コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
日がもう沈んだ頃、私達二人は公園に集まって座り込んでいた。流石に少し肌寒い。素足の部分を手で擦り暖める。
「寒い、なんで秋の時期にこんなこと……」
「家に花火が残ってて。邪魔だし捨てるのも勿体無いから、どうせならって思って」
「親はどうしたのよ」
「今日は役員会で遅いから大丈夫だよ」
「……なら、いっか」
一つの袋に入れられた線香花火の束。スマホのライトで照らしながら一本取り出す。
「今日、風もないし絶好の線香花火日和だね」
「季節、気温的には全然だけどね」
「もう秋だもんね。今年はラニーニャ現象で寒くなりそうだし」
「ええ、何それ……?」
それに答えることなく、まふゆは手に持っていたコートを私の肩に掛けた。確かに私はコートのような厚いものは持ってきていないし、暖かくてありがたいが。
「まふゆは寒くないの?」
「気温を見て厚着してきたから大丈夫」
「そっか」
今年は例年よりも冷えた空気。しかし私は例年通りの服を着ているから寒い。もう今は冬として捉えてもいいのかもしれない。
「それで、花火だっけ」
「うん。ライターはあるから」
「なーんか、まふゆに火を持たせると危険って感じる」
「どうして?」
「元は真面目だから、かな。火遊びさせるのは罪悪感じゃないけど、感じるものがあるんだよね」
「元はって普通に真面目だと思うけど」
「はいはい」
線香花火を一本手に取ったまふゆは、カチッとライターの火をつけた。
「せーので火に付ける?」
「普通にやればいいんじゃない?」
「勝負しないの?」
「動かなきゃいいから、絵名には勝てるよ」
「はあ、私のこと舐め過ぎでしょ!? せーのでライターに火付けて、同じタイミングで離すわよ」
「わかった」
そう言って、まふゆはもう一度ライターの火を点ける。「せーの」と言って、二人で線香花火を入れ合う。それからタイミングを見計らって、直ぐに二人一緒に火から出す。
火種が段々と大きくなっていき、パチパチと音を鳴らしながら火の粉を撒き散らしていく。直ぐには落ちず、どちらの花火も小石程度の大きさになり、多量の火の粉が飛び交い綺麗だ。
「線香花火って最後っていうイメージがあって、嫌なんだよね」
「大抵夏の最後にやる花火だからね」
「こんなに小さくて、音も静かなのに、めちゃくちゃ綺麗でなんかズルい──あっ」
大きくなった火種は、二人揃って落ちた。赤色に染まっていた火種は、二人揃って直ぐに黒くなった。
「一緒のタイミングだったね。仲良しじゃん」
「……うん」
「勝負つかないし、もう一回やる?」
「やらない。絵名と一緒のままがいい」
「ちょ、何それ、」
その発言にちょっと笑ってしまう。
「それなら線香花火の残りどうすんのよ」
「来年もやればいいよ。沢山あるから」
「……うん、そうだね」
まふゆに私がいる来年があるなんて意外だ。そしてまふゆから約束を取り付けられるなんて。
「朝顔も育てなきゃだし」
「うわ、忘れてた。なら夏にやること沢山あるね」
「うん」
暗くて顔は見えにくいけど、微笑むまふゆがそこにはいて、嬉しくなった。