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〇佐藤家・庭のアトリエ
美花が、床に落ちた『初心者の陶芸入門』を見ている。
テツの背中に視線を移す美花。
壁を見たまま、顔が引き攣るテツ。
棒立ちで絶句の梨紗とケン。
レイが ゆっくりと動き、本を拾う。
レイ「ああ、懐かしいな、この本」
本の汚れを払いながら、
レイ「父が初心者のために書いた解説書です。僕も読まされました」
肩の力が抜けるテツ。轆轤を回しながら、
テツ「オマエは、その内容すら理解できなかったな」
ケン「面白そうな本ですね。私も読みたいです」
レイ「新品がありますから差し上げますよ」
梨沙(さすがトリオや)
ケン「話が逸れましたが、」
梨紗「では――、この絵は五億で私が、」
ケンのスマホが鳴る。
ケン「失礼します。え!」
梨紗「何?」
ケンがスマホの画面を梨紗に見せる。
『佐藤 帰宅』を見て驚く梨紗。
美花「何かトラブルでも?」
梨紗「余計なお世話」
梨紗と美花の視線がぶつかる。
睨み合う梨紗と美花。
美花「そちらの五億は現金?」
梨紗「今日は三億、残りは明日」
ケン「いえ、それが、」
梨紗「明後日だった?」
ケン「来週には……」
梨紗「どういうこと?」
ケン「上海の件が遅れてます」
テツの背中に向かって、
美花「こちらは六億、現金で今すぐお支払いします」
スマホで電話を掛ける美花。
美花「持って来て。そう、両方」
テツ「貴女も転売ですか?」
美花「いいえ。大切に観賞します」
轆轤を回すテツの手が止まる。
テツ「判りました。貴女は この絵の正当な価値を知っている。貴女に譲ります」
梨沙「そんな! 先生‼」
テツ「騒ぐな、作品が乱れる」
テツ「君に譲ったら金持ちに転売するだけだ。その先も転売が続くだろう」
ケン「カッコつけるな。結局、高い方に売りたいだけだろ!」
レイ「父さんに何言うんだ! 失礼だぞ」
梨紗「本当に、今すぐ六億用意できるの?」
扉をノックする音がする。
男の声「お持ちしました」
扉が開き、運転手が入る。
両手にアタッシュケースを持っている。
レイが素早く扉を閉める。
美花が勝ち誇った目で梨紗を見る。
美花「六億」
梨紗の身体が震え始めた。
美花は優越感で冷たく微笑む。
梨沙(あの中に六億円・・・・・・)
梨紗(息が止まりそうや。足が震える)
梨沙(何か言わんと。アカン 声が出えへん)
梨沙(あ、手は動く)
梨沙は ありったけの力で、ケンの顔をビンタした。
ケンはすぐに反応した。
ケン「申し訳ございません。上海の件が」
梨沙「もういい!」
梨沙はギクシャクしながらアトリエを出た。
ケンが後を追って、扉を閉めた。