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第57話「百四十三歳で姉の存在を知る場合」
森野リリカ。
百四十三歳。
家族構成。
母。
森野エレナ。
二百九十一歳。
兄。
森野アルト。
百六十七歳。
そして。
今日。
新しい情報。
姉。
存在する。
森野。
スマートフォンを握ったまま。
「……お母さん」
『はい』
「今」
『はい』
「何て言った?」
『あなたには』
「そこじゃない」
『もう一人』
「そこでもない」
『姉が』
「そこ!」
森野。
立ち上がる。
「何で!?」
相沢。
隣。
「落ち着いて」
「落ち着けません!」
アルト。
向かい。
目。
そらす。
森野。
気づく。
「……アルト」
「何だ」
「知ってた?」
「……」
「アルト」
「知っていた」
森野。
「兄まで!」
「私が決めたことじゃない」
「百二十年ぶりに会った妹に!」
「うん」
「姉がいるって!」
「うん」
「普通言わない!?」
アルト。
「普通の兄妹ならな」
「私たち普通じゃないの!?」
相沢。
小声。
「年齢だけ見るとかなり特殊」
森野。
「今そこじゃありません!」
電話。
エレナ。
『リリカ』
「何?」
『ちゃんと説明するから』
「今すぐ!」
『電話では』
「今すぐ!」
『……』
「お母さん」
『分かったわ』
二時間後。
エレナ。
京都から。
また東京。
森野。
「最近来すぎ」
エレナ。
「あなたが毎回問題を起こすからでしょう」
「私が起こしてるんじゃありません!」
リビング。
相沢。
森野。
アルト。
エレナ。
四人。
テーブル。
エレナ。
お茶。
一口。
森野。
「早く」
「お茶くらい飲ませて」
「百四十三年待ったんです」
「あなたは知らなかったでしょう」
「今知ったから急いで!」
アルト。
「リリカ」
「あなたは黙って」
「はい」
相沢。
「兄に強いな」
森野。
「百二十年分です」
エレナ。
カップ。
置く。
「あなたのお姉さんの名前は」
森野。
待つ。
「セレナ」
「セレナ」
「ええ」
「何歳?」
「百七十三」
森野。
「アルトより上?」
「六歳上」
「私より?」
「三十歳上」
森野。
指。
折る。
「姉」
「兄」
「私」
「そう」
「三人兄妹?」
エレナ。
「そうよ」
森野。
「今日まで二人兄妹だと思ってました!」
「ごめんなさい」
森野。
止まる。
母が。
すぐ。
謝った。
怒り。
少し。
弱くなる。
「どうして」
「……」
「隠してたの?」
エレナ。
長い。
沈黙。
「セレナは」
「うん」
「あなたが生まれる前に」
「……」
「家を出たの」
森野。
「三十年以上前?」
「ええ」
「なぜ?」
エレナ。
アルトを見る。
アルト。
黙っている。
「お父さんのことで」
森野。
「お父さん?」
エレナ。
「前に話したでしょう」
「人間に血を狙われたって」
「うん」
「あの事件のあと」
「……」
「セレナは」
「人間を憎むようになった」
森野。
「アルトもでしょう」
アルト。
「私は警戒しているだけだ」
森野。
「ほぼ嫌いでしょう」
「……」
「耳動いた?」
アルト。
「私の耳はお前ほど動かない」
相沢。
「兄妹でも違うんだ」
森野。
「そこ興味持たないで」
エレナ。
「アルトは」
「はい」
「人間から離れようとした」
「……」
「でもセレナは逆だった」
森野。
「逆?」
「人間を」
エレナ。
「研究し始めた」
森野。
嫌な予感。
「何のため?」
「なぜ人間は」
「……」
「短命なのか」
森野。
「……」
「なぜエルフは」
「長命なのか」
相沢。
表情。
変わる。
エレナ。
「そして」
「二つの違いを」
「なくすことはできないか」
森野。
「それって」
アルト。
「ソフィアと同じだ」
森野。
「姉とソフィアさん」
「……」
「知り合い?」
アルト。
「知り合いどころじゃない」
エレナ。
「昔」
「一緒に研究していた」
森野。
立ち上がる。
「何で重要なこと全部あとから出てくるの!?」
エレナ。
「百年以上前の話よ」
「私にとっても百年以上前です!」
相沢。
「それはそう」
エレナ。
「セレナとソフィアは」
「約百三十年前」
「北欧で出会った」
「……」
「二人とも」
「エルフと人間の寿命差を」
「なくしたいと考えていた」
森野。
「目的は同じ」
「ええ」
「でも」
エレナ。
「方法が違った」
「どう違うの?」
「ソフィアは」
「エルフの長寿を」
「人間へ移そうとした」
森野。
「姉は?」
エレナ。
答える。
「セレナは」
「エルフを」
「人間に近づけようとした」
森野。
「……どういう意味?」
「エルフの寿命を」
「短くする研究よ」
部屋。
静か。
相沢。
「逆?」
「ええ」
森野。
「何で?」
エレナ。
「セレナは言っていた」
『人間を四百年生かすより』
『エルフが八十年で死ねるようにしたほうが』
『簡単かもしれない』
森野。
「……」
エレナ。
「そして」
『同じ時間しか生きないなら』
『誰も取り残されない』
森野。
耳。
髪の中。
ゆっくり。
下がる。
「そんなの」
「……」
「解決じゃない」
アルト。
「私もそう言った」
森野。
兄を見る。
「それで?」
「喧嘩した」
「アルトは誰とでも喧嘩するね」
