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バカ強い旅人が、配下たちを次々となぎ倒していった。
そんな報告を耳にしたのは、奴と出会うほんの数日前のことだった。
『誰であろうが関係無ぇ!オレ様に勝てる訳が…』
そんなちっぽけな自信と一緒に俺の体が城から吹き飛ばされたとき、春風が吹いた。
夜ももう近いころだったのに、どうしてか暖かい風だった。
『――大丈夫?』
落ちた先でかけられた声は、間違いなく俺を負かせた相手で、その目には同情も哀れみも、一切の感情が見受けられなかった。
『くそぅ…次は絶対に負けねぇからな!覚えてろ!』
でも、そんな奴だとしても、自分が負けたことは許せなかった。
来る日も来る日も挑んでは負け、挑んでは負け。執念でやっとホバリングを会得したと思ったら、今度はコピー能力とかいう訳分かんねぇ力までモノにしてきて。
越えられなかった。でも、追いつきたかった。
『うわあ…助けられちゃった。デデデはやっぱり強いね!』
はじめて隣に並び立てたとき、そう言われたのが何よりも嬉しかった。やっと対等になれた。そんな気がしたから。
――なのに…
「…どこに行っちまったんだよ、あの野郎…」
あの日、地に突き立てた剣を交わしあった瞬間から、彼との因縁は深まっていった。
『堕落に満ちたプププランドを、この手で変えてくれる!』
そう息巻いて革命を起こそうと動いたときも、彼は何度も私の前に立ちはだかった。夕日に沈む戦艦の中、己の感情を全てぶつけ、そして負けた。
『ちゃんとした“平和”もいいと思うけど、ぼくは今のプププランドが好きだから』
それだけ。たったそれだけの意思で、私の逆襲はあっけなく幕を閉じた。
何度も闘いを挑み、時には協力関係になりながらも、年月は過ぎていく。それなのに、追い越せない。並び立てたことこそあれど、追い越すまでには至れなかった。
『何故、そなたはそんなにも強いのだ?』
あくる日、そんなことを訊いた。しかし真剣に訊いたつもりだったのに、笑われてしまった。腑に落ちずに問い詰めてみれば、
『いやぁ、メタナイトっていつも必死そうだなあって。ぼくはそんな風にはなれないからさ』
敵わないと思った。確固たる理由があったわけではないが、本質的にそう思ったのだ。
だから余計に、追いつきたかった。もう一度、隣に並び立つだけでもいい。それぐらい、強くなりたかった。
――でも…
「何故そなたは、こうもすぐに旅立ってしまうのだ…」
「はぁーー………どんだけあるんだよ、これ…」
「ツベコベ言うナヨ。前にラクした分ダト思えバ?」
「黙れよアホロア」
「うっせぇわマルクソ」
互いに愚痴をぶつぶつ言いながらも、またひとつ夢の泉を繋ぐ。これでようやく七つ。あの彗星を呼びだすのに必要な分だ。
「分かってるよなオイ?くれぐれも変なこと願うんじゃあねえぞ」
「ソノ言葉そのままキミにお返しスルヨ」
とか言いながら、底では野心を抱いていることだろう。もちろん、互いに、だが。
(銀河の大彗星、ギャラクティック・ノヴァ……かつてのボクが、追い求めた存在)
ポップスターを我が物にしたい。そんな大きな願いを叶えてもらうため、わざわざ“奴”を利用して立てた計画。結果的には阻止されてしまったが、今の生活もまあまあ楽しいからそれで良かったのかもしれない。
…それが心からの想いなのかは、まだ分かっていないけけど。
「で…発案者はボクなんだから、ボクがお願いするのでいいよな?」
「ハァ?お前、ドーセ自分の願イを言うつもりダロ。ダカラ、ボクがやる」
