魔界の毒々しい熱気とは対照的な、透き通るような静寂。
「……っ、相変わらず、潔癖すぎて反吐が出る」
fuは悪態をつきながら、喉元のチョーカーを指先でなぞった。
酒場で豪語してきた通り、これは天使を欺くための道具のはずだ。 しかし、この冷涼な森を進むにつれ、fuの心臓は期待に跳ねる。魔界では決して得られない「安らぎ」を、身体が勝手に思い出してしまっているのだ。
生い茂るシダを払い、霧の立ち込める斜面を登り切った先。
そこだけ時が止まったかのように、古びた教会が佇んでいた。
ギィ、と重い扉を押し開ける。
途端、鼻腔をくすぐったのは、煤けた石の匂いと、甘く柔らかな白檀の香り。
魔界の血生臭さとは無縁のその香りに、fuの肩からふっと余計な力が抜けた。
「rm、来たよ。……ねえ、起きてる?」
わざと乱暴な口調で呼びかけながら、fuは祭壇へと歩み寄る。
そこには、ステンドグラスから零れる淡い光を浴びて、一人の男が佇んでいた。
「……fu。待っていたよ」
振り返ったrmの微笑みは、あまりに慈悲深く、そしてどこまでも深い。
その背に畳まれた純白の翼が、陽光を反射して眩いほどに輝く。fuは一瞬、その神聖さに気圧されそうになったが、すぐにいつもの不敵な笑みを作って見せた。
「あーあ、こっちはあんな暗いところにいたのに、あんたは相変わらず綺麗だね。……ほら、寂しかったんだろ? 隣、座らせてよ」
fuはrmの隣にどさりと腰を下ろし、わざとらしく距離を詰めた。
rmは拒むどころか、細く白い指先で、fuの頬に触れる。
「ああ。君が来ないと、この場所は広すぎて困っていたんだ。……おいで、fu。俺の光で、君を温めてあげよう」
rmの腕がfuの細い肩を引き寄せる。
その体温を感じた瞬間、fuの脳裏から魔界の記憶が急速に薄れていった。
(――チョロい。やっぱり俺がいないと、この天使はダメなんだ)
勝ち誇った気分でrmの胸に顔を埋めるfu。
しかし、その背後で。
fuを抱くrmの瞳が、一瞬だけ、捕食者のような冷徹な光を帯びたことに、fuはまだ気づいていなかった。
「……いい子だ。もう、誰にも君を汚させはしないよ」
耳元で囁かれたその言葉が、救済ではなく、「浄化という名の監禁」の宣告だとも知らずに、fuは満足げに目を閉じた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!