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2章「偶然とは悪戯である」
それから数ヶ月後、高校では一学期が終わり、二学期に差し掛かっていた。俺の高校では大学に入る為に必要な「全国高校学力調査テスト」というものがあり、そのテストは1年で2回行われる。そのテストがもう少しであるからと、最近は勉強に力を入れている。俺は昔からあまり良い点を取った覚えがなく、返却されたテストは大体が赤点。他人から「賢いね」
なんてお世辞でも言われた覚えは1度もない。けどそれは、勉強が”出来ない”ではなく、勉強を”していない”だけである。と身勝手な持論を掲げて今まで勉学から逃げてきた。というわけである。明日はいよいよ試験3日前の休日。ということで、うるさい陽斗と翔太を置いて、涼介と2人で図書館の自習室に行くことにした。俺たちの住んでいる舞屋巳市(まいやみし)は駅前を中心として栄えている。その為、駅の周辺で大体の用事は済んでしまうのだ。図書館は以前に行ったファミレスとは真反対の場所にあるため、別のルートから行こう。と涼介に言われ、何となく涼介について行った。
涼介「着いた」
並列して歩いていた涼介の足が止まる。
俺「舞屋巳に図書館なんてあったんだな。始めてきたよ」
涼介「立地があまり良くないからね。早く入ろうよ。」
俺「うん」
自動ドアが開くと、吹き抜けになった天井が広がっており、その上にきらびやかなシャンデリアが見えた。
涼介「自習室は2階だよ」
俺「始めて来て色々見てみたいと思ったから先上がってて欲しい」
涼介「わかった」
涼介を先に自習室に行くよう促し、俺は図書室にはいる。陳列された本棚に並ぶ本と閑静な空気、緑のカーペットには落ち着きがある。すごく良い雰囲気だ。
僕はミステリー小説が好きなので、「江戸川乱歩」の本を探しに行こうと歩いていると、「映画」と看板が立てられている個室を見つけた。この図書館では、受付をすれば映画も見ることができるらしい。
キョロキョロ当たりを見回し歩いていると、本を持ちながら、凛々しい表情で女性が歩いていくのが見えた。
「ん?まてよどこかで見たことある顔だ」
僕が彼女の姿を目で追っていると、突然彼女が振り返った。そして目が合ったのだ。
すると以前と同じようにきょとんとした表情を浮かべた後、優しく微笑む。
ファミレスで見た女性だ。
手元には太宰治の「人間失格」を持っている。
?「こんにちは」
俺「こんにちは。本がお好きなんですか??」
?「えぇ。日本でも指折りの文才の1人ですからね。」
話し方からから知性を感じる。本が好きなのだろう。根拠は無いがそういう感じがした。
「そうなんですね。お名前は?」
話が進展しないと感じ、名前を聞いてみた。
叶「夢宮叶(めみやかなえ)です」
どうやら彼女の名前は夢宮 叶と言うらしい。
俺「夢宮さんですね。」
叶「貴方は?」
俺「鈴木凛です。」
叶「鈴木くんね。よろしく」
俺「よろしくね夢宮さん。」
叶「私お使い頼まれてるから、もう行くね。」
軽く挨拶を交わすと夢宮は帰って行った。
心臓がドキドキしている。以前ファミレスで遭遇した美女に遭遇するなんて。名前まで聞いてしまった。
思いに耽けていると、急に涼介の事が頭によぎった。そういえばあいつ自習室にこもったままだ。急いで図書室の自動ドアを通り、階段を駆け上がる。自習室に入ると、黙々と英語の単語帳を眺める涼介の姿があった。
俺「悪りぃ。遅くなった」
そう一言呟き、凛の隣に座る。
さっきの出来事がフラッシュバックする。
急に抹茶パフェが食べたくなった。
俺「なあ涼介」
涼介「ん?」
俺「帰りにファミレス行こうぜ。」
凛が首を縦に振る。結局俺は一秒もペンを握ることなく、俺たちは図書館を後にした。
◇
「注文はお決まりでしょうか。」
「抹茶づくし贅沢パフェ一つとドリンクバーで」
「ネギトロ丼とドリンクバーください」
「かしこまりました。」
休日の午後という事もあり、前より人が多い。
どうやら涼介はネギトロを頼んだようだ。
数分して俺のパフェとネギトロ丼が届く。
いただきます。隣で涼介が呟いた。俺もそろそろ食べようかなと、スプーンに手を伸ばす。
ネギトロ丼を食べてる人の前でパフェを食べるのは何だか不思議な気分だ。
そう思いながら、パフェを口へと運ぶ。抹茶アイスが口でとろける、そこの方にはチョコレートと杏仁豆腐。表面には餡子と、きな粉が乗っている。すごく美味しい。
一方涼介はネギトロ丼に醤油をかけている様子だ。俺は半分ほどパフェを食べ終わったと頃だというのに。余程ネギトロ丼が好きなのだろう。
「あ、鈴木くん!!」
声を聞いた途端、周りの話し声や物音が消えた。僕の目には彼女しか映らなくなっていた。
「抹茶パフェ食べてるの?」
当然の質問に思わず動揺してしまう。
