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第58話「姉の余命が一年しかない場合」
玄関。
森野リリカ。
姉。
セレナ。
初対面。
そして。
姉から聞かされた。
最初の重大情報。
「私」
「あと一年くらいしか」
「生きられないみたい」
森野。
固まる。
相沢。
固まる。
セレナ。
「……」
森野。
「初対面で」
「うん」
「それ言います?」
「先に言ったほうがいいと思って」
「もっと」
森野。
「好きな食べ物とか!」
セレナ。
「プリン」
森野。
止まる。
「……私も」
相沢。
「姉妹だ」
森野。
「そこで確認したくなかった!」
リビング。
セレナ。
ソファ。
森野。
正面。
相沢。
隣。
森野。
姉を見る。
見た目。
三十代。
黒い髪。
長い耳。
顔だけなら。
エルフそのもの。
しかし。
袖から見える腕。
老化。
深いしわ。
「いつから?」
「何が?」
「身体」
「五年くらい前」
「急に?」
「最初は」
セレナ。
手。
見る。
「指先」
「それから腕」
「脚」
「最近は内臓」
森野。
「病院は?」
「行ってる」
「エルフ専門?」
「そんな病院ないでしょう」
「高橋先生!」
森野。
スマートフォン。
即。
電話。
セレナ。
「今?」
「今です」
「夜十時過ぎ」
「医者に電話する時間じゃ」
高橋。
『はい』
出る。
森野。
「出ました」
セレナ。
「出るんだ」
翌朝。
病院。
高橋。
森野。
相沢。
セレナ。
そして。
なぜか。
アルト。
森野。
「どうしているの?」
「姉が来たと聞いた」
「誰から?」
「母さん」
「情報早すぎ」
セレナ。
アルトを見る。
「久しぶり」
アルト。
「四十一年ぶり」
森野。
「姉とは会ってたの!?」
アルト。
「四十一年前だぞ」
森野。
「私とは百二十年!」
「お前が逃げたからだ」
「あなたが戻ってくるなって言った!」
セレナ。
二人を見る。
「仲いいのね」
二人。
同時。
「よくない!」
高橋。
「診察始めてもいいですか?」
検査。
採血。
画像。
心機能。
肺。
腎臓。
肝臓。
一般的な。
検査。
特殊なことは。
しない。
高橋。
「これまでの医療記録は?」
セレナ。
USB。
「ここに」
高橋。
受け取る。
「研究記録も?」
「一部」
森野。
「全部じゃないの?」
セレナ。
「百年以上分あるから」
「全部持ってきて」
「多いよ」
「持ってきて!」
セレナ。
少し笑う。
「妹って」
「何?」
「面倒ね」
森野。
「初対面の姉に言われたくありません」
午後。
結果。
高橋。
難しい顔。
森野。
「先生」
「はい」
「余命一年って」
「……」
「本当ですか?」
高橋。
「現時点では」
「断定できません」
森野。
少し。
息。
吐く。
「ただ」
また。
緊張。
「複数の臓器に」
「急速な加齢に近い変化があります」
セレナ。
「でしょう?」
「原因は?」
「不明です」
森野。
「研究のせい?」
高橋。
「可能性はあります」
「でも」
「因果関係は確認できません」
セレナ。
「先生」
「はい」
「私」
「自分でやったので」
「……」
「遠慮しなくていいですよ」
高橋。
「遠慮ではありません」
「分からないものを」
「分かるとは言いません」
セレナ。
少し。
笑う。
「いい先生ね」
森野。
「そうです」
高橋。
「あなたが行った研究について」
「教えてください」
セレナ。
しばらく。
黙る。
「最初は」
「寿命を短くしたかった」
森野。
やはり。
その言葉。
嫌。
「どうして?」
「同じ時間を」
「生きたかったから」
「誰と?」
セレナ。
答えない。
森野。
気づく。
「……人間?」
セレナ。
耳。
ぴく。
森野。
「動いた」
セレナ。
「何が?」
「耳」
「動いてない」
ぴく。
森野。
「姉も嘘つくと動く!」
セレナ。
「最悪」
相沢。
「遺伝なんだ」
森野。
「相沢さん嬉しそうですね」
セレナ。
ため息。
「人間の恋人がいた」
森野。
「いつ?」
「百二十七年前」
「……」
「私が家を出た理由」
「研究じゃないの?」
「半分は研究」
「半分は?」
「その人」
森野。
「お母さん知ってる?」
「知らない」
アルト。
「私は知っていた」
