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1話目 底辺お嬢様は、やさしいせかいで笑いたい
日本のプリンセスは、格別だ。
そう言ってもらう為、エプロンを着た婦人たちは今日も忙しなく、子供用のワンピースやドレスの図案を広げ、ミシンにかける。
ぴったりとしたワンピース。
裾の長いお着物。
スラっと着こなして、カメラに向かって笑顔を見せるのは、船橋家の次女・すみれ子である。
ポージングのお稽古は、1ヶ月にも及ぶ。
本番には、海外からカメラマンさんが来てくれるので、お出迎えと丁寧な挨拶から始める。
そんなお嬢様の住まいは、都心の真ん中に堂々と建つ、お城のような外観の豪邸だ。
ビルと緑に囲まれた住まい。自宅兼会社になっており、父・船橋涼平の経営する『株式会社ブルーストーン』が入居している。
つまりすみれ子お嬢様は、社長の娘。
まだ子供の身体で、お稽古や撮影は大変だけど、
他の子供がどんな過ごし方をしているかなんて知らない。
お稽古の期間は小学校もお休み、日焼けや怪我を防ぐために公園だって1人で足を踏み入れた事がない。
生まれながらにお嬢様。
毎日何かしらのスケジュールがあり、宿題があり、本番がある。
他の遊びに興味がいったことはない。友達を作ろうと思った事もない。
体力的には大変だけど、気持ちは案外平気だ。上手くいくと褒めてくれるお手伝いさん達も多い。
お父さんとお母さんは…撮影の時チラッと姿が見えるだけで、普段自宅で会うことはない。
時々挨拶はするけど…、スキンシップをした事も、一緒に寝た事もない。「(まぁ良いか…。)」
自我薄お嬢様。時の流れに従って、体は大人になる。
体は大人になるけど、下着は子供の時のまま。着物は作ってもらえるけど、表に見える事のない下着という物を作りたい人はいないという。
東京駅に、春を感じる暖かな風が吹く。
3月を迎えた今日も、船橋庭苑はビルと緑に囲まれている。
どこかで、スズメがチュンチュン鳴いている。
船橋すみれ子は、この春大学を卒業する予定だ。
ふかふかのソファに、清潔感のある白いテーブル。
スラリとした大人になった意思薄お嬢様は、自室で小物を整頓している。
そんな心地の良い朝に、ふと窓を見て考え事をするお嬢様。
気づいたら成人していたな…と、卒業を控えて思う。
衣服も、食事量も、外出も、自由という概念の存在しないこのお城。
体だけは大人になって、一丁前にお姉さんな顔になった。
箱入りだ、世間知らずだ、温室育ちだと、後ろ指をさされたあの光景は、ずっと発信などせずに、隠し守りきるべきなのだろうか。
私は幸せなプリンセスだ、と言う、
何一つ不自由なく過ごしてきた、と言う、
そんな大人になるか、それとも…、
その時、廊下からざわざわと話し声がした。
「え、すみれ子お嬢様の就職先!?」「ブルーストーンと合併!?」「でも涼平さんがそのまま社長ですって!」
思わず目を見開いて、廊下の方を見るすみれ子。
すみれ子の就職先P社は、弊社ブルーストーンと競合他社ながら非常に仲が良かった。
P社の従業員がこちらに足を運ばせる事も多く、子供ながら良い人達なんだなと感じていた。
明日から、研修も始まる予定だ。
3月の穏やかな風と、なびく髪の毛が、お城の中でキョトンとしているお嬢様を、ふわっと包んだ。
コメント
1件
れいなさん、第一話拝読しました🌷 「下着すら子供のまま大人になった」すみれ子さんの閉塞感がひしひしと伝わってきました。お城のような豪邸にいながら、自由も愛情も知らず「まぁ良いか」で流してきた心の距離感が痛いほどリアルです。就職先の合併ニュースを聞いて、初めて世界が動き出す予感が——この先、彼女がどんな「やさしいせかい」を見つけるのか、とても気になります。続きが楽しみです!
ひなた主
111
あんころもち
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