テラーノベル
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帰らなきゃ。そう思うたび足が竦む。全身の力が抜けてその場に崩れ落ちる。
あの世界に帰っても、俺を待ってる人はいない。父も母も一日酔い潰れているだけ。金のかかる俺を厄介な存在だと思っている。
気持ちわるいと親にすら思われている。だから秦城の言うことは間違ってない。俺は誰かの邪魔にしかならない。
家ではいつもそうだ。親と目が合うと「あぁ、いたんだ」って顔をされる。それが「別にいなくてもよかったのに」、って言ってるように思うのは……考え過ぎか。
人の目が怖い。本さえあれば何も怖くなかったのに、今は何百冊与えられても無駄な気がした。最悪な結果ばかり考えて、立ち上がる気力を失う。
ここには時計がないけど、一日が経過したことは何となくわかる。
現実ではもうひとりの“俺”が頑張って生きてくれてるみたいだ。戸惑ったけど、冷静に考えると僥倖だった。行方不明扱いされて有名になることもない。“彼”に任せて、自分はここにいよう。
ここにいれば誰とも関わらずに済む。邪魔者扱いされ、傷つかなくて済む。
秦城に会わなくて済む……。
死んだように横になって、時が経つのを待った。
でもやっぱり考えてしまう。現実の俺は何をしてるのか。結局どこの高校に行ったのか。入学したのか、ちゃんと卒業したのか。
就職できたのかな。父さんと母さんは飯食ってるかな。
……秦城は、元気かな。
どうでもいいと呟いていながら、考えるのは今を生きてる人達のこと。自分と関係なくても、あれこれ想像した。
俺だけがずっとここにいる。歳もとらないしお腹も空かない。しょうもないことを想ってる、しょうもない心だけが存在している。
この世界の空から、たまに交差点が見えた。
ビルの上の大きなスクリーンを見ると、決まって十時十分を映している。十という数字に意味があるみたいだ。
毎日暇だから上を眺めていた。
十年という時は漠然すぎて分からない。仮に地球が危険にさらされていたとしても、俺だけは違う惑星の住人にいるみたいに他人事だ。それが申し訳なかった。
でもとうとう、俺の世界にも激震が走る。交差点へ飛び出した“彼”を見てしまったんだ。
考えるよりも先に手を伸ばして、十字路に願った。
「どこだ、ここ……?」
その手は届いて、彼はこの世界へやってきた。十年前の親友。
十年ぶりに会った、秦城。
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