森野。
兄を見る。
「あなた!」
アルト。
「何だ」
「家族情報」
「私だけ少なすぎません!?」
セレナ。
笑う。
「あなた赤ちゃんだったから」
「まだ生まれてません!」
セレナ。
「その人は」
続ける。
「普通の人間だった」
「名前は?」
「圭介」
「それで?」
「一緒にいたかった」
「……」
「でも」
セレナ。
「彼は」
「エルフになることを」
「望まなかった」
森野。
「だから」
「私が」
姉。
静かに。
「人間になろうと思った」
森野。
何も。
言えない。
相沢も。
黙る。
セレナ。
「最初は」
「単純に考えてた」
「私が」
「彼と同じくらいの寿命になれば」
「……」
「一緒に年を取って」
「一緒に死ねるって」
森野。
「圭介さんは?」
「反対した」
「当然です」
「うん」
セレナ。
笑う。
「すごく怒られた」
『君が長く生きられるなら』
『長く生きればいい』
『僕に合わせて死ぬ必要なんかない』
森野。
相沢を見る。
相沢。
何も言わない。
セレナ。
「結局」
「研究は中断した」
「じゃあ」
「今の身体は?」
「その後」
セレナ。
「百年以上経って」
「また始めた」
森野。
「どうして?」
「圭介が」
少し。
間。
「死んだから」
「何歳?」
「九十一」
「幸せだった?」
セレナ。
「うん」
耳。
動かない。
「五十八年間」
「一緒に暮らした」
森野。
「じゃあ」
「なぜまた研究を?」
セレナ。
「残されたから」
森野。
黙る。
「彼が死んだあと」
「……」
「私は」
「まだ若かった」
「……」
「顔も」
「身体も」
「ほとんど変わらない」
セレナ。
自分の手を見る。
「そのとき」
「思った」
「何を?」
「こんなに長い寿命」
「……」
「本当に必要なのかなって」
森野。
胸。
痛む。
それは。
自分も。
何度か。
考えたことがある。
セレナ。
「だから」
「研究を再開した」
高橋。
「自分自身で?」
「はい」
「他者には?」
「してません」
高橋。
「本当に?」
セレナ。
耳。
動かない。
「本当です」
高橋。
「では」
「送られてきた十二本の血液は?」
セレナ。
「私が送りました」
森野。
「やっぱり!」
「でも」
セレナ。
「三人分でしょう?」
高橋。
「はい」
「一人はあなた」
「そう」
「もう一人は?」
セレナ。
アルトを見る。
「お父さん側の血縁者」
森野。
「誰?」
「叔父」
森野。
「叔父までいるの!?」
アルト。
「いる」
森野。
「教えて!」
アルト。
「聞かれなかった」
森野。
「存在を知らない人についてどうやって聞くの!」
セレナ。
笑う。
「リリカ面白い」
森野。
「姉に会って一日で疲れてます」
高橋。
「三人目は?」
空気。
変わる。
セレナ。
黙る。
「その血液」
「誰のです?」
「……」
「セレナさん」
「私も」
「知らない」
森野。
「え?」
「私のところに」
「送られてきた」
「誰から?」
「匿名」
「いつ?」
「三週間前」
高橋。
「それをなぜ」
「こちらへ?」
セレナ。
「調べてほしかった」
「自分で調べれば?」
森野。
「研究者なんでしょう?」
セレナ。
「もう」
手。
震える。
「細かい作業が」
「できない」
森野。
初めて。
気づく。
姉の指。
わずかに。
震えている。
セレナ。
「視力も」
「落ちてる」
「……」
「頭も」
「前ほど」
「速く動かない」
森野。
「だから」
「あなたに」
「……」
「会いに来た」
森野。
「私に?」
セレナ。
「うん」
「何で?」
「死ぬ前に」
「妹の顔」
「見たかった」
森野。
言葉。
なくなる。
「あと」
セレナ。
「お願いがある」
森野。
「何?」
「私の研究」
「……」
「全部」
「処分してほしい」
高橋。
「なぜ?」
「危険だから」
森野。
「ソフィアさん?」
「それもある」
「他にも?」
セレナ。
「私」
「寿命を短くすることしか」
「考えてなかった」
「……」
「でも途中で」
「逆もできる可能性に」
「気づいた」
高橋。
顔。
変わる。
「人間の寿命を延ばす?」
「はい」
森野。
「ソフィアさんと同じ?」
「違う」
セレナ。
首。
振る。
「ソフィアは」
「エルフの血から」
「人間を長寿化しようとした」
「私は」
「……」
