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滉斗『元貴、
お前だけだって、何度言えば――』
若井がいくらそう叫んでも、
僕の心にはまだ、
あの日の影がこびり付いていた。
元貴『嘘だ…どうせまた、
僕以外の子にも同じこと言うんだろ…』
言った瞬間、
自分でも幼い言い訳だったと思った。
けれど、止まらなかった。
滉斗『お前、またそんな言い方……っ』
若井の声が、ますます荒くなる。
壁にドンッと大きな音――
肘を立てられ、僕の逃げ場はどこにもない。
元貴『……やめてよ、』
か細くそう言った僕に、
滉斗『元貴、いい加減にしろ!!』
さらに強い声がぶつかってきた。
僕は顔を背けたまま、
決して若井の目を見ようとはしなかった。
目を見たら、涙があふれてしまいそうで、
負けな気がして、
悔しさと寂しさで、
視界がじわじわ滲んでいく。
滉斗『こっちを見ろって…
――何度言えば分かんだよ!』
何度も、何度も、若井の呼びかけは
怒りの熱でぶつかってくる。
だけど僕は、頑なに横を向いたまま、
固まっていた。
滉斗『おい、こっち見ろ。…元貴!!』
重く分厚い空気。
僕の唇が、わずかに震えていた。
突然、若井が僕の顔をぐいっと両手で包み込み、
『見るまで離さない』と言わんばかりに、
また、深いキスを落とした。
元貴『ん……っ……!』
驚きと戸惑い。
なのに、若井の唇が重なる度、
身体の奥が熱くなる。
元貴『やめて…やだ……』
弱く押し返そうとした腕は、
若井の大きな手で包まれて、
まるで力が入らなかった。
もう一度、唇を重ねられる。
ちゅ、ちゅ――と音もなく深く、
舌が絡まり、ためらいなく食まれる。
溢れそうなほど息が詰まりそうだった。
何度も、何度も、
強引に唇を奪われるたびに、
胸の奥が苦しくて、悔しくて、堪らなかった。
だけど同時に、好きで仕方ない若井の匂いが、
呼吸のたびに僕の中満たしていく。
元貴『ねぇ、やだ…
嫌いなのに……なんで……っ』
ぽとり、涙が一粒だけ頬を伝う。
それでも、キスは止まらなかった。
むしろ、もっと深く、もっと激しく、
小さな吐息も唇の隙間から何度も零れた。
元貴『…はぁ、んっ……』
どうして、?
嫌いなはずなのに、
この人じゃなきゃダメなこと、
胸も、体も、全部知ってる。
逃げたい、でもこの腕からは逃げられない。
恨めしいのに、同じくらい愛しい。
キスの合間に、若井が低い声で囁く。
滉斗『絶対お前だけだ、元貴、
…こんな風になれるのも、
思い詰めておかしくなりそうになるのも、
お前だけなんだよ、』
視界が霞む中、僕は睨み返す。
元貴『…そんなの、
信じない……自分勝手すぎる、』
滉斗『自分勝手でもいい、
俺はお前だけが好きだから、』
もう、声も唇も震えて。
悲しいのか、嬉しいのか、
全部の感情が絡まってわからなくなる。
元貴『若井なんて、――』
小さな抵抗とともに、
また唇に深くキスが落とされる。
涙が落ちる度、
滉斗『ごめん、もう離さないから――』
掠れた声が耳元で熱く響き、
僕はとうとう、若井の胸にもたれるように
して抗うことをやめた。
悔しい。
許したくなんかない。
だけど本当は、誰よりも、
若井に抱きしめられたかっただけなんだ。
コメント
4件
大森さん…😢 若井さんも頑張っててすごいよ…