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115 - 第115話 七の罪状 ~後編③ 思い出す過去

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2025年06月16日

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※同時刻――亜美は相変わらず、訳も分からぬままの軟禁状態だった。



此所に連れて来られてから、そう時間は経っていない筈だが、もう永い間此所に居る気もしていた。



だが、気が滅入ってしまった訳でも無い。



これまで危害が加わる気配すら無く、定期的にエンペラーが訪れては、身の回りの世話は高待遇を以て接していた。



だからこそ亜美は、益々分からなくなった。



“一体何が目的なのか?”



何度もそうだが、もう一度あの銀色の彼を思い返してみる。



彼は自分の事を知っている。しかし自分は、彼の事を全く知らない。



それは忘れたという次元の話ではなく。



しかし何だろう。亜美は彼を見ていると、何処か懐かしいような、奇妙な感覚に苛まされた。全く知らない筈なのに。



記憶が彼を覚えているのではなく、もっとこう――何か根本で彼を知っているかのような。そしてそれを掴めそうで掴めないのが、亜美はもどかしかった。



――不意にエンペラーが扉を開け、室内へと入って来る。



「――っ!?」



亜美は緊張で身体を強張らせた。やはり慣れる事は無い。



そういえばまだ、彼の名前すら知らないのだ。



「本当に済まないが、もう少しだけ辛抱して欲しい。明日には全てが片付くから」



エンペラーは亜美の下へと歩み寄りながら、そう伝えていた。



「どう言う……事?」



何が片付くというのか。嫌な予感としてしか受け取れないが、訊いても答えは濁されるだけだった。



「これを」



代わりにエンペラーは、ある物を亜美へと手渡す。



「……時計?」



それは何の変哲も無い腕時計。だが亜美には、それに見覚えがあった。



そう。それは確かに彼――幸人がしていたのと、同じ造りの腕時計。



何故、彼が同じのを。偶然だろうか。



まさか遺品? ――と、そんな最悪の顛末が次々と浮かんでくる。



「……違うよ。そして幸人のでもない。見た目は只の腕時計だけど、これは狂座が造った『サーモ』と云われる多機能生体器だ。本来この世界には存在しない代物だけど、私なりの改良を加えている」



亜美の心を読んだかのように、エンペラーは狂座が発祥である『サーモ』の説明を、雄弁に語る。



「あ、あの……言ってる意味が。それに、どうして私にこんな物を?」



亜美はこれが幸人の遺品でも無く、彼と同様の代物である事は理解出来たが、自分へと渡すその理由は分からない。



それに何故、存在しない物が存在しているのか。



「分からなくていい。だけどいざという時、これが貴女を守ってくれる」



やはりエンペラーは、真意は何も語らない。亜美の腕を取り、壊れ物を扱うかのようにゆっくりと、サーモを装着していった。



彼のその表情に邪心は感じられない。



ただ純粋に、亜美の為へという行動。その想いを如実に感じ取ったから、亜美は抗う事無く、されるがままになっていた。



そして思う。こうしていると、本当に懐かしい。



以前にもこんな事があった気がする。



そんな大事な事を、何故自分は忘れているのだろう。



亜美は思わず見詰めていた。それに気付いたエンペラーは、そっと顔を上げ、亜美へ笑顔を向ける。



「あっ……」



本当に美しい笑顔だった。それは造り物では無く、本当に親密な者へと向ける表情。



その瞬間、亜美の思考に衝撃が走る。まるで走馬灯のように、記憶が駆け巡っていく。



「…………ユキ?」



思わず口にしていた。目の前の彼へと、知らない筈の名前を。



亜美はやっと分かった。思い出したのではない――理解したのだ。



「アミ!?」



エンペラーがこれまで見せた事も無いような、驚愕の表情を見せる。



「理解してしまったのですね……」



エンペラーの口調が、急に敬語へと変わる。そして嬉しさなのか、はたまた不本意だったのか、その目尻は潤んでいた。



「うん……。どうして忘れてたんだろう私」



亜美は困惑していた。己自身に。



「何も言わないでください。本来、貴女自身には何も関係の無い事……」



エンペラーは更に困惑していた。



「ごめんっ――ごめんねユキ。ずっと独りにさせて」



亜美はエンペラーを抱き締め、懺悔を繰り返すように泣きじゃくった。



「ユキ、ユキ」



まるで忘れまいとするように、繰り返しその名を。



「ユキ……貴女が私に付けてくれた、初めての名前。私はそれを誇りに、ここまで存在してきました――」



決戦の前夜。再び理解した二人が、室内で邂逅する。



そして全てを理解した亜美は思う。ユキ――彼、幸人――彼等の二人が闘う事は、とても残酷で哀しい事だと。


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