「…チッ、まあいいのサ。割り込みはボクの専売特許だし」
「オイオイ…」
まあそんなことはしないけど、とは言わないまま、ローアに乗り込む。前にノヴァが出現したのは、ここハーフムーンの近くだった。同じ座標を目的地にして、ローアが飛び立つ。と言っても、このスピードならあっという間だ。銀河の遠く彼方で瞬く星々が後ろに流れていく様は、まるで流星群でも眺めている心地だった。
「さて、と……もっかい言っとくぞ?マジで、くれぐれも、余計なことは言うな」
「分かっテル」
「…あー……そっか。キミのだーいすきな『ベストフレンズ』のことだもんねぇ?変なこと言うわけないかぁ?」
「コイツ……後で○ス」
確固たる意思で言われた気がした。しかしそれは相手にはしない。こんなことを言ってはいるが、互いに思いは一つ。
過ぎていった春を、もう一度取り返す。
「……着いたヨ。降りるナラさっさと降りロ」
真っ先にローアから追い出された。あいつは多分、ちゃんと停泊させてから来るつもりだろう。そう思っていると、さっそく中から人影が出てきた。
「…用意はいいな?」
「ウン。二度手間は嫌ダカラネ」
泉を周って集めた星を解き放つ。七色の星がくるくる回って光る。
『――READY・>』
瞬きの間に現れたのは、金色の巨大彗星。垂れた瞼をゆっくりと上下させながら、擦るような音を放つ。
『アナタの・ねがいを・ひとつだけ・カナえて・さしあげマス・・・>』
相変わらず区切れの多い話し方だな、とふと思った。前と全く同じ台詞なのは、流石に機械だと感じる。
ふと横を見る。青いフードに包まれた耳が、ふるふると揺れる。かちかちと秒針の鳴る音と、歯車が回る運動で生まれる気流が、ここまで届いていた。
一瞬だけ額が見える。うっすらと、ダイナブレイドにでも鷲掴みにされたかのような傷跡が目に入った。
「……願いナラ、最初カラ決まっテル。
星のカービィに、会イに行きタイ!」
あいつの乗りこなす星のような輝きを湛えて、マホロアは言った。
額の傷のことを振り払ってしまいそうな、強い勢いと決意を込めた声で。
『…OK>3・2・1・GO!>』
実行コードが起動でもしたのだろう。歯車は回転する速度を上げ、気流は地鳴りに近い音を伴った強力なものになった。それは、神出鬼没な旅人を捜し出すのには相当な難易度がある、そう言っているような、そんな感じだ。
「…………ローア?」
ふっと呟くような声がして、思わず声の主を見る。横にいるマホロアはノヴァの様子には見向きもせずに、ただ彼の愛船がある方向をじっと見ていた。
「…いったい、何なのサ…」
つられて更に90度回転する。そこには、宇宙空間の闇とは真反対の、純白の美しい船体がある、はずだった。
「なんで、ローアが光ってるのサ…!?」
そう。さっきまで何も異常のなかったローアは現在、眩しすぎるほどの光に覆われていたのだ。
「ローアァァァァ!?大丈夫カイ!?もしかしてボクに早く戻ってキテ欲シイノ!?ソレともコイツが何かヘンなスイッチでも押しタ!?」
「ノロケながら自惚れるのやめろ。あとボクに罪をなすりつけるな」
その様子は相変わらずながらも、表情に表れる気持ちだけは隠しきれていない。やはりローアとカービィのことになると、こいつは本気だ。
『……星のカービィの・位置を・登録しました>さらに・天駆ける船に・追跡機能も・つけてありマス>』
それだけをサラッと言い残して、 銀河の大彗星はその姿を消した。
「……エート、つまり…」
「これで追っかけろってことだな」
発光が収まったローアを振り返った。ここからはまた、天駆ける船での移動になりそうだ。
