「アック様が~……」
「置いて行かれたのだ!! こうしてはいられないのだ! ドワーフ、入り口を探すのだ」
「えぇぇっ? でも、どうやって……シーニャちゃんは分かるの?」
「何もしないで待つより探す方がいいのだ!」
「うぅ~でもでも~」
おれとフィーサが炎の壁に覆われ姿を消した後、残されたルティたちは戸惑っていた。それでもシーニャだけは残された気配をたどって探そうとしていたが……
「……あの、従者さまと従魔さま」
そんな彼女たちに近付いたのは宮殿にいた者だ。
「はい?」
「ウニャ? 何なのだ?」
「もしかしたらですが、神の使いのお方の後を追えるかもしれません……」
「ほ、本当ですかっ? どうやって!?」
「――では、こちらへ……」
炎に包まれてしばらく経った頃、何かが聞こえてきた。
「――ティさまっ! 起きて、起きて!!」
(むぅ……妙に体が熱い。それに、ずっと誰かの声がおれを呼び続けている)
「……うぅん」
「イスティさまっ! やっと起きた~!」
「ずっと眠っていたのか。……って、キミは誰だ!?」
おれのことを必死に起こしていたようだが、見知らぬ女性がおれの目の前にいた。
「えぇ? やだなぁ、わたしフィーサだよ? ここに来たら人化してたの!」
「フィーサ!?」
「まだ寝ぼけているの? それともしばらく剣の姿だったから忘れちゃったのかな?」
「あ~そうかもな」
正直いってかなり驚いた。確かにしばらく両手剣のままだったというのもある。それよりも人化した姿と口調の変化だ。口調の変化はロキュンテで分かっていたが、あそこで見た姿は少女のままだった。
しかし今の姿は明らかに年齢そのものが違う。それもどう見てもおれより年上だ。気のせいかお姉さんのような感じにも。
「どうしたの? わたし、何かおかしいかな?」
「かなりおかしい。その姿は本当の――なのか?」
「それは……」
答えにくそうなフィーサだったが、彼女に代わって幼さが残る声が届く。どうやらここに連れて来た張本人のお出ましらしい。
「その答え、われが教えるぞ!」
フィーサはお姉さんの姿だが、声の主はどう見ても――。
「ふふん、アック・イスティ! よく来たな!」
(来たんじゃなくて、連れて来られたんだけどな)
おれたちの目の前に姿を見せたのは、石から聞こえてきた声の主に違いない。普段のフィーサと同じくらいの小さな女の子だ。ルティよりもさらに色濃い深紅の髪、そして瞳。ちょっと強気な感じだろうか。人化のフィーサと同様に布の服だけを着ている。
「……どうも」
「アグニさま、もしかしなくてもここは――」
「ふむっ! お前は光の所の宝剣だな? 察しの通り、ここはわれの村だぞ!」
火の神の村?
その割にはおれたちを連れ去った炎の壁が見えるだけで、人の姿がまるで見えない。
「それでアグニさんとやら。あの石は本当は魔石だったんじゃないのか? 司祭が魔石を台無しにしたらしいが……」
「よくぞ聞いたな! 人間ではなく、魔族ごときがわれに狼藉《ろうぜき》を働こうとしていたのでな。だから魔石の魔力を使って奴から全てを吸い取り追い出してやった!」
「……ん? 司祭が魔族? 魔石の魔力を何だって?」
あの村にはルティとシーニャが取り残されているが……。
「何だ、賢くない奴め。シシエーラ村は魔族どもが支配する村だぞ? お前の腕を見て崇めていただろう?」
彼女たちならたとえ魔族相手でも問題無いが何となく心配になる。
「神の腕と言っていたが……?」
「邪神という意味だ、たわけめ!」
日が落ちて暗くなっていたから村人の姿まではよく見ていなかったが、宮殿に案内した村人も魔族だったのか。
「宮殿も含めてか?」
「そうだと言ってる! われが眠っている間に魔力が無くなってただの石と化していたのだが……、お前がわれを起こしたのは幸運だった」
ただの石と化していたが、眠っていたからということらしい。フィーサだけ気付いていたのは神に近い存在だからか。
「眠ってからどれくらいだ?」
「数百年だな! そこの宝剣の娘もそうだろう?」
「アグニさまと一緒ですね!」
「ふむっ!」
フィーサが敬っているということはそれなりの神ということになる。
それよりも――
「ここがアグニの村なんだな? 村人の姿が見えないが……」
「宝剣が答えられぬ答えと村の明かしについては……アック・イスティ! われと民は、お前をまだ認めていないぞ! 知りたくば資格を得るための試練を受けてもらう」
「……試練?」
「ふむっ! それを終えぬ限り、われもアグニも認めぬからな!」
やはりこうなるわけか。
魔族の村に残されたルティたちも気になるが、今はその試練というやつを何とかしてみるしかなさそうだな。
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