「あのさ~そういうの二人っきりの時やってくんない? 弟的には姉のそういう姿ただ小っ恥ずかしいだけなんですけど」
「あっ・・・」
そう声をかけられてまたその存在に改めて気付く。
「樹さん大丈夫ですよ。逆に透子ちゃんのこんな姿オレには絶対見せたがらないんで、こんな乙女な姿あるの初めて知ったくらい。こんな透子ちゃんにさせるの樹さんだけだと思います」
「あっ、そうなんだ・・。うん。身内にまで嫉妬するとかオレ大人げないね」
気を遣ってそんな風に声をかけてくれて、どっちが年上かわかんないな。
だけど、透子のそんな話を聞いて嬉しくなる。
オレがどうやったって年下で、透子に追いつくのに必死で。
だから当然その年齢をオレ以上に重ねているだけ、何でも余裕で。
そして透子の初めては、オレが手に出来ないことがほとんどで。
初めての男になれなかったのは、どうしようもないし、いくら悔やんでも変えられないけど。
だけど、透子にとって初めて一番心から好きになる男でありたいと思う。
そして、せめて透子の初めての気持ちをこれから先感じるどんなことでもいい。
一つでも多くオレに感じてほしいと、そう思う。
「いや・・・。それだけ透子ちゃん・・姉のこと好きなんだなってわかりました」
「それは、誰にも負けない自信あるから」
もう透子への想いは誰にも負ける気もしないし、誰一人に対しても隠そうとも思わない。
「多分。透子ちゃんはオレのこと守らなきゃって気持ちが強いからだと思います」
「守る?」
「はい。父親がいない分、透子ちゃんは父親代わりにならなきゃって厳しくしたりその分甘やかしてくれたり」
「えっ・・・?」
初めて聞いた話だった。
そういえばオレの家族の話は流れで透子に話せていたけど、透子からはそういう話を聞けていなかったことに気付く。
きっとそれは自然と透子がオレの方に寄り添ってくれていて、自分はそういう雰囲気を出さずに今まで支えてくれていたんだなと思う。
「透子ちゃん? うちのことはもう話した?」
「あっ・・うちのことはまだ全然」
「そっか。ごめん。先に言っちゃって」
「うーうん。いつか話さなきゃなって思ってたから」
「父親がいないって・・・?」
二人で話していたところに声をかける。
「樹にはまだ全然うちの家のこと話してなかったよね」
「うん。オレん家の話はずっと透子に聞いてもらってたけど、透子ん家の話は聞く機会なかった」
「うちの話聞いてもらっていい?」
「もちろん」
オレの家は複雑な環境だから、透子と付き合っていく上で、どうしても知ってもらわなければいけない状況だったけど、あえて透子が話さなかったことで、勝手に普通の家庭環境なのかと思っていたのかもしれない。
「うちの両親ね、二人で一緒に自分たちの作る料理で皆に笑顔になってもらいたいって、洋食店開くのがずっと夢で。私や悠翔が産まれて、なかなかその夢も実現出来なかったんだけど、ようやくその夢叶えられたのが私が15で悠翔が5歳くらいだったかな」
「ご両親料理人だったんだ」
「そう。だから私もまだ小さい悠翔の面倒見ながらお店手伝ったり」
「それで透子料理上手かったんだ?」
「まぁ。そんな二人の近くでいろいろ見てたら自然に覚えていったし、私もその血引いて料理好きだったんだろうね」
「そっか。だからか」
「あのハンバーグもね。実はうちのお店のレシピなんだ。あのソースもうちの特別なソース」
「そりゃ美味いはずだ。あれは手料理の域超えてたもん。ホントプロみたいな味だった」
初めて透子に作ってもらった手料理。
好きな人に作ってもらった料理ってだけで、きっとどんな料理でも嬉しかったし、どんな料理でも美味しいと感じていたのだろうけど。
だけど、そんなの関係なしにしても、透子が作ってくれた料理がホントに美味すぎて。
しかも、それを手慣れた感じで手際よく作ってくれてたことも印象的だった。
正直家庭的には裕福で昔から外食もそこそこいいとこに行ってるだけに、料理の味もわかる方だとは思う。
だけど、その分家庭で食べる手料理やそういう状況にはあまり縁がなくて、そっちの方がよくわからないかもしれない。
そんな状況で作ってくれた透子の料理は、店で食べるくらいのレベルの美味さで、それでいて、なんかオレがちゃんと感じたことのない家庭的な味も入っているような気がして、なんだか懐かしい温かい気持ちになれた料理だった。
「ハハッ。ありがとう樹。それでお店開いてもうすぐ10周年迎えようってなった時に、父が買い出しの途中で不慮の事故に遭っちゃって・・・」
「・・・え・・・?」
「そのまま父はこの世を去ってしまった。ホントなんかあっけなくて信じられなくて。私もちょうど今の会社就職し始めたところで自分自身まだその場所でも慣れてないし、ハルくんはまだ中学生だったし、正直その頃はホント大変だった」
「そう、なんだ・・・」
正直予想していなかったことで、言葉を失った。
透子の方がオレよりもっと辛い人生を味わっていた。
透子に比べれば両親はお互い好きなことして、そこそこ成功して。
正直金銭面では何不自由なく過ごせてきたし、ただオレが自分の家庭環境に反発していただけ。
そんな状況なのに甘えてずっとフラフラしてる時に、透子はそんな苦労をして頑張っていたなんて。
きっと、オレが出会った時も、すでにそんな苦労や悲しみを背負っていたんだよな・・・。
「母はショックでしばらく何も手につかなくて、しばらく何年かお店も休業してた。私ももう母がツラいならそのままお店閉めちゃってもいいかなって思ってたし、どうしてあげたらいいかわからなかった」
「そりゃそうだよね・・」
「うん。で、その辺りにちょうど前の彼と出会ってお付き合いしてて、後々に結婚っていう未来勝手に描いてた。私もそんな母を見て安心させてあげたかったのもあるし、私自身も結婚して落ち着きたかったっていうのもあったんだよね。でも結局それはただ結婚に逃げてただけなのかも。目の前の何かにすがって現実から抜け出したかっただけだったんだろうなって今は思う」
「そっか・・・」
やっぱりそうだった。
だけど、そんな状況だから、あんなにも透子はあの人に頼っていたんだとわかる。
きっと一人で家族も支えて、だけど、そんな自分も自分では抱えきれなくなって。
そんな時に出会った年上の大人な男が近くにいたら、きっと惹かれただろうし、支えてもらいたくなったんだろうな。
だけど、それがオレじゃなかったのがすげー悔しい。
そんな時に支えてやれる男がオレじゃなかったことが悔しい。
どうやったってそんな頃のオレはフラフラしていたし、なんの責任も取れない男で守ってやれる力も覚悟もあるはずもなかったくせに。
絶対オレがそんな存在になれなかったのはわかっているのに。
だけど、そんな辛い想いをしていた時に、傍にいれなかったことが悔しい。
どんな自分でもただ透子の傍にいたかった。
どんなカタチでも支えたかったし力になりたかった。
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