「…ホラ、サッサと乗れよ。お前じゃないと、この船動かないだろ」
未だに呆然としているマホロアを引っ張って、ボクたちは扉へと向かった。
「ウワ…ホントに、 現在地と詳しい座標が登録されテル…」
「…そういや、ローアとノヴァって同じ場所で製造されたんだったな…」
その技術力にやや引き気味の中、マホロアはそっと発進ボタンを押した。
「てか、なんでわざわざこんなこと願ったのサ?ノヴァに直接連れてってもらえば良かったのに」
「…ノヴァ使ったってバレたら、恥ずかしいんダヨ」
「……ま、そうだな。それに“こいつ”にも、花は持たせてやらないとだし」
スクリーンに向かって話しかける。心を持つ船は応えない。それはまだボクが信用に値しない存在だからか、ローア自身が必死に動いているせいかは分からなかった。
「…あとどれくらいで着く?」
「ウーン……ローアの秒速がコレクライ、ワープスターの秒速がコレクライダカラ……ザット数分ダヨ」
「おけ、んじゃそろそろウォームアップしてくるわ。コピーお試し部屋貸してちょ?」
「リョーカイ。壁破損スンナヨ」
「…善処する」
もし壊しでもしたら、修繕に付き合わされるのだろう。何かしらイタズラを仕込んでおくのもアリだとは思ったが、ハルカンドラの産物をいじるのは何となく気が引けた。
苦い顔を背け、カツカツと左へ走る。木靴が床と当たる音が、よく響いていった。
(まー、どこでも同じだろ)
一番手前側にあった、ソードのマークが見える扉をくぐる。通路をくぐり抜けると、眩しい照明の光が満ちる部屋に着いた。下には五つのコピーのもと、これのラインナップは扉周りについていたものと同じだ。とりあえず端まで行って梯子を掴み、ぴょんと上の足場に飛び乗る。そこの中心部あたりにある台の上には、素朴な見た目の人形が置いてあった。
『サンドバッグさんを思いっきり攻撃シテネェ!色々な攻撃を試してミヨウ!』
ホログラフのマホロアが、猫を被ったニコニコ顔で喋る。それにぶつけるつもりでボールを蹴った。パンッ、と花火がはじけるような音が鳴って、ボールが破裂する。
(調整はばっちり…)
次にきらめきのはねを出して、消費魔力の少ない基本の技を繰り出す。威力はいつも通り、とは言いきれなかった。無意識に力んでしまって、魔力の出力が安定していないらしい。
(…それに、さっきのボールだって)
道具の調整自体はばっちりだった。でも、角度が決まらないのだ。自分の想定以上に足を振り上げてしまった気がする。
(クソ…時間ないってのに…)
コツコツ、コツコツ。木靴が床を蹴る。イライラというより、焦りに近い。平常心、と心の中で繰り返したけど、やっぱり焦りは止まらない。
「――オーイ、捕捉シタカラそろそろ戻レ」
「もうかよ…今行くのサ!」
いつも通りなマホロアの声を聞いた。焦りはまだ加速したままで、ボロボロになったサンドバッグさんとコピーお試し部屋を後にして、行きと同じ扉をくぐって、ローアのスクリーン前に戻った。
「今どのへん?」
「マダ気づかれテナイ、ハズ。アト少しシタラ追いつくハズダケド、タブン逃げらレル。
…ダカラ――」
キーを叩く。歯車が、エナジースフィアが回る音がする。スクリーンには、ワープスターに乗ったピンク色と、それを捕捉した照準が映っている。横にあるゲージが、どんどん上昇していく。
「逃げられナイヨウニ、墜トス!
ローア、“エムブレムショット”!」
「………はあぁぁぁ!?何やってんのサ!?」
迷いのない指示に、ローアは弾幕を張る。勢いも、密度も、避けるのには難しいくらいだった。
(……っ!!)
