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第21話:光のコード、歌を持たぬ鍵
都市樹の高層と深層をつなぐ中間層、転写節帯(てんしゃせったい)。
そこには、命令歌も記録虫も使われず、
ただ光だけで管理された“閉じられた空間”が存在していた。
「ここが……歌を持たない“鍵の間”?」
ルフォが声を落とす。
金色の羽は昇りかけの光を受けて、やや青みを帯びていた。
尾羽の縁に刻まれた微細な反射紋様が、わずかに脈打っていた。
その隣に立つシエナは、
ミント色の羽を枝に沿わせ、視線の先にある“無音の門”を見つめている。
尾羽は完全に静止し、光を受けずともわずかに内側から輝いていた。
肩にはウタコクシ。小さく翅をたたんでいるが、かすかな振動をシエナの肩へ伝えていた。
門は、枝と樹皮が組み合わさったような構造をしていた。
音では反応しない。
命令歌をいくら送り込んでも、枝は沈黙を保つ。
そのかわり、表面には**光を受ける“導脈模様”**が描かれていた。
「これは……光のコードだ」
ルフォが尾羽を広げる。
そこに刻まれた操作士用の反射模様を利用し、
門の模様と合わせて光を送ると——
返ってきたのは、無音の反応。
光の導脈が一瞬だけ輝き、
門の表層がゆっくりと“枝の層”へと分かれていく。
音はない。匂いも出ない。
ただ、光だけが、その空間を“開いた”ことを伝えていた。
シエナが一歩踏み入れる。
ウタコクシが微かに鳴き、
その音に共鳴して、室内の苔がわずかに光を弾いた。
そこにあったのは、都市の設計以前に存在していたと思われる空間。
音で動く都市の前に、
記録する虫の前に、
“光だけでつながる文明の名残”。
「……これが“歌を持たぬ鍵”なんだ」
ルフォは息をのむ。
ここでは歌は無力。
だが、**尾羽に刻まれた“光のリズム”**がすべてだった。
シエナがそっと尾脂腺を動かすと、
香りを伴わない微光が尾羽の先から放たれる。
その動きに、天井の脈動が応えた。
それは、**命令でも共鳴でもなく、“存在の同調”**だった。
この空間は、
歌を持たない者のために設計されていた。
そしてそこに残されていたのは、
“光のコード”でしか解読できない——古い枝の記憶群。
それは次第に浮かび上がり、
**かつて「言葉を使わずに暮らしていた都市の構造」**を語り始めた。