「……なんとも、思わないですね…」
近野さんが、本当になんの気もなさそうに口にする。
「……素敵だとかは、思わないの?」
その素っ気なさに逆に好奇心が募るようで、そう訊いてみると、
「素敵ですけど……私なんか、別に相手にもされないでしょうから」
彼女は、ぼそりと答えて、
「だから、私の方から相手にしたいとも思わないっていうか……もともと眼中にはないような感じですね」
そう冷めた口調で話した。
「そう…近野さんって、けっこう流されないタイプなんだね…」
食べ終えた食器を軽く片付け、何気ない会話を終わらせようとすると、
「全く流されないってわけでも、ないですけど……」
食後のコーヒーをズッと音を立てて一口飲んだ彼女が、
「……永瀬さんは、流されやすいんですか?」
ふいに、私へ問いかけてきた。
急にそんな風にも尋ねられて、やや面食らって、
「私は…どう、かな…」
自らもホットコーヒーを口に含んで、曖昧に答えた。
すると、彼女がコーヒーカップを手にしたまま、私の方をじっと見つめて、
「……永瀬さんて、でも……」
と、話して、思わせぶりに言葉を切った。
「でも、何……?」
何を言うつもりなんだろうと思いつつ、先を促してみる。
「……流されて、ハマりやすそうですよね、なんだか」
また、ズズッとコーヒーをすすって、彼女がふっと小さく笑いを浮かべた。
意外とも取れる表情と、やけに鋭いような指摘に驚き、
「そう…見える…?」
ひと言だけを返して、愛想笑いで場を誤魔化そうとした私に、
「見えますよ。笹井さんなんかより、永瀬さんの方が、ずっとハマりやすそう……」
近野さんは、まるで、何かを知っているかのような口ぶりで、淡々と告げた──。
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