テラーノベル
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#長編
結愛
329
#地雷系
#夏休み
トド村
44
◆◆◆◆
完全に時間配分をミスった……外国人集団のテンションに当てられて、俺まで時間を忘れて楽しんでしまった……。半分以上何を言っているか分からなかったが、ジェスチャーとコミュニケーションを取ろうとする心――そして酒の力は偉大だ――。ただその結果、お店が閉まる時間まで楽しんでしまい終電を逃したわけだが……。
彼らはアメリカからの旅行客とのことだ。アメリカでは自分で混ぜて作るお酒があまりないらしく、ホッピーのことを聞いてテンションがメチャメチャ上がっていた。そして最終的に、ホッピーの中を通常の量の3倍以上注文し、「I made a really strong beer! (めっちゃ濃いビールが出来たぜ!)」 って言いながら飲んでいた。
まあ、日本を楽しんでもらえたようで何よりだ。それに、俺があまり飲み食いをしていないことに気がついて、「I’ll treat you instead of a tip. (チップ代わりに奢ってやるよ。)」 と言って奢ってくれた。その代わりメルラブでのやり取りは咀嚼しきれなかったが……。
仕方がないので「ネカフェにでも泊まって一晩明かそうか」などと思いながら歩いていると、男女の痴話喧嘩が聞こえてきた。
先程の外国人集団もさることながら、元気な奴らもいるものだ。巻き込まれないように遠巻きに歩き横目で見ると、男性がボリューミーなツインテールの女性の手を引き、女性は全力で男性のことを拒んでいる。
まさかな……と思いながら少し近づくと、メルラブのミィがボックス席で接客していた相手に腕を掴まれている。どうやらホテルへと連れ込まれそうになっているようだ。
見てしまったからには仕方がないのでミィの肩を抱き寄せて声をかける。
「お前、こんな所で何をしているんだ。お母さんが心配していぞ。タクシー呼んだから一緒に帰ろう。」
男もミィもキョトンとしている。俺はミィの事を探しに来た兄という設定で、畳みかけるように話を続ける。
「あ~、すまないね。俺はこいつの兄なんだ。こいつ3日前に、母さんと喧嘩してから家に帰ってこなくて、母さんから職場へと探しに行ってくれって頼まれたんだよ。でも、こいつも大人だし面倒だなと思って、適当に時間を潰していたらこんな時間になっちまった。悪いけれど、今日はこいつを開放してくれ。またな。」
男は何かを言おうともごもごとしている。その隙に、俺はミィを連れて大通りへと出た。
ミィはひどく酔っぱらっており意識が混濁している。俺が肩を支えないと歩くことすらままならない。俺はそんなミィに話しかける。
「これからタクシーを呼ぶぞ。運転手さんに自宅の住所を伝えられるか?」
「……住所ない。」
「ないことはないだろ。どこから来たんだよ。」
「……歌舞伎町から来たの。」
先程思った「酒の力は偉大」という言葉は前言撤回――「過ぎたるは及ばざるがごとし」を身をもって体験している。
ミィは辛そうに俺の肩にもたれかかる。もう、半分意識を失っているようだ。これではタクシーの中で眠りかねない。それどころか、タクシーの中で”もどしたり”でもしたら、運転手さんにも迷惑をかけてしまう……。
仕方がないので、ネカフェにでも連れていくか……。そう思い何店舗かのネカフェに電話をするが、金曜日ということもありどこも満室で、かろうじて空いているお店に行っても「泥酔している人を泊めるわけにはいかない。」と断られてしまった。
ビジネスホテルも同様で、泊まる事が出来そうな部屋がどこにもない……。
最終手段として「ラブホテル」という選択肢が脳裏をよぎる。しかし、この状態のミィを連れ込むのは先程の男性客と同じではないか……? いや、俺にはやましい気持ちは一切な。本当にやましい気持ちなんて無いからな! そんな強い意志をもってラブホテル街へと足を運んだ。
◆◆◆◆
3件目のラブホテルでたまたま空室を見つけることができた。パネルを操作した後、半透明のアクリル板に遮られた受付でお金を支払い部屋の鍵をもらう。
宿泊で約1.5万円は痛いが、ラブホテルは本当に便利だ。女の子が泥酔していても利用ができるのだから……。ここだけを抜き出すと俺が泥酔させた女の子をホテルに連れ込む下種野郎に聞こえるが、今回の様な緊急事態の場合は本当に助かる。
ミィをベッドに横に寝かせ洗面器をベッドの横に置く。そして、朝まで一緒にいた事がバレたら彼女に迷惑がかかると思い部屋から出ようとした瞬間、ミィが俺の服の裾を掴み消え入りそうな声で囁いた。
「行かないで……。一人は嫌……。」
ミィは涙を一筋流しながら、俺に「行かないで……。」と何度も囁く。俺は彼女の手を両手で握り、
「俺はこの部屋にいるから、何かあったら声をかけて。」
と言って、そっとミィの手を離した。その瞬間ミィはリスのように頬を膨らませる。顔を青白くして、半分白目を剥きながら、
「ぎも”ぢわ”る”い”……」
と、全ての言葉に濁点が付いた声で呟く。
俺は急いで彼女の身体を起こし、洗面器を顎の下に付けながらトイレへと連れて行った。トイレの扉を開けた瞬間、ミィは崩れ落ちるように便座に腕を置いて、便器に頭を突っ込む。
吐くときの声って、男女であまり違いがないんだな……と思えるような声と、滝の水が水面に落ちるような音が混ざった不協和音、そしてミィのフローラルな香りをかき消す甘酸っぱいアルコールの香りの中でミィの背中を擦った。
コメント
3件
ああ、もう、この回すごかったですね……!ミィちゃんが拉致られそうになるところから始まって、主人公が兄貴設定で颯爽と助け出すシーン、かっこよすぎて声出ました。でもその後が切なくて。酔って「住所ない」「歌舞伎町から来たの」ってところ、一瞬で彼女の事情が透けて見えて胸が締め付けられました。ラブホに連れて行くしかなかった葛藤も、吐く姿に寄り添う描写も、すべてが丁寧でリアル。この距離感、すごく好きです。次が気になります。