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【ごめん亜子さん、会社でシステムトラブルがあって、どうしても抜けられなくて……】
【仕事なら仕方ないよ。大丈夫、人通りの多い道を通って行くから】
【いや、万が一って事もあるし心配だから、せめてタクシーで迎えに行って、そのままアパートまでタクシーで帰って】
【分かった】
【それと、逐一状況も報告して】
【うん】
竜之介くんの会社でトラブルがあったようで、どうしても残業をしなくてはならなくなってしまった彼は一人で凜の迎えに行きアパートまで帰る私を心配して、メッセージのやり取りで逐一状況を伝えるよう言ってきた。
過保護だなと思う反面、心配して貰えて嬉しい自分がいたりする。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
店長や他の従業員の人たちに挨拶をした私は店を出ると、電話で呼ぶよりも駅でタクシーに乗った方が早いと一人駅に向かって歩いて行く。
この判断がいけなかった。
少しくらい待っても電話で店までタクシーを呼ぶべきだった。
駅までは人通りもあるから平気だなんて、危機感が足りなかった。
駅まで後数百メートルといったところで、私は待ち伏せをしていた正人と鉢合わせてしまったのだ。
「……正人」
「亜子、話があるからついて来い」
「……悪いけど、これから凜の迎えがあるから」
でも、鉢合わせはしたけれど人も通っているし、スマホも手にしていて何かあればすぐに竜之介くんに掛けられる状態にしているからか、自然と焦りは無かった。
だから毅然とした態度で彼に立ち向かっていたのだけど、
「へえ? その凜は本当に保育園に居るのか?」
「何……言ってるの? 居るに決まってるでしょ?」
「本当にそうか?」
「何? 何なの?」
正人が意味深な事を言ってくるから、私は不安に駆られてしまう。
そして、こんなの良く考えれば分かるはずなのに、
「凜は俺がある場所に連れてった」
「は?」
「あの保育園、セキュリティ甘いんじゃねぇの? 連れ出すのは簡単だったぜ?」
正人のその言葉を、私は信じてしまった。
それと言うのも、この前不審者の話を聞いていたのが原因だったのかもしれない。
不審者と言うのが正人の事で、先生たちが気付かないうちに凜が連れ去られたのでは無いか。
私はそう思ってしまったのだ。
「ちょっと、何してるのよ!? そんなの、犯罪よ!?」
「凜の父親は俺だぜ? 犯罪にはならねぇよ」
「だからって――」
「いいから、俺について来い。話はそれからだ」
「凜もそこに居るの!?」
「さあな? とにかく来いよ」
「…………っ」
「あ、くれぐれもアイツにはチクるなよ? 電話してチクるつもりだろ? そんな事してみろ、凜は返さねぇぞ?」
「何でっ……」
「ごちゃごちゃ言ってんなよ。とにかく、上手く言い訳しろ。いいな?」
正人の言う『アイツ』とは、恐らく竜之介くんの事。
凜が人質に取られている今、逆らう訳にはいかない私はその言葉に頷くしかなくて、
【保育園、着いたからそのままアパートに帰るね】
そう、竜之介くんにメッセージを送った私は正人に言われるがまま車に乗り込んだのだ。