ドキドキする。言ってしまったらどうなるんだろう、どんな反応をされるのかとにかく怖かった。
 栞「実は……私は未来から来ました!!」
 (やっと言えた……)
 総悟「………?!」
 栞「もっと驚くのかと思ってたんですけど?!」
 総悟「驚いておる。しかし、未来からとは予想外だ。あの腕時計とやらもそうなのか?」
 栞「はい」
 ガタッ
 音の方に視線を向けると 銀次さんが立っていた。 彼の目は驚きと疑念で大きく見開かれた。まるで信じられない話を耳にしたかのように、口を開けて言葉を失っている。
 銀次「?!、 すまん盗み聞きするつもりは無かったんだ。
早めに仕事が終わったから帰ってきたら……冗談だろ?」
 銀次さんが半信半疑で問いかける。声には微かに震えが混じっている。
 栞「……本当です」
 これまでの経緯を2人に話した。
 銀次「そうか…本当に未来から」
 総悟「栞の暮らす未来はどうなっているんだ?」
 栞「武士は1人も居りません。技術が発展し人々はより良い暮らしを過ごしています」
 総悟「武士は居なくなるのだな…」
 少し寂しそうな目をしながら呟く。
武士道を志す総悟さんにとっては武士が居なくなるというのは悲しい事だろう。
 栞「はい。それだけ平和な世の中になったという事です」
 総悟「そうだな」
 銀次「『技術が発展』と言ったな。きっと疫病を治す薬もできているんだろうな 」
 栞「黙っててすみません。中々言い出しずらくて…」
 騙してしまった罪悪感で2人に顔向けできないまま俯いていた。
 銀次「気味悪がられるとでも思ったのか?そりゃー最初のうちは変わった格好の奴だなぁとは思ったが…」
 栞「やっぱり?!」
 銀次「だが、人は中身だ。どんだけ面の良い奴と居ても中身が良くないと一緒に居たく無くなるだろ」
 総悟「確かに大切なの気持ちだ。俺の親の死を誰一人として悲しんではくれ無かったが、栞が泣いてくれた時凄い嬉しかったんだ。
一緒に悲しんでくれる人が居てきっと父上も母上もあの世で安心してるだろなって。
ありがとな栞」
 銀次「俺も両親が死んでずっと独りで過ごしてきたがまた、『いただきます』って栞と言える事が嬉しかった。独りじゃないって思えたんだ。
ありがとう栞」
 人の死を悲しむのも誰かと食卓を囲む事も当たり前だと思っていた。
でも、その当たり前が普通じゃないことに 何だが目頭が熱くなってきて 視界が涙でぼやけてくる。
 栞「私も皆さんに会えて良かったです……こんな私に優しくしてくれて、暖かく接してくれてっ…あ”りがどうございますっっ」
 拭っても拭ってもどんどん涙が溢れてしまう。
その日は泣き疲れて早めに眠った。
 チュンチュンッッ
 今日、銀次さんがこの家を出ていく。
 総悟「長いこと世話になったな。今までありがとう。」
 銀次「おう。体に気をつけろよ」
 栞「たまに会えたり出来ますか?」
 総悟「おう。その時はまた皆で銭湯に行こうな」
 栞「はい!」
 三人での同居生活は笑ったり泣いたりとても楽しい日々だった。
 銀次「佳代も見送るっつってたんだけど…居ねぇな」
 栞「そういえば居ませんね」
 周りを見ても佳代の姿は見当たらなかった。
 総悟「佳代にも『色々と世話になった』って伝えといてくれ」
 銀次「わかった」
 (もう行ってしまうのか…ん??)
 タタタッ
 耳を澄ますと、どこからか走ってくる走音が聞こえる。
 佳代「総悟さんっっ!!!」
 走音の正体は佳代だった。
佳代「ごめんさない、開店の準備に時間が掛かってしまって遅れたの」
 急いで走ってきたせいか、汗をかいており、膝に手をつき息を切らしながら喋る。
深呼吸をして息を整え、真っ直ぐと総悟さんの目を見る佳代。
 ーそしてー
 佳代「私は貴方の事が好きです!!」
 (えぇぇ?!?!)
 唐突な告白に思わず驚く私達。
 佳代「本当は伝えずに隠し通すつもりでした。けど、出ていくって聞いて…今しか言えないって思ったんです」
 総悟「…………。」
 一瞬驚いた表情をしたものの返事が決まったのか総悟さんも真剣な顔で佳代に言った。
 総悟「ありがとう。だが、申し訳ない。佳代にはもっと素晴らしい人がいるはず。俺のような者では無くもっと佳代に 相応しい人を見つけて欲しい」
佳代「初めからこうなるんじゃないかって分かってたんです。でも、言えて良かった。スッキリしました!私の方こそ返事返してくれてありがとうございます」
その後、総悟さんは私達に見送られながら去って行った。
総悟さんの姿が遠く小さくなった時、佳代は我慢しきれなくなって泣き出した。
しゃがみこみ、両手で顔を覆う佳代の背中を擦りながら私達は総悟さんの姿が見えなくなるまで見つめていた。
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