「おいローア!“守れ”!」
着弾で起こった爆風の中に、星の光が見えた。その意味を本能的に理解して、叫ぶ。
――どんっっ
(……痛い、)
強い衝撃を受けた船は大きく揺れ、体は壁へと叩きつけられた。マホロアの方は制御パネルにがっしりと掴まっていて、叩きつけられる代わりに圧力を受けたせいか、心なしかぐったりとしていた。
「……“スフィアバリア”、間に合ったのサ……」
自分の指示が間に合ったことへの安堵感、はじめて意思が通じた嬉しさから、ほっと息をつく。
…もしかしたら、ローア自身が危険を感じただけだったのかもしれないけど。
「…で、あいつは?」
「大丈夫、マダ居る。何ナラ――」
スクリーンに映る爆風は徐々に晴れてきていた。宇宙の景色が見えてくると同時に、ひときわ眩しい星の姿を捉える。
『スフィアバリア破損状況、86%。エナジースフィアのエネルギーも、不足しています』
「オッケー、ローア。展開解除シテイイヨ。壊れかけのバリアなんてタブン使わナイシ、全部エネルギーに変換シヨウ」
「あいつ、ワープスターで突っ込んできやがった……」
驚きを超えてもはや呆然。あの状況で逃げではなく、撃墜を狙った攻撃を選ぶとは思えなかった。
「……サテ、出番ダヨ歩兵」
「せめてボクのことは竜馬と呼べ。
……まあいい。行ってくるわヤンデレ」
マホロアはついて来なかった。ローアはもう、自律ができるほどのエネルギーが残っていない。それを分かっているからの判断だろう。
胴に隠した拳がちらりと見える。
それはしっかりと、小刻みに震えていた。
(……あいつも、行きたかったんだな)
ボロボロの状態で異空を越えてまで、もう一度会いたかった、心からのトモダチ。あいつにとって大切な存在なのは当然だ。自分の罪を断ち、暖かく受け入れてくれたから。
(でもそれは、ボクも同じ)
『じゃ、ポップスターをボクのものにしたいのサ!』
(……懐かしい記憶だな)
今もその野心は潰えていないけど。
それでも。
――ENCOUNT
きらきら輝くお星様。
黄色い星の友達は、ゆっくりとたゆたう。
「……追いついた、のサ」
ピエロ帽の彼は言った。背中からは表情なんて分からないけど、おそらく笑っていた。
不敵な笑み。悪だくみをするときの顔。道化師の顔。
「……追っかけてほしいなんて、ぼく頼んだ覚え無いけどなぁ」
ピンク色の彼は言った。いつもの笑顔はどこにもない。真正面にいるからよく分かる。
真顔だった。感情なんてないかのようだった。
どこか、昔っぽさを感じた。
――彼の昔のことなんて、知らないはずなのに。
「なんだよ、ヤンデレ相手にすんのでも疲れたか?」
「それ、本人の前で言う?まあキミらしいけどね」
少し傷ついた。そう認識されてたんだ。
「――違うよ。そんなんじゃない」
「あン?」
「……知りたい?」
「いいよ。今から直接聞き出す」
「えー?面倒くさい…なっ!」
伸びる攻撃。前に一度だけ見たコピーだ。玩具の“ヨーヨー”を飛ばす。マルクはひょいと避ける。
「はは、コピーのもとデラックスか!まだ使えたんだ?」
「普段使ってないだけ。これ使ったらすぐ終わっちゃうから」
「酔狂ぉ……」
そう言うマルクの方は、惜しげもなく技を使う。さっき、コピーお試し部屋の隠しカメラで見ていたときよりも、いきいきと。出力も安定している。あれもあれでメンヘラだから、ああいう対処法がいちばん効果的なのだ。
「“アローアロー”!アハハ、楽しいなぁ!?」
「もう、相変わらずなんだから…“バーニングアタック”!」
光の矢と炎の激突。両者とも、少し掠ったようだ。切り裂き痕と火傷が頬に残る。
「んぐ……“ブラックホール”!」
