いつまでも抱きついて離れないレオンを無理やり引き剥がして、私達はテーブルに移動した。彼は散らばっていた書類をかき集めひとまとめにすると、それらをテーブルの端に置いた。その時僅かだけど書類の文面が目に入った。私が来る直前までレオンが熱心に読んでいたそれ……。『鳥』と『被害状況』という単語だけが確認できた。鳥はともかく被害状況って……どこかで事故でもあったのだろうか。彼と向かい合わせで席に着く。書類の内容について聞いても良いか確認しようとした所で、レオンの方が先に口を開いた。
「神様達に会ったよ」
「えっ?」
神様に会った。身近にいる神様といったらルーイ様だけど……メーアレクト様のことを言ってるのかな。レオンは倒れた日もリオラド神殿に行っていたそうだし。
「せっかくお見舞いに来てくれたのにこんな話をするのは心苦しいけれど、クレハも知っておかなきゃいけない大切なことなんだ。だから聞いて欲しい。クレハが持って来てくれた本は後でちゃんと読ませて貰うよ。トランプも今度リズ達も誘って大勢でやろう」
申し訳なさそうなレオンに気にしないでと伝える。今はトランプより彼の話の続きが聞きたい。私も2人でトランプは微妙かなと思っていたしね。
「俺はあの日、リオラドで4人の神と対面したんだ」
「4人……!?」
「うん。ルーイ先生とメーアレクト様……そしてコンティレクト、シエルレクトの4人」
「えっ? えぇ……!!」
「俺が倒れた直接的な原因ってコンティレクト神なんだよ。しれっとした顔で俺の魔力ごっそり持っていくんだもん。驚いたよね」
「待って、待って下さい!! 唐突で話に付いていけないです。どうして……そんな、神様が」
メーアレクト様だけでなくニュアージュとローシュの神までリオラド神殿に? どういう事……そして魔力を取られたって……
「ごめん。俺もまだ動揺してるのかな。最初から説明しなきゃ分かんないよね」
レオンは釣り堀で起きた事件の顛末……そして、自分が神殿に行って何をして来たかということを教えてくれるそうだ。少なからず衝撃を受けるであろう内容の為、セドリックさん達は私の精神面を気遣って詳細を伏せていたらしい。しかし、レオンはそれを良しとせず、話すことを選んだのだと。
「隠し事が増えるのは嫌だし、君は当事者でもあるからね。それに、釣り堀の件については俺達だけが口を噤んでも無駄だ。遅かれ早かれ君の耳にも入る。雑味が混じった不完全な物を聞かせるくらいなら俺から正しい情報をきちんと伝えるべきだ」
私がお見舞いに来ると聞いてチャンスだと思ったそうだ。彼は現在療養中。医師と自分の側近以外の面会を断っていて、自室なら誰にも邪魔されずに会話に集中出来るんだって。
正しい情報か……初っ端に言われた神様の話に驚き過ぎて、まだそわそわしてるんだけど。釣り堀での事件で私が把握している事と言えば、ニュアージュの魔法使いが深く関わっている……けれど、諸々の事情で今すぐ捕らえるのは難しいってくらいかな。外国の魔法についてはよく分からない。
「そもそもの発端は王宮内で見つかった蝶だ。俺がクレハに魔法を使って紙の蝶を飛ばしてみて欲しいって言ったの覚えてる?」
「白い紙で出来た蝶……私が作った物じゃないかって持って来てくれたんですよね」
「そう。あの時点では蝶の正体は全く分かってなくて、クレハが遊んでたのかなって思ってた。それを確かめる為にあんなことをさせたんだ。でも後にあの蝶はニュアージュの魔法使いが寄越した物だというのが判明した。ただの白い紙に見えていたけど、あれは魔法を使うための道具なんだってさ」
蝶は発見当初、淡い黄色の光を放ちながら空中を漂っていたそうだ。黄色に輝く紙……それって釣り堀の少女達の体内にあったものと同じではないか。あれも蝶と同様に黄色く発光していた。白い紙は魔法を使う道具……それで作られた蝶……つまり、ニュアージュの魔法使いに釣り堀だけでなく、王宮の中でも何かされていたってこと?
「そんな……」
「不思議な力で動いているというのは一目瞭然だったけど、俺達の頭ではそれが何なのかお手上げ状態でね。そこで、ルーイ先生に助言を仰いだんだよ。クレハ達が釣り堀に行った日ね」
一緒に釣りに行けなかったのをただ残念に思っていたけど、彼は裏でそんなことをしていたのか。知らなかったとはいえ、呑気にはしゃいでで申し訳なかったな。
「ルーイ先生には本当に世話になった。神であるという事を抜きにしても、頭が上がらないよ。気さくな方だというのは分かっていたけど、それだけじゃない……とても心根の優しい方だ」
レオンはルーイ様と行動を共にして、それを実感したらしい。自分の事ではないのに顔がニヤけてしまう。ルーイ様は上司の神から罰を与えられ、人間と同じ生活をしている。傍目には分からない気苦労もあるはず。だから、同居しているセドリックさんやレオンと仲良くしている様子を見ると安心するのだ。
「嬉しそうにしちゃってさぁ。クレハが先生を慕うのは無理ないけど……あんまり可愛い顔されるとやっぱり妬ける」
「自分から褒めた癖に……」
「それでも。俺はガキだし心狭いから、そういうのさらっと流せないの」
拗ねたように口を尖らせてはいるけど、レオンのルーイ様に対する態度は明らかに軟化していると思う。倒れたレオンを介抱したのもルーイ様だと聞いた。ふたりは一緒にリオラド神殿にも赴いている。私のいない所で何があったのだろうか。自分はいつの間にかお見舞いに来たのだということをすっかり忘れ、レオンの話に没頭して続きを促していた。
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