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隣家の夫婦に礼を伝え、明彦はぺこぺこと頭を下げる麗を実家に連れて帰った。
「お、お邪魔します……」
流石に友人の妹である女子大生を一人暮らしをしているマンションに連れ込むわけにはいかない。ホテルも考えたが、今の麗を一人にしたくなかった。
「あらあらいらっしゃい。客間を用意しておいたから、好きなだけ滞在してね」
予め連絡をしておいたため、母が出迎えてくれたのだが、深々と頭を下げる麗に何故かニコニコというよりニヤニヤと笑っている。
「いえ、あの、すぐ出ていきますので。お気遣いありがとうございます」
「とりあえず一ヶ月ね、わかったわ」
強引すぎて呆れることが多い母の決定に明彦は頷いた。
「麗音には麗を預かると連絡しておいた。しばらくはこの家で隠れていろ」
麗音の名前を出したら麗は逆らわない。
わかっているから口に出したのだが、麗音の名前など出さなくても説得できたのではと、無駄なことを考えてしまう。
「申し訳ございません。お世話になります」
そうして再び深々と頭を下げた麗は実家に滞在することになり、明彦もまた連れてきた責任があるため実家に戻った。
麗は父母にかなり気に入られた。
母の薔薇の手入れを手伝い、嫌そうな顔一つせず毛虫を割り箸で摘んだり、対して強くもないくせに教えたがりの父から将棋の手ほどきを受けたり。
弟とは距離をとっているものの、ほとんど身一つできた麗のため、洋服を通販で選んだりはしていた。
麗は家から出ることができないため家政婦を手伝ったりして、一日中なにかしらして働いていた。
仕事から遅くに帰ると、既に帰宅した家政婦の代わりに明彦の夕飯を温めてくれたりもした。
客なんだからのんびりしろと言っても麗は動いていたほうが落ち着くという。
そうして明彦が寝るころになると麗もまたやっと客間に引っ込むのだ。
そのせいで、まるでお嫁さんが同居してくれてるみたい。と、深夜、台所で水を飲んでいときに母に言われ、明彦は思わず吹き出しかけたこともあった。
麗はそういうのではない。妹のようなものだ。
麗を可愛がり続けているのは、勘違いしないからだ。
麗の一番は麗音で、そもそも誰かと恋愛するなんて考えたこともなさそうだ。
ちょっと親切にするだけで恋愛感情を向けられることにうんざりしていた明彦にとって、麗は手軽にヒーロー願望を満たせる相手。世話好きの自分にはぴったりの妹分。
それだけのはずだった。