ガチャ
聞き慣れた音と共に、家の扉が開く。
時計はもう既に0時を回っていた。
「まあ、そこまで広くはないけど…。」
「上がって。」
と、俺は手探りで電気をつけながら、湊くんに声をかけた。
彼は少し戸惑いつつも、興味津々で部屋の中へ入っていく。
「へぇ〜、意外と綺麗にしてんだね。」
「意外は余計だ!」
そんな軽口を叩く。
いつぶりだろうか、自分の家で他の人の声がするのは。
ほのかに嬉しさを感じていた。
「さてと………。」
「いろいろ話を聞きたいところだけど、まずは風呂に入ってもらわないと。」
さっきまでゴミ捨て場にいたんだ、さすがに体は綺麗にしてもらいたい。
湊くんは変わらぬ様子で、言う通りに風呂に向かった。
(そうだ、服………。)
たしかこの間、サイズを間違えて注文してしまったトレーナーがあったはずだ。
クローゼットを漁ると、やはりタグも切っていないオーバーサイズのトレーナーが出てきた。
それを風呂場の洗濯機の上に、下着と一緒に置いておいた。
湊くんは鼻歌混じりでシャワーを浴びていて、そんなところは年相応だな、などと微笑する。
「おにーさん、お風呂ありがとぉ。」
ぺたぺたと足音を立てて歩いてくる。
無造作に跳ねていた髪は、濡れて少し落ち着いていた。
「………髪、乾かすからおいで。」
俺はそう言って、膝をポンポンと叩く。
「えぇ…?俺17やで?」
「いーから、早く。」
何か言いたげな顔をしていたが、諦めたように口を閉じて、おとなしく膝に座った。
湊くんの髪は柔らかく、キモいかなーとか思いつつも、ずっと触っていたくなるような感覚だった。
「ん、終わったよ。」
「あり、がと…?」
お風呂上がりのせいか、湊くんの耳はちょっとだけ赤かったような気がする。
怪我の手当ても終わり、やっとゆっくり話が聞ける…と思ったが、時間は深夜2時。
俺も明日は早いし、さすがに寝ないとな、と思い、今夜はとりあえず眠ることにした。
どんな形であれど、客人は客人。
俺の家にはベットがひとつしか無いから、もちろんそっちを湊くんに使ってもらう。
俺はごろん、とソファに寝っ転がる。
明日背中が痛くなる事を覚悟して目を瞑った。
「…おにぃさん……。」
「……んぇ…?」
そんな声が聞こえて、目が覚めた。
時計は4時を回っている。
薄目を開くと、湊くんが不安そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
「……どしたん…?」
「………ねむれない。」
これには寝不足の俺もニッコリ。
確かに、突然の知らない人の家に連れてこられて緊張しない方がおかしい………文面だけ見ると本当に誘拐犯同然だな俺。
さて、どうしたものか。と考えた時、
「ねぇ、いっしょにねようよ。」
湊くんが少し躊躇った様子で口を開いた。その様子は、先ほどの憎たらしい態度とは打って変わって、とても幼く見えた。
ので、つい反射的に承諾してしまった…。
「………いいよ。」
そう返した瞬間、ぱっと顔が明るくなる。
(初対面の人にこんなに心開くものなのかな、普通………。)
自分で連れてきたくせに、変な心配をしてしまう。
………いや、詳しい事情はまだ聞いていないが、もしかしたら湊くんは、今まであまり愛されて育っていないのかもしれない。
確かあの街に、生まれた時からずっと住んでいる、みたいな事を言っていた気がする。
髪を乾かしたり、手当てをしている時の少し怯えた表情は、そんなような過去を連想させた。
まるで、優しくされ慣れていない捨て猫のような………。
あくまで憶測だ。
にしても狭い。
シングルベッドなのだから仕方がないが、ふたり寝るのはさすがに狭い。
「おにーさん、そっち落ちそうじゃない?」
「俺は平気だから、もっとこっち寄ってよ。」
「いや、ショタには手を出せヴヴン。」
「大丈夫だよ、まだ落ちないから。」
すると湊くんは、不満そうな顔をして言った。
「それじゃ意味ないもん。」
「…え?」
「いーからこっちきて。」
そう言って、半ば無理やり引き寄せられる。そして俺は、湊くんの腕の中にすっぽり収まるような形になってしまった。
俺のこと抱き枕かなんかだと思ってない?
「うん、これでよし。」
「いやよしじゃないんだけど!?」
「あーと、おにいさん。おやすみ。」
そう言って、すぐに眠りについてしまった。
恐るべき身長差。本当に微々たる差だが、なんとなくプライドが傷つけられた気がした。
が、今はプライドより睡魔が圧勝している。湊くんの腕の中はあったかくて、俺もすぐに夢の中へと落ちていった。
to be continue…
コメント
4件
俺の…!俺の性癖がっ…!!最高です…