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side 大森
その日は珍しく、仕事のあとに打ち上げがあった。
ライブツアーが一区切りついた夜で
スタッフもメンバーもどこか浮かれていて
店の中はずっと賑やかだった。
元貴は普段あまりお酒を飲まない。
体質的に強いわけでもないし
酔うと自分のコントロールが
少し曖昧になるのを知っているからだ。
それでも今日は、少しだけ。
「一杯だけね」
そう言って、軽いカクテルを手に取った。
僕は隣で笑いながら水を飲んでいる。
若井はグラスを傾けながら
元貴の様子をちらちら見ていた。
一杯。
二杯。
気付いたら三杯。
元貴の頬は、すっかり赤くなっていた。
帰り道。
夜風が気持ちいいはずなのに
元貴の足取りは少しふらついている。
「元貴、飲みすぎ」
僕が肩を支える。
元貴はふにゃっと笑う。
「平気だよ」
全然平気じゃない。
声がいつもより柔らかいし
歩くたびに体が僕に寄りかかっている。
若井は前を歩きながら、振り返ってため息をついた。
「だから言っただろ」
でもその目は少しだけ優しい。
家に帰ると、ようやく静かな空間に戻る。
リビングのソファに座った瞬間
元貴はそのまま後ろに倒れ込んだ。
「んん゛〜、、つかれた、」
天井を見上げながら、小さく呟く。
僕が横に座る。
「水飲む?」
元貴は首を横に振る。
代わりに、僕の袖を掴む。
「……りょうちゃ、」
「なに?」
「んふふ、近いね、」
僕が少し笑う。
「今、元貴が掴んでるからね」
確かにそうだ。
でも元貴は手を離さない。
むしろ、少し引き寄せる。
その様子を見ていた若井が
キッチンから戻ってくる。
「完全に酔ってるな」
元貴はゆっくり顔を向ける。
少しとろんとした目。
普段よりずっと無防備。
「わかぃ、?」
呼び方もどこか甘い。
若井が一瞬だけ固まる。
「……なに」
元貴はソファの上で体を起こす。
でもバランスが悪くて
結局僕の肩に寄りかかる形になる。
「今日さ、」
ぽつりと言う。
「いっぱい頑張った」
僕が優しく頷く。
「うん」
元貴はそのまま僕の肩に顔を寄せる。
「だから……その、、ほめて、?」
その言葉に、僕が少し笑う。
「急だね」
でも、ちゃんと頭を撫でる。
指先が髪を優しく梳く。
元貴は目を細める。
まるで猫みたいだ。
若井はその様子を見ながら腕を組む。
「……甘えすぎ」
元貴は顔を上げる。
そして、若井を見る。
じっと。
数秒。
「若井も」
ぽつり。
「来て」
その一言で、空気が少し変わる。
若井は動かない。
でも、元貴は諦めない。
ソファの端から手を伸ばす。
「ほら」
その仕草があまりにも無防備で。
少しだけ、誘っているようにも見える。
若井はため息をつく。
「……酔うとこうなるのか」
でも結局、隣に座る。
その瞬間。
元貴が少しだけ笑う。
満足そうに。
そして。
左右から軽く抱き寄せるように腕を回す。
「今日」
元貴がぽつりと言う。
「なんか寂しかった」
その言葉に、2人とも少し驚く。
僕が聞く。
「なんで?」
元貴は少し考える。
でも、すぐ答えが出ない。
ただ、目を細める。
「2人が忙しそうだったから」
正直な言葉。
酔っているからこそ出た本音。
若井の表情が少し柔らぐ。
僕は優しく言う。
「それはごめん」
元貴は首を振る。
「でも今は」
少しだけ笑う。
「満足」
そして。
不意に、若井の肩に額を寄せる。
距離がかなり近い。
若井の心臓が一瞬跳ねる。
「……元貴」
低い声。
元貴は小さく笑う。
「んふふ、なぁに」
僕がその様子を見て、くすっと笑う。
「これ、完全に誘惑してる」
元貴は目を瞬かせる。
「してない」
でも、 顔がかなり近い。
若井は小さく息を吐く。
「酔ってるとずるい」
元貴はよく分かってない顔で笑う。
「そう?」
その無自覚さが。
一番危ない。
僕がぽつりと言う。
「明日覚えてないかもね」
元貴は目を閉じる。
眠そう。
「覚えてるよ」
小さな声。
「2人いると安心する」
その言葉に。
2人とも少し黙る。
静かな夜。
ソファの上。
3人の距離は、自然と近くなる。
元貴はそのまま眠ってしまう。
僕がブランケットをかける。
若井が小さく笑う。
「ほんとずるい」
でも。
その声は優しかった。