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初夏の午後。日差しはすでに春のやわらかさを抜け、汗ばむほどの暑さがあった。
タマモクロスは、グラウンドの端にある大きな木陰に腰を下ろした。さっきまでの自主練で、息が少しだけ上がっている。
「ふぅ〜、、、ちょいとやりすぎたかもしれへん」
風が気持ちよく吹き抜ける。
「、、、タマモ、ここにいたのか」
オグリキャップが、静かに歩いてくる。
「オグリも来たんか。、、、あんたも、さすがに暑いやろ?」
「ふふっ、せやろ?ええ場所見つけるのは、うちの得意なんやで」
二人は並んで腰を下ろす。周囲には誰もいない。トレーナーも、他のウマ娘たちも、まだグラウンドに残っている。
しばらく風に吹かれながら、ふたりは黙っていた。けれど、枕黙が気まずいわけじゃない。心地よく、静かな時間だった。
ふいに、タマモが何が かを思い出したようにポーチを探る。
「ほい、はい」
差し出されたのは、ひんやり冷えたラムネ。
「1本余ってもうてな、あんたに飲ませたろ思て」
オグリは少し驚いたように目を瞬かせる。
「、、、ありがとう」
ほんの一瞬、タマモの指にふれた。
そのとき。
どちらからともなく、もう一度―
指先が、そっと重なる。
「、、、っ」
目が合う。
風の音すら遠くなるような枕黙。
「、、、嫌じゃない、か?」とオグリ。
「、、、嫌なわけ、あらへん」とタマモ。
手をつなぐのでも、強く抱き寄せるのでもない。ただ、静かに、ぬくもりを確かめるように。
それだけで、ふたりの心は近づいていた。
まだ何も言葉にはしない。
けれど、特別という想いだけは、確かにそこにあった。