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#シリアス
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文化祭の熱気も冷めやらぬある日の午後、事件は起きた。
俺はいつものように、ひまりの部屋の空調が適切か
そして不審な虫の一匹でもおらんか確認しようと、ドアをノックせずにスッと開けた。
「ひまり、おやつに最高級のマンゴーを……」
「パパ!!」
ひまりが、机の上のノートをバッと隠し、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「もう、勝手に入らないでって言ったでしょ?ノックしてよ!自分の部屋なんだから、プライバシーがあるんだよ!」
「…ぷ、ぷらいばし……?」
「そう!もうパパ、嫌い!」
バタンッ!と目の前で閉ざされたドア。
俺はマンゴーの皿を抱えたまま、廊下で石のように固まった。
「……和幸。…ワシは、嫌われたんか」
事務所の応接間で、俺は抜け殻のような顔で天井を見上げていた。
「嫌い」という一言が、かつて受けた銃弾よりも深く俺の胸を貫通しとる。
「兄貴、それは『思春期』っていうやつですよ。お嬢ももう中学生。親に干渉されたくない時期なんです。別に嫌いになったわけじゃありませんよ」
「……なら、ノックの練習や。和幸、ドアを持ってこい。相手が油断せんような、かつ威圧感のない、優しさに満ちたノックの音色を追求するぞ」
その後も、俺の「親バカ」とひまりの「自立」の攻防は続いた。
「パパと一緒に洗わないで」という、世の父親が通る地獄の門を俺も潜ることになった。
「……和幸。ワシの汗は、そんなに猛毒なんか?」
防犯のために持たせていた最新型GPSを、「友達に笑われるから」と返された。
「…あの子の居場所が分からん街なんて、ワシには砂漠と同じや……」
三日ほど会話が「おはよう」と「おやすみ」だけになった頃。
俺は深夜
キッチンで一人、寂しくマンゴーを切り刻んでいた。そこへ、水を飲みに来たひまりがやってきた。
「……あ、パパ」
「…おう。……ひまりか…マンゴー、どうや?」
ひまりは少しバツが悪そうに隣に座り、俺が差し出した皿を手に取った。
「……パパ。この前は、怒鳴ってごめんね。……嫌い、は嘘だよ。でも、私ももう子供じゃないから……自分だけの時間も、大事にしたいの」
俺は眼鏡を外し、曇ったレンズを丁寧に拭いた。
「……ひまり。パパの方が、大人げなかったな。…お前が大人になろうとしとるのを、ワシが邪魔してしもた」
「……これからは、ちゃんと三回ノックして、返事を待ってから入るわ。……たとえ、その返事が『立ち去れ』やったとしてもな」
「ふふ、さすがにそんなこと言わないって」
ひまりがマンゴーを一口食べて、小さく笑った。
思春期の嵐。
娘の「心の壁」の存在を知った。
それは寂しいことやが、子が立派に自立しようとしている、何よりの証拠なんやな。