テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌日――。
五月晴れの空の下、グラウンドは熱気に包まれていた。
今日の体育は、特進クラスと体育進学クラスの合同授業。
種目は男子サッカー。
「ナイスパス!」
味方から転がってきたボールを受けた瞬間だった。
(……あれ?)
考えるより先に、身体が動く。
足元に吸いつくようなトラップ。
自然と前へ出る足。
相手の重心移動が、まるで見えているかのように分かる。
(え、ちょっと待って!?)
一人、二人――
気付けば私は鮮やかなドリブルで相手を抜き去り、ゴール前へ飛び込んでいた。
(なにこれ!? 玲、身体能力までチートなの!?)
右足を振り抜く。次の瞬間――
ズバァン!!
ボールが美しい弧を描き、ゴールネットへ突き刺さった。
「おおおおっ!!」
「如月!?」
「今のシュート、エグっ!」
「マジかよ!?」
歓声が響き渡る。しかし――
(え……?)
一番驚いているのは、他でもない私だった。
(今……ドライブシュート打った? 無意識で?)
怖っ!!
給水の合図と共に、私はベンチへ避難した。
冷たいスポーツドリンクを喉に流し込む。
(玲、スペック盛りすぎじゃない?)
秀才。生徒会長。超絶美形。
その上、運動神経までトップクラス。
(神様、欲張りにもほどがある……って、設定したの私か……。)
思わず、心の中でノリツッコミをしてしまう。
「おい、如月!」
ザッザッと砂を蹴る足音が、大きな声と共に近付いてきた。
振り返れば、神城豪がこちらへ駆け寄ってくる。
汗で少し濡れた短髪に、健康的に日焼けした肌。
体操服越しにも分かる鍛えられた身体――
(きゃーー! 生、体操服の豪! 解像度が高すぎるっ!!)
脳内の限界オタクが、恥ずかしさと喜びで小躍りしていることなど知る由もなく、豪は爽やかな笑顔をこちらへ向けた。
「お前、運動までそんなにできたのかよ! 正直、昨日の朝のこともあったから警戒してたんだけどさ。今のシュート見て全部吹っ飛んだ! お前、熱いな!」
裏表のない性格。その真っ直ぐな笑顔に、胸の奥がじんわり温かくなる。
「ありがとう。でも、豪に比べたら俺なんて全然だよ。」
「ん?」
「目標のために、毎日遅くまでサッカーの自主練してるじゃん!」
「……え?」
豪が固まった。
「お前……なんで知ってるんだ?」
(しまったぁーー!!)
ついうっかりと、開発者知識を漏らしてしまった。
(やばい。豪はサッカー選手になる夢のこと、内緒にしてるんだった!! それ、個別ルート後半の秘密!!)
「あ、いや! 昨日、夜遅くにコンビニに行ってさ? そこで、ほんと、偶然見かけたんだっ!」
慌てて誤魔化す。
えっ? 御曹司が? 夜にコンビニ?
突っ込むところがいっぱいある言い訳だったが、豪の耳には全く入っていないようだった。
自分の秘密がバレた衝撃に、目を見開いたまま動かなくなってしまった。
オレンジの髪の隙間から覗く耳が、じわじわ赤くなっていく。
「そ、そんな大したことじゃねぇよ……。」
「大したことあるよ!」
「……!?」
「努力って、一番難しい才能だから。豪は、それをみんなにひけらかさないで、当たり前に続けてるから……。そういうところ、本当に尊敬してる。」
推しとして、一人の人間として――心からそう思った。
「お、俺だって!」
すると、豪が突然声を張り上げた。
「お前のこと、すげぇと思ってるし! 頭良くて、運動できて、生徒会長やって……誰より人のこと見てて! そんなやつ、そうそういねぇだろ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ姿に、思わず頬が緩む。
(か、かわいい……!)
大型犬だ。照れる大型犬がここにいる。
(ありがとう、昔の私……。豪をこんな最高の男に育ててくれてありがとう……!!)
昔の自分に想いを馳せていた私は、前世で何度もテストプレイした豪ルートを思い出していた。
主人公サクラが幸せそうに笑っていたあのシーン。
自然と、言葉が零れる――
「豪って、本当に優しくて暖かくて……。豪が彼氏になったら、きっと幸せだろうなぁ。……その人が羨ましい。」
それは、主人公サクラが豪に伝える台詞だった。
だが――
如月玲の整いすぎた顔。
吸い込まれそうなアメジストの瞳。
そして極上イケボ。
そんな状態で真正面から、
『豪が彼氏になったら幸せ』『その人が羨ましい』と言われた男の脳は――完全に停止した。
「…………は?」
数秒の沈黙。そして――。
「か、彼氏ぃぃーーっ!?」
絶叫がグラウンド中に響いた。
「えっ!?」
「お、お前、今なんて!?」
「いや、だから豪みたいな人が彼氏だったら――」
「うわあぁっ!?」
豪は頭を抱えた。
「お前っ! 昨日に続けて今日も!! 俺をからかってんのか!?」
「えっ? からかう!? いや、本当のことを言ってるだけなんだけど……」
「はぁっ!? お、お前、何考えて!? いや、おかしいのは俺か!? 何考えてんだ俺ぇ!?」
「豪!?」
「こっち見るなぁ!!」
ズザザザザァッ!!
盛大な砂煙を上げながら後退する。
「ご、豪っ!?」
「来るな! お願いだから、それ以上近付くな!!」
「えぇっ!? なんで!?」
「俺だって分かんねぇんだよぉー!!」
そう叫ぶと、豪は全力疾走でグラウンドの端へ逃げていった。
砂煙だけを残して消えていく背中。
私は首を傾げた。
「……え? 何、今の?」
しばらく考えて――ぽん、と手を打つ。
「そっか……隠れて努力してたところを褒められるの、恥ずかしかったのかな?」
うんうん、と一人で納得する。
「豪って……意外と繊細なんだなぁ。」
もちろん、その解釈は盛大に間違っていた。
グラウンドの端――
豪は顔を真っ赤にしたまま、しゃがみ込んで頭を抱えていた。
「なんなんだよ……あいつ……。」
ドクンドクン。心臓がうるさい。
「大好きとか彼氏とか……。そんなの、意識するに決まってんだろ……。」
呟きながら空を見上げた。
#ファンタジー
東屋 朧
200
兎束作哉
5,492
結愛
40
コメント
1件
うわあ、今回も面白かったです!豪くんが「彼氏!?」って絶叫しながら全力で逃げていくシーン、思わず笑っちゃいました(笑)あおいさん、玲の身体で無自覚にドライブシュート決めちゃうし、つい開発者知識で豪くんの秘密をバラしちゃうし…でも一番ツボだったのは「豪って…意外と繊細なんだなぁ」って完全に誤解してるラスト!大型犬ヒーローが赤面して頭抱える姿、めちゃくちゃ可愛かったです💕