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まきぴよ
標本のような夜に「……めめ、起きて。着いたで」
康二の優しい声で、目黒はゆっくりとまぶたを持ち上げた。
窓の外は、深夜の静まり返った都心の景色。送迎車の助手席から、康二が心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「あ……ごめん。寝てた」
「ええよ。最近、ドラマの撮影で全然寝てへんやろ? ほら、荷物持つから」
マンションのエントランスまでの短い距離。
夜風が火照った体に心地いいはずなのに、目黒の足取りはどこかおぼつかない。
極限の忙しさの中で、心と体のバランスが少しずつ崩れているのを自分でも感じていた。
部屋に入り、明かりをつける。
「康二、もう遅いし、帰らなくていいよ。……今日は、一人になりたくない」
ボソッと呟いた目黒の言葉に、康二は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにふにゃりと眉を下げて笑った。
「言われんでも泊まってくわ。めめ、顔色悪いもん」
康二は手慣れた様子でキッチンへ向かい、冷蔵庫にあるもので手早く温かいスープを作り始めた。
目黒はソファに深く沈み込み、その背中をじっと見つめる。
普段、カメラの前では「完璧な目黒蓮」を演じている。
かっこよくて、冷静で、みんなを引っ張る存在。でも、康二の前でだけは、24歳の等身大の自分に戻れる気がした。
「ほら、飲み。体温めなあかん」
差し出されたマグカップを両手で包む。スープの湯気が視界を白く染めた。
「……康二」
「ん?」
「俺さ、たまに怖くなるんだよね。みんなが求めてる『目黒蓮』と、本当の自分がどんどん離れていってる気がして」
思わず漏れた弱音。
康二は黙って目黒の隣に腰を下ろすと、大きな手で目黒の頭を優しく撫でた。
「めめは、めめや。ドラマでキラキラしてるのも、こうして俺の横でふにゃふにゃしてるのも、全部本物やで」
その温かさに触れた瞬間、張り詰めていた糸がプツリと切れた。
目黒はマグカップをテーブルに置き、康二の肩に顔を埋めた。長いまつ毛が震え、康二のシャツに小さな染みを作っていく。
「康二……好きだよ」
「知ってる。俺も大好きや」
康二の腕が、目黒の背中に回される。
いつもは目黒の方が背が高く、守っているように見える二人だが、この瞬間だけは、目黒が小さく、守られる側に見えた。
康二は目黒の顎をそっと持ち上げると、濡れた瞳を覗き込む。
「今日は全部忘れて、俺に甘えてええよ」
重なる唇は、スープの味がした。
激しい情熱というよりは、お互いの存在を確かめ合うような、深く、静かなキス。
目黒は康二の首に腕を回し、さらに深くしがみつく。
「……明日、起こしてね」
「当たり前やん。最高の朝ごはん作ったるから」
外の世界では誰も知らない、二人だけの秘密の時間。
目黒は康二の腕の中で、久しぶりに深い眠りへと落ちていった。
コメント
3件
めめこじー!!めっちゃ最高です!