「エルフの老化そのものを」
「操作しようとした」
高橋。
「その研究が」
「はい」
「人間にも」
「応用できる可能性がある」
森野。
「それを」
「誰かが狙ってる?」
「たぶん」
セレナ。
「だから」
「血を送りました」
「どういうこと?」
「三人目の血液」
セレナ。
「私より」
「……」
「ずっと長生きしているエルフのものです」
森野。
「誰?」
「分からない」
「でも」
セレナ。
「その血液には」
「普通のエルフにはない特徴がある」
高橋。
「どんな?」
「老化が」
「ほぼ」
「止まっている」
森野。
「エルフはもともと遅いでしょう」
「違う」
セレナ。
「遅いんじゃない」
「……」
「止まってる」
高橋。
黙る。
セレナ。
「もし」
「その人の身体の仕組みを」
「誰かが利用できたら」
「……」
「人間の寿命を延ばすどころじゃない」
森野。
「じゃあ?」
セレナ。
静かに。
言う。
「老化しない人間を」
「作れるかもしれない」
沈黙。
高橋。
「推測ですね」
「もちろん」
セレナ。
「証明されてない」
「再現もされてない」
「だから」
「絶対に」
「事実として扱わないで」
森野。
「分かりました」
姉を見る。
「でも」
「はい」
「その血の持ち主」
「探したほうがいいんじゃない?」
セレナ。
「探してる」
「見つからない?」
「違う」
セレナ。
森野を見る。
「見つけた」
「誰?」
セレナ。
スマートフォン。
写真。
出す。
古い。
集合写真。
エルフ。
十数人。
森野。
一人。
指す。
「この人」
中央。
若い女性。
見た目。
二十歳前後。
黒髪。
長い耳。
森野。
写真。
見る。
どこか。
見覚え。
ある。
「誰?」
セレナ。
「撮影されたのは」
「百八十六年前」
森野。
「そのとき何歳?」
セレナ。
「記録上」
「……」
「五百二十歳」
森野。
「じゃあ今」
「七百歳くらい?」
セレナ。
首。
振る。
「違う」
「え?」
「この写真」
別。
写真。
現代。
駅。
女性。
歩いている。
同じ顔。
同じ髪。
同じ姿。
まったく。
老けていない。
セレナ。
「現在の推定年齢」
森野。
待つ。
「千七百歳以上」
森野。
「……」
相沢。
「千七百?」
アルト。
初めて。
顔色。
変わる。
「まさか」
森野。
「知ってる?」
アルト。
写真。
見る。
「昔」
「エルフの集落で」
「子供に聞かされる話があった」
森野。
「何?」
アルト。
「最初のエルフ」
森野。
「昔話でしょう?」
アルト。
「そう思っていた」
セレナ。
「私も」
「でも」
写真。
「実在する」
森野。
「名前は?」
セレナ。
答える。
「ミリア」
その瞬間。
相沢のスマートフォン。
通知。
知らない番号。
メッセージ。
相沢。
見る。
『森野セレナの研究資料を処分しないでください』
全員。
止まる。
次。
『私は、それが必要です』
森野。
「誰?」
さらに。
一文。
『あなた方が私を探していることは知っています』
そして。
写真。
今。
この部屋。
窓の外から。
撮影された。
森野。
相沢。
セレナ。
アルト。
全員。
写っている。
最後。
署名。
『ミリア』
森野。
ゆっくり。
カーテンを見る。
相沢。
立ち上がる。
アルト。
窓へ。
「開けるな!」
森野。
止める。
そのとき。
インターホン。
鳴る。
一回。
森野。
モニター。
見る。
若い。
女性。
黒髪。
長い耳。
写真と。
同じ顔。
『こんばんは』
森野。
動けない。
女性。
カメラ越し。
微笑む。
『初めまして』
『千七百四十二歳です』
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うわあ…第58話、すごかったです… 初対面で姉が「余命一年」って告げる衝撃から始まって、セレナさんの過去、百年前の人間の恋人の話、「残されたから再開した研究」という言葉が胸に刺さりました。あと、リリカが「姉も嘘つくと耳動く」って気づくところ、姉妹だなあってじんわりしました。 最後のミリアさんの登場。相沢さんに送られたメッセージ、そしてインターホンの先に本人が立ってる——“千七百四十二歳です”って名乗るシーン、背筋が冷えました。続きが気になって仕方ないです🥀