「“ドリルスラッシュ”!ふう、危なかった…」
吸い寄せから逃れるために、カービィは能力を“ソード”に変えた。目まぐるしく、戦況は変わっていく。
「“アイスボウル”!」 「“ごく・こちこちスプリンクラー”!」 「“シューターカッター”!」 「“カッターブーメラン”!」
技と技の応酬。互いに一歩も退かない。だけど少しずつ、戦況は傾いていく。
「“みだれはなふぶき”!」
「隙だらけなのサ!“マルク砲”!」
“ニンジャ”の大技が終わった隙を狙った攻撃。ガードは間に合わなかったみたいだ。ニンジャの能力星が外れて割れる。
「…おいおい…今かよ。いいタイミングで入るとは言ってたが…」
「いいだろ別に」
「ああ。勝負はこれでつくはずだったからな」
「…居たんだ?」
攻撃に吹き飛ばされたカービィを抱えていたのは、巨漢の大王と、仮面の剣士だった。
「…居たならなんで出てこなかったのさ」
「いや本当は俺たちも戦いたかったわ。だがよ、コイツが…」
「流石に1vs4は卑怯の部類に入る気がしてな」
「…経験者は語るってやつかあ。流石に気が引けるよ」
「いや分身した奴が言うセリフじゃないのサ。…自覚あるよなメタナイト?」
「んでなんでマルクが?」
「ジャンケン」
「思ってたよりショボかった!」
パリパリするだろうと思っていた空気は、何故かいつも通りなゆるさだった。
なのにカービィの顔だけは、いつもと違う色を秘めていて、そこだけが心に引っかかっていた。
「…そろそろ、本題いいか?」
「んー?」
「お前、どうして急にポップスターを出ていった?」
「…んー…答えなきゃダメ?」
「ったり前だろ。それ訊くためにここまで来たんだしよ」
カービィの正面に、メタナイトとマルクも並ぶ。ボクはローアの中から、その様子をうかがう。
できることなら、実際に彼の前で答えを待ちたかったけれど。
「…前に、エフィリンとお話してね。その時に、旅の話になって、昔が懐かしくなって…」
「それで、黙って出ていったと」
「だとしても、だろ。書き置きぐらい残せよな」
「…だって」
伸ばされた手を振り払う。三人側の表情は見えなかったが、背中だけでも動揺が伝わってくる。
「みんなと過ごす時間が楽しくて、だから余計に出ていきたくなくて、それで辛くなって、」
「お、おい…」
「そんなの、いつか戻ってくれば――」
「戻ってこれるかなんて、分かんないじゃないか!!」
カービィが叫んだ。騒がしかった空間が、一瞬でしんとする。
「…今までの旅では、友達なんてできたことなかった。デデデの時みたいに、起きてる事件を解決して、崇められて、それだけ。たまに何も起こってないときもあったけど、だからって知り合い以上にはならなかった」
「カービィ……」
「だから、こんなの初めてだったんだ。旅に出るのに、寂しい、なんて思うの。離れたくない、なのに旅に出たい。みんなと出会うたび、足に糸が絡まっていくみたいだった」
全員、黙って話を聞いている。口を挟む者は誰もいない。
「…それで、ぼく思ったんだ。それなら、その糸を切っちゃえばいいんだ、ってね」
「じゃあ、書き置きを残さなかったのは、わざとだったのか…?」
答えの代わりに、カービィはうなずいた。無表情のまま、やけにゆっくりと。
「……んだよ、ソレ…そんなので、ボクが…こいつらが、お前のこと嫌いになるとでも思ってんのか?」
「だって、そうしないと」
「考えてみろよ。もしそうなってたなら、ボクたちは今ここにはいない」
「で…でも」
「あのなぁ。そもそも、あの日にお前を引き留めたのは、紛れもなく俺だろ。なんでそんなことしたのか、もう分かってるよな?」
