「……近野さんって、おとなしそうだけど、見る目は厳しそうだね…」
ホットのコーヒーにふぅと息を吹きかけて、そうやんわりと牽制をすると、
「おとなしくしている分だけ、いろんなところを見てるんですよ…」
ふっ…とまた、どこか意味有り気にも映る微笑を作った。
その微笑みに、彼女は本当に何かを知ってるんだろうか……と思ったけれど、あの医師と自分との関係を、もし知られていたのだとしても、それを確かめてみるなんてことは、私には怖くて到底できなかった……。
……ランチから戻ると、
「永瀬さん、ちょっと診療ルームに来てください」
と、政宗医師から内線が入った。
「……何でしょうか?」
以前に、真梨奈とキスをしかけていたシーンが蘇、やや浮かない気分でドアを開くと、
「……ドアを閉めて、私のそばへ来なさい」
命令するような口調が飛んで、ふっと警戒心が湧き上がる。
閉めてしまえば中でまた何をされるのかもわからず、ドアの前で入るのをためらっていると、
「……閉めなければ、外に声が漏れますが、それでもいいのですか?」
デスクに片手で頬づえをついた政宗医師が、こちらを横目に流し見て、
「……困りますよね? 聞かれたくはないことが漏れたりしたら……」
と、薄く微笑った。
自分がこの医師には抗えないことを半ば虚しく悟りつつ、私は無言でドアを後ろ手に閉じるしかなかった──。
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