「お前に言われたくない」
エレナ。
「研究は危険になっていった」
「……」
「だから」
「お父さんと私が止めた」
森野。
「姉は?」
「出ていった」
「それから?」
エレナ。
「ほとんど連絡はない」
森野。
「生きてる?」
「少なくとも」
母。
机。
十二本の血液についての資料。
見る。
「今は」
「生きている可能性が高いわね」
翌日。
高橋。
検査。
十二本。
DNA。
慎重に。
比較。
森野。
アルト。
エレナ。
結果。
高橋。
「血縁関係は」
「はい」
「ほぼ間違いありません」
森野。
「姉?」
「ただし」
「何です?」
「十二本」
「……」
「すべて同じ人の血液ではありません」
森野。
「え?」
高橋。
資料。
「少なくとも」
「三人分」
アルト。
「三人?」
「はい」
森野。
「私に近い血縁者が」
「三人?」
高橋。
「いいえ」
「そういう意味ではありません」
「では?」
「一人は」
森野を見る。
「あなたと非常に近い血縁」
「……」
「おそらく姉」
「はい」
「もう一人は」
アルトを見る。
「あなた方より」
「一世代上に近い」
森野。
「一世代上?」
エレナ。
「私?」
高橋。
「森野エレナさんとは一致しません」
全員。
止まる。
森野。
「じゃあ誰?」
高橋。
「分かりません」
アルト。
「父親側?」
高橋。
「可能性があります」
森野。
「お父さんは」
エレナ。
「亡くなったわ」
「いつ?」
「九十年以上前」
「本当に?」
エレナ。
娘を見る。
「本当よ」
耳。
動かない。
森野。
「じゃあ」
高橋。
「さらに」
「まだあるんですか?」
「三人目」
「……」
高橋。
困った顔。
「この人物は」
「はい」
「森野さんとの血縁関係は」
「ほとんどありません」
森野。
「じゃあなぜ一緒に?」
「ただ」
高橋。
別の資料。
「非常に強い」
「エルフ特有と思われる」
「老化抑制の指標があります」
森野。
「何歳くらい?」
「分かりません」
「でも」
高橋。
「これまで調べた」
「どのエルフよりも」
「強い」
森野。
「エリアスさんより?」
「比較検体がないので断定できません」
高橋。
「ただ」
「仮にこの指標が」
「年齢や長寿性と関連するなら」
「……」
「かなり特殊です」
その夜。
森野。
相沢。
二人。
夕食。
カレー。
森野。
無言。
相沢。
「考えすぎ」
「百四十三年知らなかった姉が突然出てきたんですよ」
「うん」
「考えます」
「それはそう」
森野。
スプーン。
置く。
「相沢さん」
「何?」
「私」
「うん」
「家族のこと」
「何にも知らない」
「そんなことないでしょ」
「姉知らなかった」
「特殊すぎる例」
「兄とも百二十年絶交」
「最近仲直りした」
「父のこともほとんど知らない」
「……」
森野。
「私」
「人間社会ばっかり見て」
「……」
「自分の家族から」
「逃げてたのかもしれません」
相沢。
「じゃあ」
「はい」
「今から知れば?」
森野。
「百四十三歳から?」
「遅い?」
森野。
考える。
「エルフとしては」
「……」
「かなり若いです」
「便利だな」
森野。
少し笑う。
午後十時。
インターホン。
森野。
止まる。
相沢。
「今日は誰?」
「もう誰が来ても驚きません」
モニター。
見る。
女性。
長い。
黒髪。
長い耳。
見た目。
三十代。
森野。
「……」
女性。
カメラを見る。
『リリカ』
森野。
息。
止まる。
聞いたことのない声。
でも。
なぜか。
母に。
少し似ている。
『初めまして』
森野。
「……」
『私は』
女性。
言う。
『あなたの姉』
『セレナ』
森野。
百四十三歳。
初めて。
姉と。
会った。
玄関。
開ける。
セレナ。
森野を見る。
しばらく。
何も言わない。
そして。
最初の一言。
「小さい」
森野。
「……」
「もっと大きくなってると思った」
森野。
「百四十三歳です!」
セレナ。
「私が家を出たとき」
少し笑う。
「あなた」
「まだ生まれてなかったから」
森野。
言葉。
出ない。
セレナ。
「会いたかった」
森野。
「じゃあ」
「……」
「どうして今まで?」
セレナ。
笑顔。
消える。
「会えなかった」
「なぜ?」
「私が」
姉。
自分の腕。
袖。
まくる。
森野。
見る。
皮膚。
そこに。
人間の老人のような。
深い。
しわ。
森野。
息。
止まる。
顔は。
若い。
でも。
腕だけが。
明らかに。
老いている。
セレナ。
「研究」
「……」
「失敗したの」
森野。
「何をしたの?」
セレナ。
静かに。
答える。
「自分の寿命を」
「人間と同じにしようとした」
森野。
「……」
セレナ。
「そして」
「たぶん」
少し笑う。
「成功しすぎた」
森野。
「どういうこと?」
姉。
百七十三歳。
自分の腕を見ながら。
言った。
「私」
「あと一年くらいしか」
「生きられないみたい」
コメント
1件
うわぁ第57話…!家族の秘密がどんどん出てきて胸がギュッてなったよ😭💦 リリカが「自分の家族から逃げてたのかもしれません」って気づくシーン、めっちゃ刺さった…。そして姉セレナ登場からの「あと一年」って…成功しすぎたって何それ切なすぎるでしょ!!相沢さんの「今から知れば?」がすごく優しくて泣ける。続きが気になりすぎるよ〜🌸