翌日再び大妖精に呼ばれたミナル一行は昨日と同じように玉座の間に着き、彼女の話を聞く。
「朝早くから集まってくれてありがとうございます。」
「今日から本格的に対策をとるんですよね?」
そう話を切り出すのはルナベルであった。まぁ、彼女は妖精族のこと大好きだから食いつきがいいのは分かる。が、多分それ以上にマリンの『元奴隷』というところが引っかかるんだろう。もし、ここで自分たちがこの件から手を引いたとき妖精族が捕まったとでも聞いた日には悔やんでも悔やみきれない。さらに言えば、マリンが元奴隷だったこともありそういった悲しみの連鎖を止めたい気持ちを彼女は持ってる。マリンにも悲しい思いはしてほしくないし、こうして妖精族とかかわりを持ったからこそ彼女たちも悲しませたくはない。今は俺と同じ冒険者なんかやっているが彼女は元血気騎士団という大きな組に属していた人間だ。こういった腐った商売が気に入らないのは彼女の性格のほかに前職の精神が根付いてるからだろう。
「えぇ。しかし、残念ながらその奴隷商人の特徴が何もない以上どのように策を講ずるべきか……」
「そうですね……。対策とはまた違いますが、少なくとも彼らとは必ず戦闘することがあります。その時のプランを私の方からお伝えできればと」
「彼らと対峙したときのプラン、ですか……」
「まず、大前提として彼らは魔法の対策は必ずしてくるはずです。」
「それはなぜ?」
「今、世界では妖精族のほかにエルフ族やドリアード族などいわゆる妖精族がベースとなり新たな進化をした種族がいることをご存じですよね?」
「そうね。ドリアードはその特性上基本森からは出ないけど、エルフ族は妖精族の正統進化と言ってもいいくらいの種族。みな人型で身長も大体170前後が多いです。妖精族と大きく違うところは人間との交流がそれなりにあることです。」
「そうです。彼女らは冒険者ギルドにも顔を出すことが度々みられるほどです。そして、採取や森での討伐依頼には彼女たちが重宝されることもしばしばあるほど今では日常の風景として馴染んでいます。」
「しかし、それがなぜ魔法対策に繋がるのですか?」
「大妖精様がお話しした通りエルフ族が妖精族の正統進化ならば、エルフの特徴は大半のギルド員に知れ渡っている情報があるのです。それが、彼女らの圧倒的な魔力の量とその威力。これがエルフ族の一番の特徴と言っても過言ではないでしょう。そして、彼女らが正統進化ならばそれは対策してきてると断言してもいいでしょう。」
「なるほど……。」
「このことから魔法関連は対策をしてくるのは目に見えてます。そして、その対策を取られたとき妖精族の皆様は打つ手がほとんどないと思います。」
「……えぇ、そうね。悔しいけれど確かに私らの特徴である長寿で知識豊富、それらに基づいた魔法の威力の高さ。これが最大の攻撃ではあるけれど、逆に言えばそれを封じられると何もできないわ。武器を扱えてもその腕前はあくまで狩りに使う程度のもので、戦闘で使う物とはまた求められる能力は違うものね。」
「そうなる未来が見えているからこそのプランを私は用意しました。」
「そのプランとは?」
「付け焼刃ではありますが、武器を扱える者たちの育成と彼女らの統率です。幸い私たちは剣を扱えるものと弓を扱えるものの二名がここにはいます。最低でも戦闘時の攻守を教えることさえできれば下っ端の賊どもはあしらえるほどの力はつくのではないかと私は考えています。」
「考えとしてはとてもいいと思っている、けれど妖精族は人間を嫌います。それはあなた方が一番理解しているでしょう?」
「えぇ。十分理解してます。その問題もクリアする方法を私は考えてあります。」
「その方法とは?」
「……申し訳ないですが、これは力技になってしまいます。今現状この里の中で強い方を二名指名していただき、私達と戦ってもらいます。もちろん模擬選ですが選ばれたお二方には本気で来ていただいて結構です。」
「力による統制ですか?申し訳ないですが、彼女らがそれによって従うとは…」
「ですが、大妖精様も危機感は覚えてるんですよね?魔法が封じられた時の自分らの弱さを」
「…」
対策に関しては大妖精様も理解している。魔法が使えない妖精族は申し訳ないがお世辞にも強いとは言われない。だから、物理攻撃を取り入れないといけないのもわかっているが、今までの彼女らは魔法ですべて解決してきたし今回のこの事件を里のみんなに伝えたとしてそれを素直に受け取れるかも問題になってくる。だからこそ、ルナベルはこうして戦闘を介して危機感を持ってほしいと伝えたいのだろう。しかし、俺ら人間がいきなりそんな申し出をしても素直に聞き入れるわけはない。彼女らからすれば侵略してきたと誤認されてもおかしくないのだから。そこで、大妖精様に間を取り持ってもらうという作戦だろう。この事件を公にしてそのうえでそんな人間たちがここに来ると伝えればどんな動機であれやる気は出るはず。そのうえで、魔法に頼っていると彼女らに気づいてもらい道具を用いた戦闘を学んでもらおうということだろう。まぁ、その具体的な策は俺も先は読めないんだけどね。
「先ほどお話したように現時点で里内最強と言われる妖精族二人と私達で戦闘をします。この戦闘でその妖精さんが勝利した場合私たちはこの件から身を引きます。」
「えっ!?ここからバイバイするのルナベルお姉ちゃん?」
「残念だけど、こういう条件にしないと彼女らはやる気が出ないでしょう。逆に、私らが勝った場合は戦闘可能な妖精族はみな私の指示に従ってもらい、付け焼刃ではあるが道具の扱いを教える。条件はこれでどうですか?」
「……。そうね、プライドが高くなってしまっている妖精族にはいい機会かもしれないわ。そうやって育ててしまった私の責任でもあるから。」
「ご理解ありがとうございます。そしてこのプランを成功させるには大妖精様の協力が必要不可欠です。」
「私は何をすればいいのかしら?」
「まずは、奴隷商人のことを里のみなに伝えていただくことと。次に大妖精様は中立としての立場に立っていただきたい。あなたがいるだけで他の妖精族はこの戦闘に意欲的になるはずです。」
「……。心苦しいけどそれがお望みなら仕方ないわね。」
「戦闘時のルールも軽く決めておきましょう。と言っても至極単純で相手に参ったと言わせるか、戦闘継続不可能になったらその時点で勝者を決める形ですね。武器も自由ですし、魔法もありです。相手には殺す気で来てもらいましょう。そうした方がこちらが勝った場合のリターンが大きいので。」
この部分だけ切り取ったら完全にこっちがあくなんだよね……。
「では、そのバトルの決行はいつ頃にしますか?」
「戦う妖精族を決める時間も必要でしょうし、三日くらい日数を上げます。それまでに戦う方を決めてもらえればそれでいいです。」
「わかりました。では、バトルフィールドなどもこちらで準備いたします。三日後にまたこちらにおいでください。」
「わかったわ。」
こうして、昼前までに奴隷商人との戦闘を見据えた妖精族強化プランが固められた。その後は自分たちも三日程度ではあるができることを増やすために里内を少しぶらつくことになった。一つ気掛かりなのはルナベルの中で俺は戦力に入ってない可能性が高いなということくらい……。
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