「…そうだな。私も、彼と同じだ。どんなことをしてでもそなたに挑み続けてきたのは、紛れもないそなた自身が知っているだろう」
「……そう、だったね。二人とも、すっごく負けず嫌いなんだった」
少しだけ、カービィの顔に笑顔が戻った。過去を懐かしむような、優しい、穏やかな笑顔。
「どんな手段を使ってでも、もう一度そなたと戦いたかった。私はそれだけだ」
「俺は…まだお前に勝ててないからだ!勝ち逃げなんて、今後一切許す気は無い! 」
二人のライバルが、強い闘争心をあらわにする。その勢いは、カービィの無表情を一気に崩していった。
「……そっか。うん…そっか……」
ぱたり。無重力の宇宙空間で、90度傾く。
「――は、はは…あはははははは!!!!!!」
「な、なに笑って…」
「あはは、いや、だって……二人とも、必死すぎて……はは、ここまで来ると、流石に面白いよ……っふ、ははは!!!」
「お、おいおい…どうすんだよ、この笑い上戸!?」
「…気が済むまで、放っておけばいい。 彼もさっきまで、 色々と押し殺していたのだろうからな」
さっきまでの静寂が嘘のように、あたり一面に笑い声が響きわたった。
それは我慢ならなくなったボクが、ローアを出ていってしまうまで続いた。
「で……本当に行くんだな?」
「うん。やっぱり、行きたいのには変わらないから」
ローアの中に戻って一息ついたあと、扉に向かったカービィを見て言った。色々と説得したい気持ちはあったが、もう引き留められないのは分かっていた。
だから今度は、素直に見送らせてほしい。そう願った俺たちは、今こうしてカービィと向き合っている。
荷物は、簡素な棒にくくりつけた布の包みだけ。後ろでは、俺が出会う前からずっと彼の相棒だった、時には俺たちの力にもなってくれたワープスターが、旅立ちの時を静かに待っている。
「……もし寂しくなったら、いつでも戻ってくるといい。それが何年先か、いや…何十年かかろうと、私たちはそなたを歓迎する。そしてその時にはもう一度、私と剣を交えてほしい」
「カービィ……もしポップスターに来るのナラ、一番先に会いに行クヨォ!…ソノ後で、マホロアランドとか、新しいチャレンジステージを楽しんでホシイナァ……!」
「ボクはどこにいるかは分かんないけど…お前が帰ってきたなら、会いには行くと思うぜ。何するか分かんないし、ちゃんと身構えておけよ?」
「お前に勝ち逃げされるのは悔しいけどよ、次会うまでにはもっと強くなってるからな!闘いでもグルメレースでもそれ以外でも、今度こそ負けねえぞ!」
「みんな……!」
伝えたいことはまだまだあった。でも、これでいい。これ以上は、どうしても寂しくなってしまうから。
「ぜったい、ぜーーったい、マホロアランドに遊びに行くし、ハルバードにも行くし、マルクのイタズラには引っかからないし、デデデにだって負けないよ!だから――」
ぴょんと、ワープスターに飛び乗る。さっきまでの暗いカービィはもう、どこにもいない。
「――バイバイ!またいつか!」
そう残して、春と星はくるくると旋回しながら過ぎ去ってしまった。
「……行ったな」
「ああ。行っちまった」
残していった光さえ消えていったころ、宿命のライバルたちはつぶやく。
「ウウ……カァァァァビィィィィィ!!!!」
「うわ出たなヤンデレ」
「とりあえず落ち着けマホロア!その台詞は俺たちのトラウマを刺激する!」
早くもカービィ不足で暴れ出したマホロアを厄介がるマルク、それに少々頭を抱えるメタナイトと、落ち着かせようと必死なデデデ。寂しさを掻き消してしまうほど賑やかで、あきれかえるほど平和な日常が、また始まる。
風のないこの場所で、あの時のような暖かい春風が吹いた。