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第十八話:再起の清浄
九条邸の私室。透明なカプセル「堕獄」の内部は、未だ熱を帯びた絶望に支配されていた。
海外製の凶悪な触手たちは、志乃の肉体の最奥を執拗に突き上げ、彼女から一滴の自尊心さえも搾り取ろうと蠢いている。志乃の意識は、強靭な忍としての精神と、抗いようのない肉体的な快楽の狭間で、細い糸のように張り詰めていた。
九条はその光景を、極上の芸術品でも眺めるかのように愛でていた。
「素晴らしい。壊れそうで壊れない、その瞳……。志乃、お前の絶望が、俺をこれほどまでに昂ぶらせる」
九条が装置の出力をさらに引き上げようと、悦びに満ちた指先をレバーにかけた――その刹那。
――パァンッ!!
強化ガラスを貫通せぬよう計算され、かつ確実に肉を穿つ乾いた銃声。
静寂を切り裂いた一発の弾丸は、九条の右足の膝を正確に粉砕した。
「……っ、が……っ!?」
九条は悲鳴を上げる余裕すら奪われた。衝撃で膝が折れ、その場に崩れ落ちる。激痛が脳を突き抜けるが、あまりの衝撃に喉が震えるだけで、声にならない。遠方、月明かりを背にした後輩くノ一が、硝煙の昇る銃口を冷徹に下ろした。それは単なる狙撃ではなく、支配者の「傲慢な足取り」を止める断罪の合図だった。
「今です!!」
天井の装飾を突き破り、二つの影が流星のごとく舞い降りる。睦月と如月だ。
二人の刃は、志乃を閉じ込めている「堕獄」の中枢ユニット、その動力パイプを一瞬で断ち切った。
「志乃さまッ!!」
火花を散らし、不気味な脈動を止める触手たち。
それまで志乃を蹂躙していた黒い蛇のような群れが、急速に力を失い、彼女の四肢から力なく滑り落ちていく。同時にカプセルのロックが外れ、志乃の身体が重力に従って前へと倒れ込んだ。
「……あ、……ぁ……っ」
鎖から解放された志乃を、睦月と如月がしっかりと、慈しむように抱きとめる。
志乃の肌はまだ熱く、小刻みに震えていたが、その瞳には確かに「仲間」の姿が映っていた。
「……睦月……如月……。なぜ……逃げろと……言ったのに……」
「命令違反は承知の上です、志乃さま。……私たちの長は、あなた一人だけですから」
如月が志乃の肩に羽織をかけ、その震えを抑える。
そこへ、正面の重厚な扉を真っ向から蹴り破り、小夜が静かに、しかし圧倒的な威圧感を纏って現れた。彼女の首には、かつての屈従の痕跡はなく、代わりにあるのは、里を背負う新代としての覚悟だった。
「九条。あなたの遊び時間は、もうおしまいよ」
小夜は膝をつき、脂汗を流して蹲る九条を見下ろした。九条は苦悶に満ちた表情で彼女を睨み返すが、もはや指一本動かす余裕さえない。
小夜は静かに印を結んだ。
志乃が命を削って発動させた「清浄の儀」。その術式に、自らの怒りと、奪還した誇りを上乗せした最大出力の浄化術。
「……清浄の儀、大天(だいてん)!!」
小夜の身体から、太陽のような眩い光が溢れ出した。
その光は瞬く間に邸内全域を飲み込み、くノ一たちの脳内にこびりついていた「支配の毒」と「薬理の霧」を根こそぎ焼き払っていく。
部屋の隅で人形のように立ち尽くしていた楓の瞳に、一筋の涙と共に光が戻った。
広場で絶望に暮れていた姉妹たちが、一人、また一人と顔を上げ、自らの意志を取り戻していく。
「な、……なんだ、この光は……っ。俺が、俺が作り上げた帝国が……っ!」
九条は、消えゆく暗示の残響に縋るように床を掻きむしった。
しかし、彼を囲むのは、もはや従順な人形ではない。
武器を手に取り、かつてないほど鋭い殺気を放つ、誇り高き忍軍の群れだった。
次回予告
浄化の光によって目覚めた姉妹たちが、九条を静かに包囲する。
「今度は、あなたが選ぶ番よ。……死か、それとも一生消えない屈辱か」
志乃を、そして里を蹂躙した報い。それは、かつて自分が強いた地獄よりも、さらに過酷で逃げ場のないものだった。
次回、第十九話:『断罪の宴(支配者の終焉)』