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最寄りの駅を出ると、もう既に朝の8時半を過ぎてしまっていた。

真衣香はふらつく身体に力を込めて、足を踏ん張り、会社へと急ぐ。


普段は10分もあればメイクが終わる地味な顔面だと自覚がある真衣香だが、今日は違った。

いつもより厚くつけたファンデーション。

擦り過ぎて赤くなった目のまわりをコンシーラーで丁寧に隠す。それでも腫れぼったさが消えないからと、ブラウンのアイシャドウを濃く入れた。

するとコントラストの関係か、眉毛が薄く見えたのでもう少し太く書き足してみる。


と、いう。寝坊したうえに、そんな慣れないメイクで更にバタついた真衣香の今日の朝だった。


(……こんな時間に出勤したの、総務の引継ぎされてから初めてだ)


通勤する人の波に押されるようにして歩く。ボーッとしていても進むべき道がわかっているのは、今に限って言えば幸せなことだった。


寝不足か、それとも泣き過ぎたせいか。霞む眼を擦っていると、泣きじゃくることしかできなかった……あの夜を思い出す。まだほんの数日前。


――そう、あの日、金曜日の夜のことだ。


坪井の家を出てしゃがみ込んでいると、タイミングよく優里から『彼氏とどう?』とメッセージがきたものだから。

週末だ、予定もあるだろう優里の迷惑も考えず、すぐに頼って甘えてしまった。


あんな終電間際に呼び出したのに、優里は真衣香を迎えにきてくれた。

コートも着ないで冷え切った真衣香を見て驚いていたが、すぐに自分が巻いていたマフラーを巻いてくれ、『あの男だよね!?』と、怒りに満ちた声を響かせていたと思う。


優里が来てくれた時点でもう既に真衣香が利用している駅まで繋がる電車はなく、駅前のカラオケ店へ真衣香の手を引き入店してくれた。


そして、一緒にいてくれた。


『優里の言う通りだった』としか話さない真衣香を前に、それ以上を聞かなかった。

こんな時間に自分が呼び出された、その詳しい理由を問い詰めもせず寄り添ってくれる。

親友の優しさに、救われていた。


『また落ち着いたら詳しく聞くからさ』

『今はいっぱい泣いてていいよ』


なんて、いつもは頼りない真衣香をよく怒るのに、ひたすらに優しいから。結局涙はずっと止まらなかった。


(昨日も一緒にいてくれたし……またちゃんとお礼しなきゃ)


あれからずっと身体が重かった真衣香だけれど、そんな優里の優しさで今日は無事出勤できたのだと思う。


しかし総務に配属されて以来の日課をサボってしまった。やはりまだ日常には戻れていない。

気を引き締めないと!と、真衣香は自分を鼓舞して、更に歩みを早め会社へと急ぐ。


会社に行けば彼がいる。


ドクン、と押し潰されそうな程、胸が軋んだ。


避けては通れない、彼がいるんだ。

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