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おれ自身の魔力感知ではなくフィーサが感じる感知に、若干の不安を感じる。ランク、レベル、スキル。それに至るまで、彼女たちのことを把握しているのはおれだけだからだ。自分自身がどの程度なのかは正直不明ではあるが、今までは全て自分から感じた強さを元に行動していた。
しかし、フィーサに言われるまで石の気配に気づけなかったのはまずかった。
「ちなみにどんな力を感じるんだ?」
「わらわだけでは判断出来ないなの。イスティさまが直に触れてみるしかないなの」
ルティとシーニャは村の人と一緒にいる。何かあったら彼女たちはすぐに飛び込んでくるはずだ。それを見込み、おれは鞘の中に収まっているフィーサと共に石に近づく。
その時だった。ゴウッ、とした炎の壁がおれを囲みだしたのだ。
「イスティさまっ! 今すぐ氷魔法を使ってなの!!」
「分かってる」
自分が使える炎の精霊魔法とはまるで違う熱さが全身を覆い、たまらず氷魔法を展開する。
しかし――
「アック様っっ!! あぁっ!?」
「ウゥニャ!? 近づけないのだ……ウゥゥ」
ルティとシーニャの必死な声が聞こえたかと思えばすぐにかき消され、おれとフィーサは炎の壁に閉じ込められた。魔石だった石には触れてもいないのにだ。
「敵の仕業か?」
「あぁぁっ!? イ、イスティさまの両腕が……」
「ん? な、何!? 獣の腕じゃなくなっている!?」
「い、痛みはないなの? さっきまでの毛むくじゃらな腕はどこへ行ったなの?」
腕だけだったとはいえそれでも気にしてくれていたようだ。だがフィーサの心配をよそに、不思議と全く痛みは感じない。本来の腕に戻っているが、火傷の痕も無ければただれた様子も見られない。
手の平が瞬時に感じ取った魔力は、悪意の無い強大な気配。宝剣フィーサとおれだけを炎の壁に閉じ込めた――ということは、何者かの意思だろう。
《そなたは神族、いや……古代スキルを持つ者か?》
汗ばむほどの熱さを感じながら、石から声が聞こえる。石から感じられるのは魔石のような感覚だ。聞こえる声もどうやらおれとフィーサだけらしい。
「この声は……彼女の声!? ヘリアディオスにいるはずなのに、どうして……」
「どうした? 声の主が誰なのか知っているのか?」
「そ、その、わらわからは恐れ多くて答えられないなの。だから、イスティさま。彼女の返事に答えて欲しいなの!」
フィーサがここまで戸惑うとは。ヘリアディオスといえばまさにこれから向かっている神族国家のはず。
そうなるとこの声の正体は――。
「神族でも古代スキルでもない。正直なところを言えば、おれのスキルが何なのか自分でもよく分かっていない。確かなのはありふれたスキルでは無いということだけだ!」
「ひ、ひぃぃっ!? イスティさま、口の利き方がダメダメなの」
正体が不明な相手だ。声に対してビビるものでもない。
そう思っていたが、
《何者をも恐れぬ人間。面白いのぅ。宝剣も久しく見る……》
口調が古臭いが、老齢と思わせているように思える。正体を中々現す気が無いのか、それともどこか別な所で話をしたがっているのか。炎の壁も気になるので、それとなく持ち掛けてみることにする。
「おれはガチャスキルを持つ、アック・イスティだ。彼女は宝剣フィーサ。ここではなく、あんたの話しやすい場所に移してくれ。もちろん村に迷惑をかけないところでだ」
フィーサは恐れて沈黙してしまった。だが、この場合の失礼な態度は相手にある。ここでおれが弱く出る必要は無いだろう。
「――よいよい。このまま連れてゆくことにしようぞ!」
「そうしてくれ。もちろんおれの従魔、従者も忘れずにだ」
「導きの渦を残しておく。人間、身構えを維持して意識を断て! 直に戻そうぞ」
案外聞き分けがいい神だ。
友好的な神ということか?
「あんたの正体……いや、名は?」
「我はアグニじゃ。火の神アグニ……イスティ。宝剣に免じて、全てを許してやるぞ」
名を聞き、おれとフィーサは炎の壁に覆われた。そしてどこかの場所へと連れて行かれてしまった。
「あれれれぇ!? き、消えちゃいました~!! アック様、フィーサ!!! ど、どこへ~!?」
「アックの気配が無くなったのだ……どこなのだ……ウニャ」