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また冬が来てしまった
どうしょうもないことを考えながら西園寺琴歌は起床する。
彼女は冬が嫌いだ。
あの日を思い出すから…
力なく目覚まし時計を止め、琴歌は髪を整える。
ロングの黒髪はまるで黒曜石のように輝いており、少女の紫紺の瞳によくあっていた。
だがしかし、そんな黒髪も彼女は嫌いだった。
黒髪ロングは彼女にとって執着の証。
何時までも変えられない自分に嫌気がさす。
1年生の冬、琴歌は幼馴染の黒鉄晃に告白した。
しかし、その結果は惨敗だった。
ラブレターをその場で破られ嘲笑された、屑な彼にもそれでも、まだ忘れられない自分にも吐き気がする。
彼のために伸ばしたロング。
彼のために染めなかった黒髪。
すべて嫌いになってしまったがそれでも、変えられなかった。
制服に着替え、食事を取る。
そのいつもの作業すら億劫だった。
「3回目の冬なのになれないな」
ため息を吐きつつ少女は思わず独り言を呟く。
スマホの通知がなる。ラインがきたようだ。
「いっそのことそんなクズ男忘れちゃいなよ」と表示されていた
「簡単に忘れられたら苦労しないの」
思わず零した本音。
それを取り繕い、琴歌は返信する。
こうして取り繕い、ツギハギだらけの心を必死に保ちながら登校する。
ホームルームの時間。
意識を空想の彼方へと飛ばしながら琴歌はただ席に座っていた。
どうやら今まで停学を食らっていた制度が戻ってきたようだ。
最近まで空席だった席に頬に湿布を貼っている金髪の少女が座っている。
喧嘩っ早いと噂の如月星羅だ。
休み時間、友達と誘いを曖昧に断り、琴歌はぼー、と過ごしていた。
食事をとる気はおきない。
でも友達を心配させてしまう。
だからこそ一人で過ごしていた。
そんな琴歌に星羅は話しかける
「おーい! そこの人 暇なら校舎の案内をしてくれないか?」
なぜ自分がとは思ったが断るのもめんどくさかったので琴歌はOKを出した。
最近校舎の工事をしたのだ。
たまに琴歌も迷うほど間取りは変わってしまったのだ。
なぜ校舎すら変れるのに自分は…と意味もないことを考えながら琴歌は場所を案内する。
その一件で琴歌は星羅と仲良くなった。
確かに言葉遣いこそ荒いが星羅は噂に反して明るく、穏やかだった。
聞き上手でもあり、琴歌は自分の悩みも話せるようになった。
思わず安心してしまったのかつまらないことを聞いてしまう。
「そういえばなんで停学食らったの?」
気まずそうに目を伏せた星羅を見て、失敗を感じた琴歌は思わず謝る。
謝罪の言葉を星羅は受け取り…
「いやいいんだ 大したことじゃない… …うちの弟、病弱なんだがそれが理由でいじめられてたんだ。」
「それにカチンときてつい殴り込みに行ってしまった。 気がついたらいじめっ子は気絶していて、弟は怯えていた」
「それが理由で私は…」
また、やらかしてしまった。
きっと彼もこういうところが嫌いだったのだろう。
そんな琴歌の気持ちを察したのか星羅は
「私が話したくて話しただけだ。琴歌は気にしなくていい。」
ああ、私と違う。
この人はなんでこんなに優しいのだろう。
なんでこんな人が嫌われているのだろう
「ねぇ、なんでそんな優しいの?」
「わたしは優しくない。 理想の姉になりたいだけだ。 それも叶わないけど…」
琴歌はこんな優しい人が報われないのはおかしいと強く思う。
そして琴歌は行動する。
次の日琴歌は髪を切った。
大嫌いだった黒髪を大好きな茶色に染めた。
ストレートだった髪にパーマをかけた。
「こっ、琴歌? どうしたの?」
思わず聞く友達に琴歌は言う。
「気分転換」と
そして星羅のもとへ駆ける。
「こっ、琴歌? どうしたんだその髪」
「ねぇ、私、変われたよ!」
微笑みながら琴歌は言う。
「あなたのおかげ。貴方は素敵な人、だから素敵な姉になれる。 いやもうなってる!」
頬を高揚させながら琴歌は告げる。
そんな琴歌を見て思わず笑いが零れてしまう。
「そう、だな 人は変われる。 私が変えたんだ」
にっこり笑って弟と話し合ってみることを決める星羅。
微笑みを浮かべ、晃への気持ちを吹っ切った、琴歌。
二人の未来はどうなるのだろうか