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冷え込みが厳しい冬の朝。白い息を吐きながら登校すると、いつもと同じはずの校舎がなぜか眩しく見えた。ふと前方の廊下に、周囲の視線を独り占めにする眉目秀麗な氷室の姿を捉える。彼はすぐに俺を見つけるなり、目尻を下げてほほ笑み、素早く俺に駆け寄った。
「おはよう、奏」
「お、おはよう……」
ただの挨拶なのに、胸が騒がしくなる。だって昨日、あんなふうに情熱的なキスを交わして、互いの気持ちを確かめ合ったばかりだから。
氷室の眼差しがまっすぐに注がれるだけで、頬が熱くなった。それに気づいたのか、彼は僅かに口元を緩める。
「奏、顔が赤いな。風邪か?」
「ち、違う!」
思わず声を張り上げると、彼は小さく笑った。普段の無表情を知っているだけに、俺にだけ見せる柔らかさが、たまらなく嬉しい。
「奏」
ただ名前を呼ばれるだけで心臓が高鳴る。氷室は躊躇いもなく俺の腰に手をやり、グイッと引き寄せて自分の体にくっつける。
「ちょっ、廊下だよ!? みんな見てるって!」
「そんなのどうでもいい。むしろ奏は俺の大事な人だって、知ってもらいたい」
囁かれた言葉に、頬がさらに熱くなる。すれ違う生徒が驚いた顔で俺たちを見ていくけど、不思議と嫌じゃなかった。
朝から熱々の俺たちの姿を見た林田が、ニヤけた顔でツッコミを入れる。
「奏、そうやって氷室といつもくっついてろ。それにショックを受けた女子を俺が引き受けるからさ!」
なんて、信じられないことを堂々と言う始末。
「じゃあ、放課後に迎えに行く」
「うん……」
氷室の笑顔に見送られながら、自分の教室へ向かう足取りはやけに軽かった。
放課後、氷室が俺の腕を引っ張り、人気のない空き教室に入った途端に、壁に向かって背中を押し付けられる。
「れ、蓮!? ここ校舎の中だよっ」
「知ってる。でも……朝からずっと我慢してた」
低い声で告げられた次の瞬間、唇を奪われる。昼間の教室だというのに、キスは夜よりも甘くて深かった。
「……んぅ……っ」
吐息が重なり、目の前にある制服のブレザーの襟をきゅっと掴む。氷室の熱が、心と体をどんどん蕩けさせていく。
唇を離した彼は、俺の額にそっと口づけて囁いた。
「奏、好きだ。何度でも言う。君だけが欲しい」
「……俺も……」
涙が出そうになるくらい胸がいっぱいで、もう言葉なんてそれしか出てこなかった。
ひとしきりイチャイチャしてからの下校。いつものように一緒に校門を出て、並んで歩く。冬の風は冷たいのに繋いだ手が温かくて、頬まで緩んでしまう。
「なあ、奏」
「ん?」
「これからは、どこに行くのも一緒に歩いていこう。隠れなくていい」
氷室のまっすぐな声に、胸がぎゅっと締めつけられる。
「うん。蓮とならどこへでも!」
街灯が灯る帰り道。人通りも少なくなった頃、彼は立ち止まり、俺を正面から抱きしめた。
「奏……大好きだ」
「俺も蓮が大好き……っ」
今日最後に交わした口づけは、夜の闇に溶けていく。
――この先、きっとたくさんの困難があるだろう。でも、もう迷わない。泣いても笑っても、俺の隣には彼がいてくれる。
繋いだ手をぎゅっと握り返しながら思う。これからもずっと、ふたりで未来へ進んでいく――。
おしまい
エピローグpart2をオマケでつけます♡