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クラリスさんとお話をしたあと、私は工房を一人で訪れた。
お屋敷をもらったことで舞い上がっていたけど、もともとの褒賞はこっちなんだよね。
静まり返った広い工房の中を、ゆっくりと歩いてみる。
この前も思ったけど、私はここにあるような設備や器具で錬金術を使ったことが無い。
最初から今の今まで、ずっとスキルに頼りっぱなしなのだ。
『錬金術』
それは、ある物質から別の物質を作り出す技術。あるいは、その応用。
どんな技術にも言えることだけど、それを善く使うのも、悪く使うのも、その人次第だ。
――思い返せば、私は薬を作ることが多かった。
最初に作ったのは『エリクサー<究極>』。
でも、あれは何も考えずに作れちゃっただけなんだよね。
次に作ったのは初級、中級、高級ポーション。
これは、単に売るためだったかな。
そのあとが『歩行障害(小)治癒ポーション』。
ルイサさんとアイーシャさん、無事に治って良かったな。
今は、ちゃんと元気にしてるかなぁ……。
それから『毒治癒ポーション』とかを作って、クレントスを離れたんだよね。
そしてガルーナ村の疫病騒ぎに遭って、そこで疫病を治す薬を作って……。
他には育毛剤とかも作ったし、ジェラードの腕を治す薬とかも作った。
今まで、いろいろなことがあったものだ。
そして昨日作った『皮膚再構成の軟膏』。
ある意味、王都に至るまでの集大成とも言えるアイテムだろう。
「……みんな、喜んでくれたなぁ」
思わずそんな言葉が口をついて出てくる。
私としては、できることをそのままやっただけなんだけど――
『アイナさんはジェラードさんにとって特別な方なんですよ……?
腕を治してあげて、今の明るいジェラードさんに戻してくれたんですから』
先日言われた、エミリアさんの言葉が思い浮かんでくる。
私が普通にしたことで、誰かの人生が大きく変わってしまう場合がある。
今回のキャスリーンさんだって、きっとそうだろう。
……それは、とっても素晴らしいこと。
私がそれを出来るのであれば、その力を持っているのであれば……たくさんの人に、しあわせになってもらいたい。
今回の件で、私は強くそう思った。
でも、ガルーナ村ではもっと多くの人を助けたんだよなぁ……。
何で今回に限って、そんなことを思うんだろう……?
その答えは良く分からなかったものの、工房の椅子に座ってぼーっと考えていると、何となく思い当たることがあった。
ガルーナ村の疫病は、『疫病のダンジョン・コア』というアイテムが原因だった。
しかしキャスリーンさんの場合は、『他の人間』が原因だったのだ。
誰かが他の誰かのために、しあわせになるのを妨げられる――
……よくよく考えてみれば、たくさんの人間が生きている限り、それはある程度は仕方の無いことだろう。
ただ、今回はそれが行き過ぎている。
ある程度のしあわせを妨げるのは仕方ないとしても、不幸にさせるのは違うと思う。
しかし、そういったことを正す力は私には無いだろう。
それでも、ある程度の範囲であれば……それなりに出来ることがあるかもしれない。
『神器作成』は引き続き譲れない目標ではあるけど、一生を『神器作成』に捧げるわけではない。
その目標が終わった後、もしくは同時進行で……私は、何かをしてみたくなった。
「……何ができるかは、これから考えていこうかな……。
今日のところはひとまず――」
その日、私の工房に初めて火が灯った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさん! どこに行ってたんですか!?」
夕方、お屋敷に戻るとエミリアさんが少し怒りながら現れた。
あー……。そう言えば、何も言わないで工房に行っちゃったんだっけ……。
「ごめんなさい。ちょっと、工房で考え事をしてました」
「え? 何かあったんですか……?」
「うーん。ちょっと思うところがあって、って感じです」
「むむ? 何かあったら相談してくださいよ?」
「ありがとうございます。
考え事の途中で、エミリアさんの名言も出てきたので大丈夫です」
「……名言なんて、何か残したことがありましたっけ……?」
「ふふふ、それは秘密です。
あ、そうだ! エミリアさん、これを見てくださいよ」
そう言いながら、私はアイテムボックスから瓶を1つ取り出した。
「これは……ポーションですか?」
「ふふふ♪」
私は笑いながら、鑑定スキルを使ってウィンドウを宙に出した。
──────────────────
【初級ポーション(C+級)】
HP回復(小)
※追加効果:HP回復×1.1
──────────────────
「……え? これ、アイナさんが作ったんですか?
C+級だなんて珍しい――」
「初めてにしては、上出来じゃないですか?」
「え? 初めて……?」
「はい、初めて作ったんです」
「――アイナさん、やっぱりまだお疲れなんですね」
「いやいや、そんなことはないですよ!」
……私が初めて作った錬金術のアイテム。
『工程省略<錬金術>』を使わずに、錬金術の設備を使って初めて作ったものだ。
初めてだっただけに、上手く出来そうな、出来なさそうな……という結果が、C+級。
品質は低いけど、でもそれがたまらなく嬉しくて、何やら顔もにやけてしまう――
むぎゅ。
「……いふぁいれす」
気が付いたら、エミリアさんに頬をつねられていた。
「詳しくはあとで聞くとして、ルークさんも探していたんですよ!
一緒に謝りましょうね」
「もうひわけないれす」
そんな話をしていると、ルークがどこからともなく現れた。
「アイナ様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。
突然いなくなって、ごめんなさい」
「いえ、工房にいるのは見つけていましたので」
「え? 見てたの!?」
「何か考え事をしていらしたので、声を掛けない方が良いかと思いまして……」
いつの間に。
……っていうか、本当に見られてたの!? めちゃくちゃ恥ずかしい!!
「ルークさん! それならせめて、わたしには教えてくださいよ!」
「え? あ、すいません……」
その後、私とルークがエミリアさんに怒られる形になってしまった。
とほほ……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食前、自室でくつろいでいるとメイドのミュリエルさんが現れた。
ミュリエルさんは身体を動かすのが得意な、メシマズのメイドさんだ。
「アイナ様、失礼いたします」
「はーい、どうしたの?」
「お客様がお見えなのですが、いかがいたしましょう」
「お客様? こんな時間に、誰だろう?」
「ジェラード様、と仰いましたが」
「え、ジェラード? その人は私の仲間だから、客室に通してくれる?
ああ、今から申し訳ないけど、夕食の追加は出来るかな?」
「はい、確認して参ります。
お客様をお通ししたあと、お茶をお持ちしますね」
「うん、お願い!」
そう言うと、ミュリエルさんは部屋を出ていった。
あれ? ジェラードはしばらく戻らないような話をしていたけど……用事はもう終わったのかな?
まぁ、どんな用事だったかは知らないんだけど……。