「そうだよ。初めて食べたんだけどすごく美味しい。」
俺は率直にパフェについての感想を答える。
「私もこのパフェが好きでここによく食べに来るの!」
自分の好きな食べ物の話が出てきて嬉しいのか、夢宮は嬉しそうに話す。
ここで貴女が抹茶パフェを食べていたのを思い出して食べたくなったんだーなんて言えるはずも無い。それにしても夢宮が可愛い。
「良ければ一緒に座っていいかな??」
山内は涼介の方を見て、軽く自己紹介をした。
「私は夢宮莉奈よろしくね!」
ニコニコしながら明るいトーンそう言うと、涼介も自己紹介をした。
夢宮は俺の隣に座るとメニュー表など取る様子も見せずにベルを押した。店員が来て抹茶パフェを頼む。
「私、お手洗いってくるね。パフェ来たら私のとこ置いてて欲しいな」
夢宮が申し訳なさそうに俺を見る。すごくかわいい。
わかった。と言うと山内は礼を言いながら歩いていった。
「あの人とはどんな仲なんだ??高校生には見えないが」
涼介が聞いてきた。流石に、さっき図書館で声をかけた人だよとは言えないと思い、俺は焦りを覚えた。どう答えていいか分からず「ただの友達だよ」と言ってみた。
実際は名前を聞いただけで、友達と言っていいかも分からない相手に「ただの友達だよ」というのは凄く複雑な気持ちだ。相手が友達だと思ってなかったら”友達”という関係は成立しないのではないか。これは誰しもが考えたことあるだろう。自分が言った事なのにここまで気負うのはすごく疲れる。自省した。
涼介の言う通り、夢宮はすごく大人びた佇まいをしていて所作一つ一つに品を感じる。
俺の友達である涼介が目の前に居る。という理由で少しフレンドリーに接してきたものの、俺が図書館で話した時はすごく丁寧に対応してくれた。時と場を考えて立ち回るのが上手い。という事には、涼介の言う「高校生には見えない」というのに同感だ。
「抹茶づくし贅沢パフェですね~」
店員が机にパフェを置く。山内のパフェが来たようだ。店員に釣られるように夢宮が帰ってきた。
「わぁ~おいしそう」
パフェを目の前にして笑顔が溢れている夢宮。すごく絵になる。かわいい。
「いただきます!」
そう言うと夢宮は大きな一口で抹茶アイスを食べた。元気よく挨拶をして食べる所はまるで子供のようだ。
パクパクと止まることなくパフェを口に運ぶ山内に涼介が話しかける。
「夢宮さんは普段何されてる方なんですか?」
賢い。高校生らしからぬ雰囲気を醸し出していて、且つ大学生か社会人。という複数個可能性が考えられる中、「普段何をしているの」と聞くことで学生なら学年。社会人だった場合職業を聞くことが出来るという”範囲攻撃”
流石としか言いようがない。
夢宮はスプーンをティッシュに包みながら、
「莉奈でいいよ!普段は勉強してるかな、私受験生だし。」
そう呟いた。俺も涼介も何を言っているんだ、とばかりに夢宮の顔を凝視する。付け足すように夢宮が
「私、実家が京都にあるから大学は京都大学に行きたくて」
「受験生ってことは高三ってことですよね?舞屋巳高校の生徒なんですか?」
涼介が聞く。
夢宮は首を横に振り
「日映高校だよ」
と言った。日映高校は、舞屋巳市の隣にある日映市にある高校の事だ。
という事は夢宮は隣町の高校に在籍している高校三年生という事になる。見えない。
俺も夢宮も驚きを隠せずにいた。山内にも、俺ら2人が舞屋巳の高校一年である事を言い、少し話した後解散することにした。
夢宮は友達の家に届け物があると言い、手を振りながら、俺達とは反対の道へと歩いていった。
「なあ佐藤、夢宮さん高三なんだってよ。全然そうには見えなかったよな。」
涼介が言う。
「確かにすごく大人っぽい。大学生かなと思ったよ。」
「だよなだよな。俺もそれぐらいかと思った。」
二人で夢宮の大人びた容姿に同意を寄せていると、涼介がボソッと一言呟いた。
「連絡先聞くの忘れた、」
すごく残念そうにしている。確かに折角話せたんだからもう少し仲良くなりたかったと思う。すごく惜しいことした。しかし、夢宮はあのファミレスによく通っている、そう知れた事だしまた行けば会えるかもな。
そう言うと涼介は小さく頷き、伝票を持って会計へと向かった。
「今日は俺が出すよ」
思いがけない言葉だった。涼介は物事に対して無関心、クールな性格とでも言っておこう。言葉通り冷涼な立ち振る舞いをする。
因みにすごくモテる。羨ましい。
そんな涼介でも欠点がある。それはお金に対してだらしない。という事だ。2人で飯を食べに行く事は滅多に無いのだが、複数人で食べに行く際に財布を持ってこなかったことがある。
本人曰く「数千円くらい明日にでも返してやるよ。」と奢られてる身とは思えない言動をしていた事で少し印象に残っていた。そんな涼介が自分から「今日は俺が出す」と言った。明日は大雨でも降るのかな。
「助かる」
そう言い残し俺は一足先に店を出た。