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第3話:アンチエコノミー第一派との激突
東京湾岸地区――再開発が進み、無機質な高層ビルが林立する人工都市。
昼と夜の境界が曖昧なこの街では、昼間ですらネオンが消えることはない。
その日、街は異様な静けさに包まれていた。
「……静かすぎるな」
橘樹龍樹は、立ち入り禁止テープの張られた路地裏に足を踏み入れながら呟いた。
横には、いつも通り頭のない騎士――デュラハンが立っている。
「嵐の前触れだ。アンチエコノミー第一派が動いている」
「第一派……?」
龍樹が聞き返すと、デュラハンは低く答えた。
「奴らは組織の中でも実験部隊だ。バディを“道具”として扱う連中」
その言葉に、龍樹の胸がざわついた。
“バディ”は共存する存在のはずだ。
それを操り、壊し、使い捨てる――そんな連中がいるという事実が、怒りとなって込み上げてくる。
「……許せないな、そんなやつら」
「感情が高ぶっている。いい傾向だ」
デュラハンはそう言いながらも、どこか慎重だった。
その瞬間だった。
――ドンッ!!
遠くのビルが爆ぜ、衝撃波が街を揺らした。
ガラスが砕け、悲鳴が連鎖する。
「来た……!」
龍樹は即座に走り出した。
視界の端で、黒い霧のようなものが蠢いている。
そこにいたのは、人間ではなかった。
獣のような四足歩行、昆虫の外骨格、魚の鱗を持つ人型――
複数の世界の特徴を無理やり繋ぎ合わせたような異形たち。
「……バディを“混合改造”している」
デュラハンの声が、怒りを帯びる。
「そんなこと……できるのか?」
「本来は不可能だ。だが奴らは“催眠術式”と“強制契約破壊”を使っている」
龍樹の拳が、自然と握り締められた。
「つまり……無理やり操ってるってことか」
「そうだ」
次の瞬間、異形の一体が跳躍し、龍樹へと襲いかかる。
「――ラ・イル・リンバス!」
龍樹の身体を、赤黒い魔力が包み込む。
腕が鎧に覆われ、刃のような形状へと変化する。
一閃。
衝撃と共に、異形が吹き飛んだ。
「……っ、効いてる!」
だが、喜ぶ暇はなかった。
次々と現れる異形。数は十、二十……いや、それ以上。
「龍樹、冷静になれ。数が多い」
「わかってる……!」
龍樹は地面を蹴り、ビルの壁を走る。
空中で身体を捻り、魔力刃を連続で放つ。
だが――
「っ……!?」
突然、視界が歪んだ。
頭が割れるように痛む。
「これは……!」
「催眠干渉だ。直接お前を狙ってきている」
デュラハンが斧を振るい、龍樹の前に立つ。
「俺が前に出る。お前は心を保て」
「でも……!」
「命令だ、バディ」
その言葉は、不思議と強かった。
戦闘は激しさを増していく。
デュラハンは圧倒的な力で敵をなぎ倒すが、それでも数は減らない。
龍樹は膝をついた。
息が荒く、視界が霞む。
「……くそ……体が……」
“契約の代償”。
昨日聞いた言葉が、脳裏をよぎる。
(俺は……人間だ……)
そのとき――
「龍樹くん!!」
聞き覚えのある声が響いた。
振り向くと、避難区域の端で、真田紗夜がこちらを見ていた。
警察に止められながらも、必死に叫んでいる。
「来ちゃダメだ!!」
「……無理だよ、見えちゃったんだもん……!」
涙を浮かべながらも、彼女は叫ぶ。
「お願い……死なないで……!」
その言葉が、胸を撃ち抜いた。
(……守るって、決めたじゃないか)
龍樹は立ち上がった。
「デュラハン……!」
「来るな、危険だ」
「いいから……俺に力を貸してくれ!」
一瞬、沈黙。
だが次の瞬間、デュラハンの鎧が砕けるように分解し、龍樹の身体へと吸い込まれていく。
「……本当に覚悟はあるのだな」
「ああ……!」
二人の意識が、重なった。
――世界が反転する。
龍樹は見た。
デュラハンの記憶。
かつて戦場を駆け、主を失い、それでも剣を振るい続けた無頭騎士の孤独。
「……お前……ずっと……」
「黙れ。今は戦いに集中しろ」
完全融合――精神リンク。
龍樹の身体から、禍々しくも美しい魔力が噴き上がる。
「行くぞ……!」
空間が震えた。
一歩踏み出すだけで、地面が砕ける。
「――ラ・イル・リンバス・【断界】!」
放たれた斬撃は、街を分断するほどの威力を持っていた。
異形の群れが、一瞬で消し飛ぶ。
沈黙。
風だけが、瓦礫を撫でていく。
第一派、撤退
ビルの屋上。
黒衣の男が、その光景を見下ろしていた。
「……想定以上だな。現人界の適応者」
通信機に向かって呟く。
「第一派は撤退する。次は……“本隊”を動かせ」
彼は、愉しそうに笑った。
…救急車の音。
警察と防衛局が街を封鎖していく。
龍樹は、地面に座り込んでいた。
デュラハンは元の姿に戻り、傍に立つ。
「……助かったのか?」
「ああ。だが、これは始まりに過ぎん」
紗夜が駆け寄り、龍樹を抱きしめた。
「……生きてて……よかった……」
「……ごめん……心配かけた」
その光景を見て、デュラハンは小さく呟く。
「……人間は、弱い。だが――」
少しだけ、声が柔らいだ。
「――だからこそ、強いのかもしれんな」
龍樹は空を見上げる。
(アンチエコノミー……八つの世界……)
そして、確信する。
自分はもう、後戻りできない場所に立っているのだと。