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第一章 すれ違う視線
春の光が教室に差し込む。
私は窓際の席に座る彼を、毎日こっそり見ていた。
朝の光が彼の髪を柔らかく照らす瞬間、私は胸の奥がざわつくのを感じる。
ノートに視線を落としているふりをしても、心臓の音が耳まで響き、文字はすぐにぼやけてしまう。
彼は友達と笑いながら話している。
声が遠くから聞こえるだけで、胸の奥がぎゅっと痛む。
「笑ってるだけで、こんなに胸が苦しくなるなんて…」
誰にも言えない思いを、小さな手のひらに握りしめる。
放課後の廊下ですれ違う瞬間。
視線がわずかに交わるだけで、時間が止まったように感じる。
言葉をかける勇気はまだなく、ただ目で追うだけ。
「今日も、見てるだけか…」
胸の中のもどかしさが、まるで嵐のように押し寄せる。
帰り道、夕日に染まる校庭を一人歩く。
風が髪を揺らし、校舎の影が長く伸びる。
その影の中に、私の小さな心の揺れも映っているようで、悲しくも温かい感覚が胸に広がった。
初恋の始まりは、こんなにも切なくて、甘くて、苦しいものなんだと、私は静かに思った。
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第二章 言えない想い
雨上がりの日、帰り道の水たまりに空が映る。
灰色の雲がまだ残る空の下、傘を並べて歩く彼の横顔に息を止めた。
心臓が爆発しそうになる。
勇気を出して、小さな声で話しかける。
「…今日、雨、止んでよかったね」
彼は振り返り、少し驚いたような表情で微笑む。
「うん、ほんとに」
その笑顔だけで、胸が熱くなる。
でも、言いたい言葉は喉の奥で絡まる。
「…あの、実は…」
結局何も言えず、彼は笑顔のまま手を振って去っていった。
雨上がりの匂いが胸に染み込む。
小さな水たまりに映る自分の顔に、涙がにじむ。
「初恋って、どうしてこんなにも切なくて苦しいんだろう」
言えない想いが胸の奥でじんわり痛む。
世界は変わらないのに、私の心だけが揺れ続ける。
放課後の帰り道、雨に濡れた葉っぱを踏むたび、彼の笑顔が頭から離れない。
少し離れた距離で見守るしかない自分が、こんなにも切なく思えるなんて、初めてだった。
⸻
第三章 勇気の手紙
夏が近づく頃、私は気づいた。
もう見ているだけでは足りない。
彼に、自分の気持ちを伝えなければ、後悔だけが残る。
放課後の屋上。夕陽がオレンジ色に空を染め、風が頬を撫でる。
私はペンを握り、震える手で手紙を書いた。
一文字一文字、胸の奥の気持ちを込める。
「好きです。ずっと見ていました」
封筒に入れ、机にそっと置く。
心臓が痛くなるほど緊張する。
翌日、彼が微笑みながら手紙を返してくれた。
「僕も、君のこと…」
最後まで読めなかったその言葉の余韻が、胸を温かくする。
言葉にならない想いも、少しずつ二人の距離を縮めていく。
放課後の教室で、彼の目が私を見つめる。
何も言わなくても伝わるものがあることに、胸が震える。
「伝えるって、怖いけど、少しだけ世界が広がるんだ」
初めて、自分の勇気を誇らしく思えた。
第四章 夏の影
夏休み。毎日が部活と行事で埋まっていく。
彼に会える時間はほとんどなく、返事も電話もなく、もどかしさだけが胸に積もっていく。
「会いたい」
その一言を言えないまま、日々が過ぎていく。
ある日の夕暮れ。帰り道で偶然出会った瞬間、私の胸は跳ね上がった。
沈む太陽がオレンジ色の光を地面に落とし、彼の笑顔を柔らかく包む。
「久しぶり」
その声に、心臓がぎゅっと締め付けられる。
「…会いたかった」
やっと言えた一言に、胸の奥が熱くなる。
でも、電車のベルが鳴り、現実が戻ってくる。
彼は笑顔のまま遠くへ行ってしまう。
夕暮れに消える彼の影を見送る私は、涙をこらえながら、心の中で何度も叫んだ。
大好きなのに、どうして素直になれないんだろう。
切なさも苦しさも、でも「大好き」という気持ちは決して消えない。
風が髪を揺らし、沈む夕日の光が地面に長く伸びる。
その光の中で、私たちの時間は止まっているように見えた。
初恋の痛みは、胸を締めつけるけれど、同時に心を少しずつ強くしてくれる。
初恋の余韻
秋風が吹き始めるころ、彼から手紙が届いた。
封を開けると、柔らかい文字でこう書かれていた。
「初恋って、苦いけど、素敵だね。君に出会えてよかった」
私は小さく微笑む。
届かない声も、すれ違った日々も、全部宝物だった。
そして、次はもっと素直に、ちゃんと言える日が来ると信じていた。
夕暮れの光が柔らかく差し込むたび、あの日の胸の痛みも、心の温かさも思い出す。
初恋の切なさは、胸の奥で優しく残り、私を少しだけ大人にしてくれる。
大好きだった気持ちは、今も私の中で静かに輝き続けている。